メンバー結成!?
メンバーそれぞれで一人称を変えてます。
あたし→夏風 翠
俺→四葉 佳広
私→野山 英人
僕→橘 清秋 です。
「で、誰かあてはあるの?」
と、彼女、夏風翠は俺、四葉佳広に問う。彼女をモデルに、絵を描いていたことがバレ、ひょんなことから彼女のバンドメンバーを探すことになった。
「あてはあるにはあるけど、出来れば話しかけたくない。」
「え〜なんでよ〜」
彼女は、知らない。俺が昔やってたバンドが何なのか…。そして、今俺が、昔のバンド仲間を彼女のバンドに誘おうとしていることを…
「ん〜、まぁ君に似てるかな」
(俺にバンド復帰を訴えてくるところとかな。)
「へ〜尚更会ってみなければ。で、誰なの?」
彼女はすっときょんな顔を浮かべて問ふ。次の答えでおそらく驚愕することになろう事を知らずに。
「野山英人、、、。」
「え〜、野山君ってあのっ!?君みたいな子が関わり合ったなんて。」
(驚くのは分かるけど、それはないだろう。)
-野山 英人-
こいつもまた、完璧超人だ。顔は非常に美しく整っていて、長身のくせに、手足はすらりと長い。去年の文化祭で、ドラムソロをパフォーマンスをした時、そのルックスと技術で、瞬く間に校内上位の有名人となった。
ただ、別にそっち系では無いのに、一人称が私なのだ。そんな、ギャップがいいのか、女子達からは常に熱いエールを浴びている。
「ま、色々あってな。彼には俺から言っとくよ。」
「うん、分かった。それじゃ、また明日。」
以前別れた場所で、今日もまた俺たちは二手に別れる。
家に帰った俺は、1番に風呂に入った。
「はぁ」
風呂に入って1番に出たのは、ため息だった。
今日も一日波乱万丈、彼女といると休息と言うものがない。けど、あいつといる時は、こんな日々を楽しく感じていたと思う。
「戻ってこいよ、KAYO」
光に向かって手を伸ばした。光が手で隠れて、自分の手が闇に見えた。
今の俺も、きっとこんな闇なんだろう。風呂を上がって、自室にこもった。
また視界にポスターが入る。ガルオワの4人組が、ハロウィンの格好をしたポスターだ。
1番後ろに立ってるのがドラムのHANA、かなり長身で金髪碧眼、まるで海外のモデルのようだ。
HANAの前に3人、1番右がギターのKEYだ。
女子にしては少し高めの身長で、黒髪のボブカットで、左目を髪の毛で隠している。そして、彼女の右目は紺碧色に輝いている。
KEYの反対、左側には、ベースのSEYがいる。彼女もKEYと一緒で、少し高めの身長に、ピンクの髪をポニーテールにしている。
真ん中に佇むのは、ボーカルのKAYOだ。
KAYOは小柄だが、黒髪ストレートから覗かせるその顔は、妖艶で艶っぽい。
そんな彼女たちのポスターを持っているくらいには、俺もバンドオタだった。
部屋の角には5本のギター、Fen○erが3本、Gibs○nが2本だ。エフェクターボードは、プロ級の1番大きいサイズので、アンプはBo○○のKTN-50だ。それらはは、綺麗に手入れはされているが、最近弾かれた感じがない。ふと、音楽室で弾いた、ギターの感覚を思い出す。
