表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
牧師と看護婦  作者: 平賀譲介
2/4

2 豊満な女体 

  


一人掛けのソファーにドスンと崩れ落ちる。三木牧師の振る舞いは、

すべて横柄に映る。繊細という二文字はどこかで置き去りにしたらしい。

テーブルに手を伸ばすと、親指と人差し指でロングピースを

挟んでそのまま唇の端に加え、

重い据え置き型ライターで着火した。

満足げに吸い込んだ煙を顔面に吹きつけられて、目の前が真っ白にかすんだ。


「私も一本、よろしいですか?」


思い切って懇願した。

曖昧な応答を無視して、つまみ、くわえ、着火して、吸い込んだ。

脳天への強烈な刺激が全身におりてくる。

テーブルのあたりに弱々しく吐きだされた煙を眺めながら、気を取り直す。


大きく深呼吸した後でようやく、

この教会にやってくるまでの経緯を説明することにした。

 発病に至るエピソード、その後の病歴と入院歴、

今現在の心境などをできうるかぎり冷静かつ順序立てて伝えたつもりだ。

これまで繰り返した教会訪問の経験も生かされたのか、

思いのほか上手く話せたように思う。


三木は無表情のまま最後まで話を聞いた。

頷くことはないが、視線は終始そらさない。それは精神科医の顔だった。


「うーん、そうか、あれでしょ?」


話し終えて披露した身には、拍子抜けする反応だった。

「なんていうのかぁ、世間や家族に自分の存在を認められたいんでしょ。

これまでご苦労様、いまはゆっくり休んでいいんですよ、みたいな」


ど真ん中の直球だった。どんな球が来るのかだけに意識を集中していたのは、

明らかに間違っていた。

ただ呆然と速球を見送る自分がいる。


「薬は何を?」


三木はたたみかけてくる。あらかじめ用意したメモを震える声で読み上げた。

今度もやはり予想に反した行動を見せた。

手のひらサイズのメモ帳と小型の極細ボールペンをジャージのポケットから取り出して、

薬の名称や数量を書き写している。こちらからは読めないほど小さな字が、意外だった。



「抗鬱剤は全て切るべきだね、当然だけど」


その通りだった。主治医はそのセオリーを十分に認識していたが、

あまりにも強い鬱症状を訴えるので弱腰になっていたのだった。

抗鬱剤で一時的に気分を上げ(この数カ月はまったく作用していない)、

躁状態になったら投与を中止する。

気分の起伏はますます激しくなる。彼の指摘は、しごくもっともだ。


「ちょっと失敬、信者や患者を待たせているもんで。すぐに戻るからね」


 信者と患者の区別を質問するまでもなく、三木は幽霊のように立ち去っていった。


 それと入れ替わるようにして、別の扉から看護婦が再び現れた。

手には血圧計を携えている。

その豊満な肉体と張りのある声が、悪夢から呼び覚ましてくれたように感じた。


「まずは、血圧を測らせてもらいますねぇ」


何か具体的なものではないが、大きな期待感に襲われた。

それが「まずは」という表現から来るものであることは、言うまでもない。

ここまでシリアスな状況にもかかわらず、このような感情を抱くことは恥ずべきことだ。


彼女はすぐさま顔と身体を近づけてきた。名札には「小川礼子」とある。

礼子は私の腕をとった。

温かい。熱いと言えるほどに温かい。

その手の温もりが、彼女の心から伝わって来たと思いたい。

たとえ、緊張のあまりに腕が冷たくなったせいであっても。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