悪夢
何か言おうとしても、頭に血が回ってないのだろう。言葉が出て来ないようだ。
ロイは有無を言わさず、ケイの体をソファへ寝かせた。
余談だが、ガラクタの中にあったそれは、果たしてソファと呼べるものだろうか。
クッションが抜け、背もたれから骨組みがむき出しになっている。
まあ、床に寝せるよりはいいだろう。
とりあえず、ロイはケイをソファに寝かせておいた。
*
黒いモヤが辺りに立ち込めていた。
ケイはなぜ自分がそこにいるのかわからなかった。
黒いモヤが自分に近づいてくる。
「来るな」
ケイは逃げようとした。
だが、モヤがケイの足を飲み込もうとする。
黒いモヤが自分の指に触れた。
それを払いのけようとする。
「僕に触るな!」
やがて黒いモヤに飲み込まれた――。
*
ぼんやりとロイを見ていたケイは、寝ていた。
ロイは、その辺に落ちていた布でケイの顔を拭いてやる。
とても布とは呼べないようなボロ布だが、この家の主なのだから文句もないだろう。
ロイはとりあえずケイを魔法で治そうと思った。
力んで目の裏を切ったとか……? そういう軽い感じの怪我ならいいが。
誰かがケイに攻撃をしたのだろうか。
だとしたら、その人物はベッドに寝ている女ということになるが……
その時、何かを感じた。
はっと振り返ると、ベッドで寝てるはずの女が床に立っていた。
何か声を掛けようと思ったが、妙な雰囲気に言葉が出なかった。
ロイはそこそこ社交的な人間だ。
初対面の相手に気後れして言葉が出ない、なんてことはまずない。
女はじっとこちらを見ていたが、やがて近づいて来た。
ロイはぎょっとした。
女から異様な気配を感じたのだ。
女はロイのことをまったく気にするでもなく、寝てるケイの頬に手を添える。
ロイは呆気に取られ、女を止めることができなかった。
女がケイを魔法で治療してるのはわかった。