「久しぶりに、触ろうかな…」
それから僕は、夜が明けるまでギターを弾き続けた。まるで、何かを思い出すかの様に…。
次の日、フラフラな俺に、夏風さんは笑いをこらえきれうなかったようだ。
「どうしたのそのクマ!」お腹を抱えてゲラゲラ笑われた。
朝のホームルームが終わり、1限目が始まる少し前、僕は野山英人にSNSを送った。
「話がある。放課後、屋上に来い。」
短い文章を送った後、俺は夢の中に落ちた…。
ペシペシッ。誰かがオレの肩を叩く。薄っすらと目を開けると、夏風さんがいた。
「やっと起きた〜!もうっ、昼休みに起こそうとしたのにっ!君全然起きないんだよ?」
携帯で時間を見ると、もう放課後だった。
ついでに野山の返信を見る。
「うん、待ってる♡」
(キモっ、こいつ、俺と話さなければいい奴なんだけどなぁ…。)
「野山が待ってる、行くぞ。」
と、待たせてるのはお前だと言いたげな彼女の手を引っ張り、俺達は屋上に向かった。
「…ギィッ。」
少し重たい屋上のドアを開けると、金髪を靡かせる、長身の男がいた。
「おーい、ヒデ〜」
俺がゆるく呼んでみる。
すると金髪の男は、こっちに振り返り、俺に満面の笑顔で飛びついてきた。
「ケイ〜〜、ついにバンドやってくれるんだね。私感激〜、ブベラッ」
言い終わる前に、思わず手が出てしまった。
俺の拳が英人の鳩尾を強打した。鳩尾を抑えて膝をつく英人に向かって、俺はやや冷やかな眼差しで
「いや、俺はバンドやらねぇから。でも、この子が今バンド組みたいらしいから、メンバー集め手伝ってんの」
と、事情を説明し、彼女を紹介する。夏風さん程の有名人を英人も知らない訳がなかった。しかし、彼女がバンドをやりたいと言う意思があるとは思っていなかったらしく、少し驚いていた。
「それで、ヒデは入ってくれるの?」そう言うと、ヒデは夏風さんに聞こえないように「ガルオワの事言ったの?」と聞いてきた。
俺は黙って首を横に振った。
彼は俺の顔をじっと見つめて、夏風さんに向き直り、
「条件がある。実は今日、シュウちゃんも呼んであるの。近くのファミレスで待ってくれてるわ。私とケイ、そしてシュウちゃんの3人を、あなたの歌声で満足させることができるかどうかよ。」
ヒデの顔は真剣だった。彼もそれだけバンドにかける思いがあるのだ。
「シュウちゃんって誰?」夏風さんはシュウちゃんを知らないらしい。
「ベースで誘おうと思ってた人だよ。橘清秋」
-橘 清秋-
学校では、ほとんど無口で、クールな印象。
どこかミステリアスな空気が一部の女子に人気を博している。しかし、誰も知らない、俺とヒデ以外は、喋ると普通のいい奴だと言うことを…。しかも意外とよく喋る。
夏風さんは、
「あぁ、親が書道家の人か〜。でもあの人ベース弾けるの?」と、問いかけてきた。
(待って、なんでそんな人に詳しいの?うちの学校、一学年300人くらいいたよね?あれなの?夏ペディアなの?)
