第三十三話 転生 親友編
黒、何も感じず、何も聞こえない。あるのは虚無感。果てしなく続いているのか、それとも目の前で終わりなのか。どちらにも見えてしまう、言うなら深淵が妥当だろう、それでも甘いかもしれない。そんな空間に体はなく意識だけがある。
ここは
声を出そうと思うが出なかった。
すると、目の前に映像が広がっていき、やがて空間自体がその映像の中になってしまった。
北におびただしい数の死体。
西におびただしい数の死体。
東におびただしい数の死体。
南におびただしい数の死体。
映像は進んでいく。
ある城の外。さっきの死体を退けただけのような荒野が広がっている。
宙に一人、下に六人。
一人は宙の白いローブを着た男性。
一人は宙の男性と瓜二つの顔の男性。
一人は髪を後ろでまとめた女性。
一人はレビンの父であるステランス。
一人は幼げな少女、レビンの母シリカ。
一人は白髪の少年。
一人は金髪の女性。
瓜二つの二人は同じ魔法なのか最初は撃ち合っているがすぐに宙の方が優勢になる。
巨大な力を前に他の五人も抗うが、一人、二人と倒れていく。
髪を後ろでまとめた女性が殺された時、映像が消え、元の空間が現れる。
映像が戻る。同じ事の繰り返し、やられ方が違うだけ。三回目、少年が操られたのか不自然に味方を攻撃し、一瞬で全滅する。
暗転。
同じ事の繰り返し。
後ろで髪をまとめた女性が少年を泣きながら殺害する。そしてその女性は何かを叫び、その女性を置いてすでに殺されたもう一人の金髪の女性以外がどこかへ消え、一人抵抗虚しく、、、、暗転。
「これで終わり。」
人影が一つ、先ほどの最後に残った女性。
「今は何がなんだか分からないかもしれないけれど、あなたが一番欲しい力を望みなさい。そうすればきっと勝てるはず。
ほら時間がないわ!」
顎門が空間の隅を喰い破ってくる。
欲しい力。
叶うならば、敵からみんなを守れる力。みんなを死なせないための力が欲しい。
そう願うと共に意識は薄れていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『起きなさい、早く!」
二度目の光景。外からはまた一つ肉塊が出来上がる鈍い音が聞こえる。
「状況は分かってる。行こう!」
外に出ると同時に凄い風圧を受ける。今なら元素魔法だと分かる。
「七支刀!」
目覚めて魔力を初めて使う。体の奥底に確かなものが一つ増えている。
「三人とも状況は知ってる!今はこいつには勝てない、逃げるぞ!」
三人と一人がこちらを見て、驚き、戸惑い、興味を示した。
「あれ?レビン君じゃないか。」
「会長。気味が悪い、それ以上近づいて来たら攻撃しますよ。」
「そうか、やってみればいい。」
よし!標的をずらせた。
取りあえず三人と逆の森の中へ入る。
「テンペスト!」
体の周辺に暴風を発生させ、敵からの攻撃から身を守るのと、目の前の木々を吹き飛ばす役割を持つ。
「無駄な小細工は疲れるだけだぞ。」
翼を広げる音と共に空へ飛び立たれる。
強靭な龍の翼を広げ、見下ろし、魔力を集中させている。
「アシッドフレイム!」
巨大な灰色の炎が空中から吐き出された。
「釈天!」
灰色の炎と純粋な炎が衝突し、相殺される。
熱風が辺りに降り注ぎ、熱風に当てられた木々はボロボロと灰となった。
「これで逃げも隠れもできないぞ、四人とも。」
腐敗の熱風は逆方向にいた三人がいるところも余裕で範囲内だったようだ。
「釈天!」
「グラムオーバー。」
放った火の玉は失速し、やがて地面に向かって落下し始めた。
「七支刀、吸収。」
七支刀で落下して来た火の玉を吸収する。
「ふむ、まんまと手の内を明かされたという訳か。強くなったねレビン君。」
「そりゃどうも。成長に免じて手の内全部見せてくれたらいいんですけどね。」
「そうだね。ご褒美に少し遊んであげよう。
ウォーターフェスティバル!」
一つ二つ、、、、一千。
千にも及ぶ水の槍。それが二方向にある。
