汚部屋
※ 不潔な描写があります。
じゃりじゃりした感触。
指先に触れる、いつもの感触。
それを手にしながら、ケイは目が醒めた。
まっさらだったはずのシーツはいつしか破れボロキレになっていた。
裂け目だらけボロキレからとび出た糸を引っ張ると、裂け目は広がる。
ケイは無意識にその糸を引っこ抜き、裂け目の奥に手を入れる。
ボロキレの下のマットレスは既にボコボコで、一部、砂のようになっていた。
そのじゃりじゃりしたマットレスをなぞったり、握ったりする。
ケイの日常だった。
どれだけ寝てたのか、あれからどれくらい経ったか……
長老が自分に全く関心がないのはそもそもわかっていた。
それでも、自分に媚びへつらう姿が面白くて……
その長老が自身の持つ全能力――呪いと毒を駆使し本気で自分を殺そうとした。なぜかそんな長老が愛しく、そんな理由で死ぬのも悪くないと思った矢先。
外からやってきた魔導師クスナ・ク・ガイルに命を救われていた。
長老は全盛期ほどの力がないとはいえ、他所から来た魔導師に負けるなんて…… がっかりした気持ちもあった。
そうは言っても、クスナの能力も相当なもの。
自分の気持ちがよくわからなくなり、考えるのも面倒くさくなった。
だから、また寝ることにした――
*
その家はいわゆる汚部屋だった。
ゴミがあちこちに散乱し、壁や天井にはシミだらけ、所々穴が空いている。
時々、カサカサガリガリ音がするのはネズミかゴキブリだろう。
ロイは、やれやれとため息をついた。
その家の住人であるケイはあいかわらずベッドの中に潜り、外界との情報を遮断している。
「まだ寝てるのか?」
ロイが話しかけても返事はなかった。
不法侵入を咎めるでもなく、ケイは惰眠を貪っている。
「何が不満なんだ? 呪いのかかった怪我を治してくれた導師に感謝するどころか、傷めつけたりして」
相思相愛に見えたけどな、なんてロイはつぶやく。