そんな事を考えていると、ヒデが代わりに説明してくれた。
「あいつ中学生の頃、ベースのジュニア部門で日本一なってるよ。」
まさか、そんなに凄かったとは、と夏風さんは驚いていた。
「で、ヒデの条件はどうする?」
「勿論、受けて立つわ!」
彼女の背中に、業火が見えた気がした。
取り敢えず日が暮れて来て、風が冷たくなって来たから、シュウを拾いにファミレスに向かった。
「ま、ここにギターのジュニア部門世界一もいるけど…。」
「え、何か言った?」
ヒデの言葉は、俺達に届かなかった。
「ううん、何でも」
俺達はまた、ファミレスまでの道を歩き始めた。
「よぉ、シュウ!」俺が声をかけると、シュウはこっちを見て、
「やぁケイ君!君もバンドやる気になったんすか?」
茶髪の癖っ毛で、背は俺と変わらない。そんな彼は、朗らかな笑顔を浮かべながら聞く。
(まさに、にへら〜って感じだな)
と、つい思ってしまう。シュウは所々抜けてるが、彼のこの笑顔を見ると、何でも許す気になってしまう。まぁ、学校ではこんな姿などお目にかかれないので、夏風さんはすごく驚いている。
「君って、何者?」
「普通の人だよ。」
普通の人は、こんなに我が校の有名人と知り合い、しかも、仲よさそうなわけなんてない。とでも言いたげなジト目で、僕を睨みつける。そんな彼女をシュウに紹介し、自分はやらないが、メンバー集めを手伝っていること、さっきヒデが出した条件などを、事細かに伝える。
「ちょっと、私の時よりシュウちゃんの時の方が優しくない?」
と言うヒデの発言を華麗に無視して、シュウにどうするかと尋ねる。
「僕もヒデ君の案に賛成っす」
にへら〜とシュウが笑った。そして、今までとは全く違う、無心と言えばいいだろうか。いつもの、学校にいる時の表情になった。
そして、俺に耳打ちしてきた。
「ガルオワの事はいったんすか?」
俺は黙って首を横に振った。
シュウはまた、にへら〜と笑い、
「これからスタジオとかどうっすか?」と提案する。
時間はもう17:30で、空は真っ暗だった。
「もう明日でいんじゃない?」
と、ヒデが言った。シュウ以外のみんなが、うんうんと、首を縦に振る。
「でも、僕は早くみんなの実力が知りたいっす。」
「おい、ちょっと待て。俺はバンドやらないんだぞ?」
「分かってるっす!今日は代理ってことで、楽器は貸してもらいましょう。」
こんなにやる気なシュウを久し振りに見たからか、根負けして、俺達はスタジオに行った。
コーヒー1杯で1時間ほどファミレスにいたため、完全に嫌な客だろう…。今度、メンバーが全員揃ったら、打ち上げをここでしよう。
(あなたもやりなよ)
ふと、あいつの声が、心の中で木霊した。
入り慣れた俺達に対し、夏風さんは終始興奮していた。俺も初めてのスタジオはそうだったなと、昔の思い出が蘇った。
カウンターで楽器を借りて、セッティングをする。
「曲は何にする?あたし、ガルオワと○○○ぐらいなら、何でもいけるよ!」
と、夏風さんが言った。
俺、ヒデ、シュウの3人は顔を見合わせて、声を揃えて言った。
「残響テスタメントッ!」
-残響テスタメント-
ガルオワのデビュー曲であり、初めてのシングルである。TVのcmや、アニメのopなどに使われ、今でも絶大的な人気を誇る。
この曲のイントロはドラムとギターが交互に入り、非常に疾走感のある曲だ。ギターはかなりテンポが早いが、その分コードを単純にしてある。ドラムもその殆どを8ビートと16ビートで組まれており、ベースもギターとほぼ同じだ。そのため、色々なアーティストにもカバーされている一曲だ。
ボーカルは当然夏風さん、ギターは俺、ドラムはヒデで、ベースがシュウだ。
演奏が始まった。ドッと、何かの重圧が夏風さんを襲ったようだ。彼女の足が震えていたが、目はギラついていて、やる気が満ち溢れていた。
そんな彼女を、俺、ヒデ、シュウの3人はアイコンタクトをしながら、観察する。
そろそろAメロだ。
彼女が歌った。思い出せば、彼女の歌声を初めて聴く。
彼女の声を聴いた瞬間。3人の背中に鳥肌が立った。懐かしい、この感覚…あいつとやってた時の感覚だ。