「釈天!この水は消滅させないとダメだ!」
「ボルケーノ!」
「煉獄鬼火!」
各自応戦態勢に入る。
逃げることは諦めるしかなさそうだ。
「せいぜい頑張ってみてよ。すぐに終わっちゃったら面白くないからさ。」
その言葉で水の槍が一斉掃射される。
釈天の生産スピードは三秒に一個、剣に込められるのは十個まで、それ以上込めると暴発してしまう。
槍の生産スピードは毎秒五本ほど。釈天一個で三十本相殺できると考えれば、こっちの方が有利だ。
「流石だね。次の手を見せてあげるよ。
セイントサンクチュアリィ!」
水の槍の豪雨が、終わったと感じたと共に、眩い光が発せられる。
「なんですかあれは⁈空間が歪んでいる?」
「僕のじゃないけど、喰ったからもう僕のものか。」
「それはなんですか会長?」
「三秒後、生きてたら教えてあげるよ。
三、二、一。」
ジッ。
焼けこげる音がした。腹に大きな穴が空いている。
横を見ると千代さん以外助かっていないようだ。
「みんな⁈」
本人もヤマが当たっただけらしい。なにがあったか理解していないようだ。
しょうがない、新しい魔法を使うか。
「天命ヲ遅延スル者、テメェの攻撃なんざ効かねぇよ。」
天命はどうやら三人ともここまでだったらしい。その天命を延期させた。よって、天命の原因が消えた。
「やるね、でも魔力持たないと思うよレビン君。」
その通り。この魔法は死ぬ直前にしか使えず、魔力消費も半端じゃない。
「どうかな?その前にあんたの命が尽きると思うぜ。」
七支刀を構え、十個の焔が吸収される。
「避けるなよ。はぁっ!」
空飛ぶ龍の人に放たれた斬撃の炎は、焔十個とその剣の炎の威力を兼ね備えている。
「これは中々まずい。餓狼・顎門!」
黒く実体化した巨大な顎門が業火を喰いつくさんしてその門を開けた。
バキバキ!
衝突した空間にヒビが入る。
これ以上火力を出せば暴発してしまう、だけどこのままじゃ。
「弥!煉獄阿修羅・煉獄鬼火!」
これで相打ち。もう一手が足りない!
「御主は誰だ。転生者を仕留めるのはこの私だ。」
一際大きな声がシャルロット達がいる更に奥から聞こえ、その人物が剣を一振り。
ズパン!ズパン!ズパン!
「なっ!」
ジークの魔法が切られ、翼が切られ、足が切られた。
「グギャア!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う!」
「うるさい羽虫め。」
ズパン!
「困るよ。まだ死なれたら。」
っ!龍人を抱え白いローブを来た男が立っている。仮面をしていて顔は見えない。
斬撃は白いローブの男の前で止まっている。
いや、白いローブの男に止められている。
「貴様、よくもぬけぬけと出て来たな!」
泉の体はすぐに標的を白いローブの男に切り替えた。
「久しいね、アモン?」
「殺してやる、、絶対に殺ろす!」
「全力の君ならいいとこまで行けるかもしれないけど今の君じゃ無理でしょ。」
「うるさい!」
ズパン!
「三振りしかできないくせに。まともに戦えると思ってるのかい。」
またもや斬撃は白いローブの男に止められている。
「見逃して、さっさと家にかえれアモン。
ワープ・オブ・フォースメント」
泉の周りを囲むように正方形の檻が現れ、小さくなり、やがて消えた。
「君達も見逃してくれるよね。」
返事をできるものはいない。
首を横にも縦にも動かすことができないほどの重圧。
「ええ、どうぞおかえりください。エデンのただ一人の住人であり、神よ。」
「流石だね君は。エデンから宝剣を奪ったことだけはある。」
「光栄です。たかが十本の内の一つを盗んだだけのことですよ。」
「君とはいつか戦うことになりそうだ。」
その言葉を残し、ゲートで消えた。
弥の一度目の転生魔法は天命ヲ遅延スル者になった。
一度の転生で乗り越えられたのは幸運と受け取るのか、転生魔法を使ってしまったと受け取るのか、それは誰にも分からない。




