3 白い手に握られて
まさかキリスト教会で看護婦に血圧を測られるとは夢にも思わなかった。
玲子の白い手が左腕を熱く握った。
筒状のビニールを上腕に軽く巻いてから、彼女は手元の器具を手にとって
親指でスイッチを押した。
微かな機械音とともに上腕が徐々に締め付けられていく。
自分の脈の音が全身に響く。
あくまでも少しずつ締め付けられていく感覚が、なんとも心地よい。
視線を自分の腕から彼女の目に移してみた。
それに気づいたのか、玲子も視線を器具の液晶画面からこちらに向けた。
白い歯を見せて微笑む。圧力が快感を呼び、顔が火照った。
上腕の締め付けはさらに続き、痛みに変わっていった。
腕全体から指先まで赤黒く腫れ上がっていく。
一瞬、器具の故障ではないかと思うほどだった。
玲子の視線は器具に戻ったままだ。もしくは、彼女の故意によるものか。
その考えが浮かんだとき、ビニールの筒が空気音をたてて腕を解放した。
全身の血液が逆流し、止めていた息が鼻から暴走する。
「138の83、いいですね」
その勝ち誇った口ぶりに、故意を確信した。
ビニールの筒を外す時の玲子の手は、冷たかった。
心地よくもあり、よそよそしくもある。
器具をてきぱきと片付け、笑顔もない。
「先生がいらっしゃるまで、しばらくお待ちくださいね」
事務的な口調で退室する。後ろ姿は、より豊満になった。
(つづく)