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恋愛もの

それだけの関係。

作者: Amaretto

 落ち着いた深みのある色の家具で統一された部屋。広くもなく、狭くもないその部屋には、机と、本棚、あとはベットくらいのものしか置いてなかった。女は無言で机に向かっていた。橙色の明かりが、机の上を照らしている。女はピンク色の花模様の手紙を見つめている。手紙は書きかけだった。


 書いてあるのは、「あなたへ」の文字のみ。女は男の名前を知らない。女はじっと机に向かったままで、筆は進まなかった。男に対し、何と言ったらいいのか、わからなかったのだ。



 女が男と出会ったのは、1年前のこと。女が行きつけのバーで飲んでいるところ、男はたまたまそのバーにやってきた。男は女の姿に魅了され、女を誘った。見た目の悪くない男だったため、女もそれに乗った。

 女と男は、互いに自分の情報を語らなかった。お互いがお互いを詮索しないというのは、暗黙の了解となっていた。女と男の関係を繋いでいるのは、身体だけ。それ以外、何もなかった。だからいつでも手放すことができたし、都合の良い関係だった。女も男も、その関係に満足していた。


 回数を重ねるうちに、女と男は、普段人に見せることのない感情をさらけ出す関係にもなっていった。いつしか、お互いにかけがえのない存在になってしまっていた。


 でも、それ以上の関係を望んでしまったら、今の心地よい関係は崩れてしまう。深いように思えて、実は浅い。浅いように思えて、深い。そんな不思議な関係。世間では「セフレ」という言葉で表されてしまう関係。女は、その言葉が嫌いだった。男との関係を、その言葉で表したくはなかった。もっと何か別の、私と彼の関係だけを表す言葉があればいいのに、と女は思っていた。恋人でも、セフレでもない、何か。


 女は男と身体の関係を持ちながら、婚活パーティーに行ったり、出会いを求めていた。男には求めることができない「愛」を求めて。女のことを気に入ってくる人も何人かいて、食事に行ったり、付き合ってみたりした。けれど、どれもうまくはいかなかった。そのことを、女は男に相談する。男は相談に乗るが、自分が女の恋人になることはしなかった。女も、それを求めることはしなかった。今の関係性だからこそ、丁度いい。


 だから、お互いが、このままの関係を続けてくれることを願っていた。だから二人とも、その関係性を変えることはなかった。しかし、二人の関係性は変わってしまった。


 関係性を変えたのは二人ではない。男の職場で、別の部署に欠員が出たという理由で、男の異動が決まったのだ。


 女と男が過ごす最後の夜。いつものホテルで、いつものように、身体を重ねあう。さようならは言わない。愛してるも言わない。ただただ、お互いの性欲を満たす。それだけの関係。



 それ以来、女は男と会っていない。会いに行く関係でもない。会いに行ってしまったら、女と男の関係は変わってしまう。


 それなのに、最後の夜、男は女に自分の行き先を教えた。


 女は、迷う。私たちの関係はなんだったの、と。互いに都合が悪くなったら、はい、さようなら、といった軽い関係だったはず。それなのにどうして行き先を教えてくるの、と。


 女は、男の所に行くのを躊躇った。男は、女が来てくれることを願って行き先を伝えたのだろうけれど、女はいかなかった。これは、神様が下した私たちの関係の終焉なのだと。だから、終わりにしようと。


 女は男に手紙を送ろうと考えた。今までの感謝の気持ちを伝えるために。さようならを言うために。しかし、その手は動かない。



 すぐさようならできるはずの人。身体だけを知っている人。名前も、年齢も、基本的なことは何も知らない人。


 でも、優しい人。温かい人。大切な人。かけがえのない人。離れたくない人。



……愛してる人。



 女は、手紙を手に取る。やっぱり手紙は送らない。女はそう思った。


「逢いに行く……あなたに。」


 女は書きかけの手紙を破り捨てた。



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