錯覚
険しいケイの表情がいくぶん柔らかいものになる。
ケイの手がピクリと動き、女の手をつかんだ。
そして、ケイは起きた。
*
黒いモヤに飲み込まれたケイは、誰かの手をつかんでいた。
たくましい手。
その手がどんな人物なのか、見えない。
ケイは目を凝らす。
そこで、ケイの目が開いた。
先ほどと同じ青い双眸が自分を覗き込んでいた。
「……ごめんなさい」
栗色の髪の女がぽつりと言った。
先ほどと同じような状況で、一瞬、ケイは自分がまだ環境維持ロボになってたかと錯覚した。
「具合は?」
と聞いてきたのは、ロイだった。
ロイは、ケイが血の涙を流していないので安心していた。
「あぁ」
答えながら、ケイは辺りを見回す。
そこは自分の家で、ケイはソファで寝ていた。そんなケイを心配そうに女とロイが見ていた。
目の奥の痛みや息苦しさが消えていた。
「彼女があんたを治してくれたんだ」
と、ロイは言う。
「ふうん?」
ケイは、この状況がよくわかっていなかった。
起き上がり、こんな事を言ってみる。
「その彼女のおかげで、僕はこんな目にあったんだけどね」
「へえ? やっぱりか」
ロイは、女をじっと見る。
威嚇の意味を込めて、睨むような目つきだった。
「ごめんなさい」
女は怯えた顔になる。
「やっぱり、私のせいだった」
泣きそうな女の顔を見て、ケイは泣かせたらまずいと思った。
この女ではなく、彼女の中に巣くうモノがどう出るか予想がつかないからだ。
「あ、いや、そんな顔をするな。悪いようにはしないと言ったはずだ」
「へえ? あんたが女相手に優しくするとはね」
とロイが言った。
女に興味のないケイが女に優し気な言葉をかけたのが意外だった。
「だから、ずっと彼女の手を離さないんだな」
ロイに言われ、ケイは自分が女の手をつかんでいたことに気づいた。
夢の中でつかんでいた手を本当に握っていたようだ。




