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1話


頬を染めてその秘めた思いを語ったかけがえのない友に


私は笑顔で応える


「大丈夫、きっと叶うよ」



そして


嬉しそうに笑ったその可愛い人を



心底



憎らしく思った。











じわじわと日差しの照りつく初夏の午後、母親に頼まれて仕方なく庭の掃除をしていると後ろから聞きなれた声がかかった


「ひかるぅ〜」


気だるげなその声に苦笑しながら振り向く


「ゆう。」


隣に住む優喜が2階にある自分の部屋の窓から休日独特のだらりとした空気を纏ったままに私に視線をよこしている。


「なに、今起きたん?」


「ん〜昨日大学の先輩がさぁ飲みにつれてってくれたんやけど、なかなか帰してくれんでさぁ」

ぼわんとあくびをしながらもそもそとしゃべる。あはっと軽く笑って「そりゃきちんと断られへんゆうが悪いわぁ」と流すとむっとした顔で反論を返してくる。


「そんなん、先輩の誘い断れるかぁ?」

だいたいなぁぼくは光みたいにはっきりモノよう言わんねん・・ぼそぼそ繰り出される言い訳を軽くいなしてもう一度ほうきを握りなおす。


するとふと真面目な顔に戻った優喜が少し低い口調でたずねてきた


「ひかる、そういえばこの間コクられたって聞いたけど。」



あわあわと離しかけたほうきをもう一度しっかり掴んだ

「いや、はぁ、まぁ・・・」


くそぅ誰だチクリ魔は!胸の中でそう毒づく。


「で?どうしたの」


窓枠に頬杖をついてニコニコと楽しそうなからかい口調で訊いてくる。だけどその眼は少しも笑ってなんかいなくて不機嫌さを隠そうともしない。

少しの怖さと照れを感じて俯いた。


「あ、いや・・まぁ、はい。断りました。」


まだ目を合わせられないままそう言うと


「なぁんや、もったいない。そんな奇特な人なかなかおらんでぇ?」


さっきと同じような明るいからかい口調で憎まれ口が帰ってきた。


思わずむっとして顔をあげるとさっきとは違う優しげな瞳に出会ってしまい、うっかり赤くなったであろう目元を隠すために慌てて片付けるべき土埃を睨みつけた。


最近、こんな風に話をするのにひどく緊張してしまうことがある。

下を向いていても優喜が未だじっとこちらを見ているのを感じとってまた顔が熱くなった。


優喜はまだ私が小学生のころ引っ越してきた1つ年上の男の子だ。はじめてあった頃には私よりずっと低かった背が今はすっかり抜かされてしまい、なんだか男っぽくなって少し戸惑う。



でも、1番の戸惑いの原因はそんなことではなかった。

問題は、彼が私に好意を寄せているということである。


告白されたわけではない。

それらしいロマンチックな会話になることだってない。



大抵いつも先ほどのようなどうでもいい会話をぽんぽんと投げ合う、そんな気楽な間柄だった。


お隣さんだし家族同志仲も良かったので必然とよく遊ぶようにもなった。

頭もよくて運動もできる優喜は私の憧れのお兄ちゃんのようでもあった。


そんな心地よい関係になんだか違うものを感じ取ったのは私が高校を卒業するころ。


ふとした瞬間にこちらを見つめる瞳が真摯なものになっていたり、私の名前を呼ぶその声が「隣のお友達」を呼ぶものとしてはひどく甘いものだということに気づいた。


くりっとした大きな優喜の目が雄弁に何かを物語る。



それに気づいて唖然とし、何かの間違いだろうと自意識過剰な自分を恥じたのがもうずっと前のことに感じる。


その考えを打ち消すには優喜の眼はあまりに正直すぎたのだ。



でもきっと今は何も言ってこない。

その確信も確かにあった。


彼は今私との距離を測ろうとしている。私の気持ちを推し量っているのだろう



「私の気持ち・・・」

塵取りを手にしながらぼそっと呟いた言葉に優喜が「なんか言った?」と首をかしげる。それに曖昧に首を振りながら考えた。


まだ私は優喜への気持ちを自分でも理解できずにいた。

好きか嫌いかで言えばもちろん好きだ。昔からの憧れの人であり仲の良い友達なのだからそれは当然。


「でもそういう好きなのかって聞かれるとなぁ」


途方に暮れる気持で太陽の照りつける空を仰ぐ。ちょっとせっかちな蝉がもう鳴いている。


急に暑さを思い出したと同時に汗がつぅっと首筋を流れた。


「あっちぃ」

「顔真っ黒なんで」


呆れたような優喜の声が耳の奥で蝉のけたたましいラブソングと混じった。



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