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7. ギルシフの国と、二人の男の独り言

ちょっと国の説明回です。

 相手がいよいよ不機嫌になるのを分かっているであろうに、

「あはは、そんなムキにならなくても。」


「ふふ、照れ隠しなのよね?」


「・・・うるせえ。」

一段と低い声が応える。

それにも構わずに、

「おや、照れ屋さんでしたか。存外に可愛らしいのですね。」


「でしょう?」

似通った銀糸の髪の二人は顔を見合わせ、またもやうふふおほほの応酬である。


周囲の困惑も、お構いなしに会話は続いた。


 その中の一人、頭一つ分以上は上背のあるごつい大男は小さく溜め息をつく。


 リ・ムーという魔導師が短気を起こし何かを破壊するのは、決まって王家の人間と直に関わった時なのだと、この元将軍は知っている。

西の城砦然り、城門然り、軍の訓練場然り・・・他にも諸々前例があるのだ。


刀傷の跡の残る厳めしい顔つきが益々険しくなる。

内心頭を抱えていた。


 凶悪な見た目に反して良識的で元々穏やかな性質の彼は、毎度毎度彼等に構われ馬鹿正直に反応してしまう数十年来の友を不憫に思った。


が、思うだけで口には出さない。


下手に口を出しとばっちりを受けるのは正直御免被りたいからだ。


 与り知らぬところではあるのだが、この友人が彼等王家にとって何故か特別なのである。


耐えろよ・・・。

憐憫の目を向けながら、心の中で祈った。


 腐れ縁の数少ない友人且つ元同僚から、そんな目で見られているとはつゆとも知らぬ本人は、怒るより先に疲れがきていた。


五十を疾うに越えたいい爺に可愛らしい、なぞ。

本気なのかおちょくられているのか・・・。

眉間の皺が深くなる。


「お前ら、もう黙れ。」

うんざりした声音だった。


 自分がこの場所に来たくない一番の理由を思いだしていた。

王族こいつらと話していると無駄にくたびれるのだ。

調子が乱される。


先代によく似た容姿のふわふわ、ふらふらして掴み所のない、クラゲみたいな若造と、いつもにこにこ、へらへらしている昔馴染みのこの女。


勿論、只それだけの若造に一国の主が務まるわけがないし、只にこやかなだけの女に近隣諸国との外交(はらのさぐりあい)の要が務まるはずもないのは、よく知っている。


 公と私の落差が驚く程激しい。

有事とあらば、この呆けた姿は豹変する。


何時如何なる場合でも冷徹に処断し、如何なる者であろうとも、必要とあらば冷酷に切り捨てる。

それが頑是無い赤子であろうとも。

血を分けた親兄弟であろうとも。

平然と、自ら進んで手を下す。


実際にそれらを目にしてきた。


 若造だった頃、余りの理不尽さと冷酷さを目の当たりにして感情の抑えがきかず魔力を暴走させ反抗したことが何度もあった。

その度に当時の玉座の主に笑いながら軽くいなされ続けてきた。

圧倒的な力の差で。


庇護すべきものと、それ以外。

一か零かの遣り方。


その考えに強く否やを唱えると、ならお前が我を止めて見せろ、といつかの彼奴は楽しげに言い放った。


その所為なのだろうか。以来ここから離れられずにいた。


王族(おえらいさん)とは、何処でもそんなもんなのだろうか。


 要は、自分のような腹芸の出来ない人間には、高貴な血筋の御方々は何やら底が知れなくて昔からこの場所はどうにも尻の据わりが悪いのである。


 根無し草で身よりもおらず、人並み外れた魔力の強さをいいことに悪さばかりを働いていたまだ子供の時分、ひょんな事からこの王族の一人と知り合い紐付いた。


あの男の、

「お前、面白いな。」

あの一言が、運命の分かれ道だった気がする。


 あれよあれよというまに絡めとられ、何の因果か気付いたら魔導師団の筆頭などというものに据え置かれていた。

なりたくてなったわけではない。

給金の良さにもつられて長々と居座ったのが運の尽き。

以来30余年。


 いろいろ思い返してしまうと、苦々しい思いと相まって余計にぐったり疲れてくる。


これはさっさと引き上げるに限る。と、矛先を変えることにした。


 





─────ギルシフ王国─────


 東に大国ダブトーグ、南にレントラ公国、西には、数多の民族・部族を統合侵略して興った獣人の多く住むティカゾワがある。

そして北には人の踏み入る事の出来ない不可侵の原始の森が広がる。


 ギルシフは、周囲の国々の中にあって、それは規模の小さな国である。中立にして平和的。

昔ながらの農耕、酪農を営む民が大半で、穏やかにしておおらかな気質といわれている。 

 

それ故に大国ダブトーグや好戦的なティカゾワに吞まれてしまいそうなものだが、国の興りおよそ千年。その遥か昔より、周辺に幾多の国が興り滅びゆくなかでも他の侵略を許した事は一度たりとも無かった。

 


深緑色の国の旗に掲げられる、白い龍。

原始の森奥深く、潤沢にして膨大な魔力の湧き出す泉に住まう聖なる龍が、ギルシフ王族の始祖だという。


その龍が人間と番ったのがギルシフ一族の始まりと伝えられている。


 王族の血脈には確かな特徴がある。魔力が強ければ強い者ほどに白い肌、白銀の髪と濃い翠の瞳を例外なく持って生まれる。


その魔力の高さは桁外れといわれ、一族はその身に持つ魔力と脈々と受け継がれ紡がれてきた魔法陣によって、国を民を守り他の侵略を退けてきた。


王たる者は、始祖と同じ龍の姿をとれるのだという。


 人間の侵入を阻む山脈に囲まれた原始の森を背に、それを守り続ける小さな番人。

玉座に御座す真白き龍に護られる国、ギルシフ。





         ©️2018秋雪


おつきあい下さりありがとうございます!

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