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6. 呼び声と天敵と②


「坊ちゃーん。どこですかー?」


聞き慣れた声がした。 

体がふと軽くなる。


はっとして、声の方を向き、反射的に返事を返した。 

「はーい!」


 周りの色が、音が戻っていた。

漆喰の塀に挟まれた緑の多い中庭と、赤茶の屋根の蔦が蔓延る煉瓦造りの小さな家。


いつもと変わらない景色。


「お掃除がすみましたよ。お外で待たせちゃってすみませでしたねぇ。これからお昼を作り始めますからね。その前にお茶にしましょうか。」


リコの返事を聞いて正面に見える勝手口から、ニコニコと小太りのマーチャが姿をみせ、明るいよく通る声で呼びかけた。


いつもと変わらないマーチャの様子に、リコは何故だかほっとする。


掃除のためにしていた手拭いのほっかむりを頭からはずしながら、

「ちゃんと手を洗ってくださいねえ。」

言い足して、彼女はまた家の中に入っていった。


リコはわかった、と大きな声で返事をして彼女の丸っこい背中を見送り、ふ─っと息を吐き出す。

ひょいっともう一度振り返り、じっとその扉を見つめ耳をそばだてる。


「・・・・・。」


今度は何も聞こえない。


うーん?


 祖父の店でおかしなことが起こるのはいつも侵入者があったときだけであったし、今までリコ自身に何かがあったことは一度もなかった。

祖父が店番をしている普段は、魔導書を扱うというだけのただの古本屋なのだ。


 魔術の施された何かに不用意に触れた訳でもない。そういう気配のするものは此処にはないし、それはいつも口酸っぱく言い含められている。

店の中の()()()()()()は外に漏れないようになっている、とかなんとか祖父は言っていた気がする。


ちょん、と首を傾げながら考えた。

さっきの、何だったんだろ?


 まあ、変なことが起こる店なのだから、たまにはこんなこともあるだろう。彼が帰ってきたらきいてみればいいか、と家の中に戻るため、よいしょ、と立ち上がる。

傍らの本を拾うと、ゆっくりと家のほうへ歩きだした。





───所変わって。


呼びかけにぴくりと肩を揺らし、ひたと動きを止めると小さく舌打ちして、その人物は億劫そうに振り返った。


「お久しぶりね、リ・ムー師。ご機嫌いかが?」

嬉しそうに目を細める彼女に、

「最悪だ。」

ぶっきらぼうに答えた。

誰に対しても変わらないその態度に、あいかわらずね、と苦笑いしながら歩み寄る。


「また誰彼構わず凄んで困らせてたの?」

柔らかな問いかけに、リ・ムーはふん、と鼻をならし決まり悪そうにそっぽを向いた。


「まったく。しょうの無いひとね。少しは時と場所を考えなさいな?礼儀や気遣いというものを覚えないとだめよ?一体幾つになるのかしら?」

あきれながら、子供に聞かせるように言う彼女に、

「うるせえな、マルーリア。お前も相変わらずだな。説教ばばぁかよ。」

うんざりと吐き捨てるように答えた。しかも御名を呼び捨てである。


 当の昔に臣籍に下っているとは言え、先代国王の姉姫たる御方に、こちらも不敬極まりない発言だ。

周囲がざわつく。だが、誰も口を挟む者はいなかった。


「んまっ、失礼しちゃうわ、もう!自分だってりっぱなお爺でしょうに。」

慣れているのか然程気にする様子もなく、彼女はくすくす笑いながら気安く軽口を返す。


「ふん。」

フードに隠れた表情はへの字に曲げられた口元しか窺えないが、明らかに勢がそがれている。


 この二人のやり取りも何時ものことらしい。そして、どうやら傍若無人な元魔導師筆頭が何故だかこの貴婦人には強く出られないということも。


 そのやり取りを肘掛けに頬杖をつき、面白そうに眺めていた玉座の主がにこやかにのたまった。

「お二人とも、相変わらず仲良しですね。」


「よかねぇよ!!」


更に不機嫌な声が上がった。





         ©️2018秋雪

お読みくださってありがとうございます!

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