巣くうモノ
これ幸いと、手をかざし魔法で傷を治す。
大きな傷ではあったがそんなに難しい治療ではない……はずだった。
「……ぐ」
目の奥に痛みを感じた。
ふと、殺意に満ちた気配がケイに向けられている。
服を破られた女がケイに敵対心を抱いたのだろう。
「おい? 僕はおまえを治そうとしているんだぞ」
だが返事はない。女は眠ったままだ。
ケイは女を凝視する。
ぱっくり、傷口が開き、中から何か気配が覗いていた。
そんなことがあり得るのだろうか?
ケイは今度は傷口を凝視する。
傷口の奥に何かがいた。物理的な何かではない。
それが何かは、はっきりとはわからない。
女の体内に巣くうモノ、それは別人の意識のようでもある。その仕業だ。
どうやら、ケイを敵と見なしてるようだ。
そして、ケイは気づいた。
この女の左手が機械であることに。
肩から、たぶん指先まで、左手のほとんどが機械だ。
機械が彼女の神経と繋がり、血管から栄養を摂取している。
かなりの威力で心臓を一突きされても、彼女が助かったのはこの左手に巣くうモノのおかげだろう。
そうやって、彼女とともに彼女の一部となり、この左手は彼女を守っているのだろう。
ソレは、彼女に対し魔法を駆使するケイを敵と見なしたようだ。
では、この左手に任せておけば、彼女の治癒魔法を施すのか?
そんな期待もしたが、そうではなかった。
左手がケイを攻撃すれば、彼女の息が荒く徐々に弱っていく。
ケイは焦った。
「僕は彼女を助けようとしている。邪魔をするな」
だが、痛みは強くなる。
「邪魔をするなと言っている」
目の奥の痛みは強くなり、喉をしめられるような感覚があった。
「わからないのか。彼女が助からなければ、お前だって……」
目と喉の痛みは続く。
ケイは彼女の肩に手を置く。
喋って通じないことでも、触れれば何か伝わるか期待したのだが――。