彼女の声は透き通っていて、それでもって要所要所でしっかり力強い。
演奏が終わった。
「いや〜、スタジオってこんなに楽しいんだね!」
彼女はルンルンで、スキップさえしている。
「そうだね。生の音っていいよね!」
ヒデが上手く合わせてくれている。でも、みんな表情には出してないけど、夏風さんの歌に驚きを感じだようだ。
それこそ、あいつの様な才能を感じさせる歌声を持つ彼女に。
それから2時間ほど、僕らはガルオワの曲を演奏し続けた。
「いや〜、初スタジオ楽しかった〜。」
と、夏風さんは背伸びをする。
もう空はすっかり暗く。俺は彼女を送って帰ることにした。
「ねぇ、四葉君もギターそんなに上手いのに、何でバンドやらないの?」
帰り道、彼女が素朴な質問をしてきた。
「もし、自分のバンドの誰かが死んでしまっても、君はバンドを続けられる?」
僕の真面目な話を、彼女もまた、真剣に受け取ってくれたらしい。
「うん。だってそれが、その人の残してくれたものでしょ?なら、守っていかなきゃ。」
そう、夏風さんは言った。
「その子が僕らを恨んで、妬んで、羨ましがってても、新しいボーカルを入れる?」
「そんなことないでしょ、その子もきっと、バンドが続いた方がいいと思ってるよ!」
夏風さんが、俺を励ましてくれる。だが、俺の今まで堰き止めていた思いは、濁流の如く溢れ出した。
「でもあいつは、ライブに来る途中に心不全で死んだんだ!きっと未練たらたらに決まってる!あいつの事を思うと、手が震えるんだっ!今までバンドで演奏しようとすると、毎回こうなってたっ!」
「でも、今日は大丈夫だったじゃない。もし、未練たらたらなら、その時にお化けででてきてるよ。大丈夫、きっと君なら、彼女も許してくれるよ!だって、『ボーカルとギターって、どのバンドでも1番信頼が厚い』って、ガルオワのKAYOが言ってたもん!」
夏風さんが俺の手をとって、両手で握りしめる。
彼女の手が、冷えきった俺の手に温もりを伝えてくる。じんわりと俺の手も温まっていく。
ふと、あいつの笑顔が頭に浮かんだ…。
お前が今の俺見たら何て言うんだろうな。ふと、無意識に流れていた涙を拭き、笑みが零れた。彼女も笑顔だった。
そんなこんなしていると、いつもの別れ道に着いた。
「私、家近いからここまででいいよ。ありがとう。また明日」
そう言って、彼女は夜の闇に消えた。
また耳元で、あいつの声がする。
(ケイ。あんたさっきのはダサかったよ。)
(そうだな。今までで1番ダサかったな。)
(本当よ。今まで最悪のダサさよ。あたしが未練たらたらなのはしょうがないわ。でも、それで私が貴方達を恨むような人間だって、今まで付き合ってきた中で本当にそう思うの?)
(思いません。俺がどうかしてたんだと思います。)
(全くよ!あんた、あたしがどれだけ過去を振り返るなって叫んでも、ちっとも聞く耳持たなかったじゃない!)
(そんなこと言ってくれてたんだ。ごめん、ノイズにしか聞こえなかった。今ならよく聞こえるよ。)
(あんた、あたしの美声をっ…。まぁいいわ、もう一度だけしか言わないから、よく聞きなさい。)
(いつまでも、ウジウジ後ろを見るな。過去には何もない。未来には可能性がある。ガルオワは進化するバンドだ。そのリーダーがいつまでもメソメソしてんじゃないっ!
あんたがいれば、ガルオワはいい方向に成長するんだから。)
(うん、ありがとう。きっとそう言うと今なら思うよ。何で俺はああ思ってたんだろ?
もう忘れちゃった。ガルオワは任せとけ!必ずいい方向に進んで、俺達の夢、ワールドツアーを成功させてやるさっ!!!!)
(全く、決断が遅すぎるわ。ガルオワをよろしくね。それと、もうレディを待たせちゃダメよ?分かったわね?KEY?)
胸のしこりが、消え去った気がした。ふと手を月に伸ばしてみた。俺の右手は、街灯の灯に照らされ、光って見えた。
「ただいま。」
そして、俺も家に着いた。
家に着いてすぐ、シュウとヒデに電話した。
「話がある。・・・・・・・・・。」
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