治癒魔法
ケイの呼吸が苦しくなった。
ケイは説得を諦めた。
「実力行使するしかないのか」
目の奥の痛み、脳が痺れていくような感覚……
吐き気がしたが、それを堪え、治す。
ケイはヒリヒリした感覚を抱いていた。
一歩間違えば、自分の命が危うい。
思えば、あの時の魔導師もそんな感覚を抱きながらケイの治療に踏み切ったに違いない。(※)
*
ほどなくして。
胸の傷はひとまず治った。
ケイは、一旦、彼女から離れた。
ソレの魔法攻撃がおさまった。
一息つくと、つうと鼻血が出ているのに気づいた。
鼻を手で押さえたが、ぽたぽた血が滴り落ちている。
――カッコ悪い!
そんなことを思いつつ、彼女の目も治す。
先ほどのケイを見つめていた青い目を思い出す。
ケイがそばにいたあの瞬間に、彼女は目をつぶされていた。
その犯人を聞きださなければならない。
そのためにも、
「必ず治す」
* * *
ロイはケイの家に彼女の荷物を置くと、アグの元へ壊れた環境維持ロボの修理を頼みに行った。
アグの態度からして、修理は相当難しそうなのはわかった。
そりゃそうだろう、何せ水晶が粉々なのだから。
「とにかく頼んだ」
そう言い残し、またケイの家に戻ってきた。
家の中は妙に静かだった。
嫌な予感がして、奥へ入る。
ケイはいた。
背中を向けたまま、立っている。
なんだか様子がおかしいような気がして、呼びかけてみた。
「ケイ?」
そこで、ロイはケイの足元の床に血だまりが出来ているのに気づいた。
「あ、あぁ、ロイ君? 鼻血が出てしまって……」
ケイは振り返る。
ケイは鼻を押さえ、ぼーっと立ち尽くしている。
「笑ったら、ただじゃおかないから」
そう言いながら、ケイの目から涙が流れ落ちた。
それも血の涙だ。
ロイはぞっとした。
血の涙が、鼻から出てきて本人は鼻血だと思い込んでるようだった。
「ケイ。少し休め」
「………」
ケイはロイをぼんやり見ていた。
※ 詳しくは『月色の砂漠~長老の野望~』より