第三十一話 消滅 親友編
「起きなさい弥。起きなさいってば。」
「ん、もう少しいいだろ。」
まだ太陽が昇り三時間ほどしか経っていない。
「号令が聞こえなかったの?魔王が単独で攻めてきたのよ!」
ガバッ!
少年は布団から飛び出し急いで小屋から出ようとする。
「待って。寝起き直後に魔王と戦闘なんて何を考えているの!」
「お願いだ行かせてくれ!」
「だ、ダメよ。貴方を死なせたくない。」
「負けるとは決まってないだろ!」
「だって、貴方は魔王になった親友を殺せるほど割り切れる人じゃない。決してそれは悪いことではないわ。だから行かせない。」
「お、俺はもう一度親友と話がしたかった、、それだけなんだ。」
泣き顔で助けを求めるような目で見てくる彼を彼女はどうすればいいかが分からない。
「ごめんなさい。」
彼は首元に手刀をくらい床に倒れこむのを彼女が支え、布団の中に入れた。
そして小屋を出て外に出た。脅威が直ぐそこまで迫っていると知らずに。
『起きなさい、早く!』
「はっ!シャルロットは?」
はっと目が覚め、小屋の中を見るが彼女の影はない。
『つい五分ほど前に小屋から出て行ったわ。』
グシャ。
外から聞こえた不可解な声に耳を傾けながら布団から降りる。
「な、なんだ今のは⁈」
『戦闘が始まったのよ。敵は不明、単体よ。魔王ではないわ。』
「何者なんだよっ!」
バン!
風圧で小屋の玄関が吹き飛んだ。
「おい、なんだよこれは⁇‼︎」
地獄絵図、そう呼ぶに相応しい光景だった。
地面が血の色、一色に染まり中心に男が一人立っている。
「七龍帝か⁈」
『違う、その次元を超えているわ!シャルロット達が危ないわ‼︎』
血一色に染まった中央から十メートルほど離れた所に三つの影がある。
シャルロット、千代、セフィラのものだ。
「七支刀‼︎はぁっ!」
直ぐに瞬歩を使ってまっすぐ敵へと向かって行き、剣を振り下ろす。
八個の焔を全て刀身に飲み込み、威力を最大限に上げている。眩ゆい光を放っているが、それを見ることができる兵士はもうほとんど残っていない。
「だめっ!離れて!」
真っ先に気づいたシャルロットが止めようとするが時すでに遅し、剣先が敵の攻撃手段にに触れてしまった。
「喰われっちまえ!」
全てを飲み込み自分の物へと変えてきた漆黒の顎門が剣先から喰らおうとする。
他の三人の攻撃も、兵士の攻撃も喰われてしまった。
バキッバキッ!
接触している空間に亀裂が入っていく。
「なんで喰われてない⁈」
「何言ってんだ?
っ⁈お前、ま、まさか会長⁇」
赤黒く髪は変色しているが、その顔は間違いなく生徒会長、ジーク・フランだった。
「会長、、うんそうだよ。レビン君。」
嘘の様ににっこりと笑いかけて来る。が、そんな爽やかな笑顔とは反比例して力が強くなっていく。
「離れるのじゃ弥!其奴は危険すぎる!」
ザッ!
一度引き、もう一度ジークを見る。
よく見れば手足の隙間から鱗の様なものが覗き見え、背中には翼が折りたたまれている。
明らかに目が彼のものではない。
「レビンや、シャルロット、名の知らぬ二人よ。力が大き過ぎて体と精神が追いつかなかったが、やっと精神が統一され力を自身のものにできた様だ。其方達との遊戯のお陰だ、礼を言う。」
おびただしい量の血が流れているが、彼自身は返り血を全く浴びていない。
三人の魔力もそれなりに消費されている。そんな激闘を彼は遊戯と一言で片付けた。
「今確証が得られたわ。彼は帝国の最終の切り札になる予定だった男。七つの大罪魔法の一つ、奪喰化身魔法を持っている、効果は絶対不可侵の亜空間を持つ化け物を操り、完全捕食した魔法を自分の物へとするわ。」
「予定だったってどう言うことだ?」
少し俯いて、悲しげな表情になり。
「年少期からの実験と言う名の拷問によって精神破綻して手がつけられなくなったの。だから力を封印したはずだったのに。」
「よく知ってるな。ああ、そりゃそうか。
お前も同じだもんなぁナンバーゼロ。お前が能力を発現し切らなかった所為で俺の実験に熱を入れる様になったもんなぁ。」
「ナンバーワン。君を助けられなかったのは私達の所為だわ。けど!それとこれは別の話よ。この数分間ひたすら殺し続け、貴方はそれをなんとも思っていない!」
「別に責めてる訳じゃない。それにお前ら全員も今直ぐ殺してやるっ!」
「させるか!」
ガキ、バキッバキッ!
「なんでお前ごときの魔法で止められないといけないんだっ!」
急に炎の玉が数個現れ、至近距離から狙われる。
「これは元素魔法か!」
同じ魔法で相殺しようと試みる前に氷の剣が飛んで来て炎の玉を消滅させる。
「私達を忘れてもらっては困るのう?」
「はぁっ!」
後の二人も剣で斬りかかる。
が、突然目の前から鋭く尖った水の槍が飛んでくる。一人に向けて一本ずつ、全員が攻撃をやめ躱す。そのまま水の槍は後方へ飛んでいく。
グサ、グサ、グサ、グサ
「くそっ!元素魔法じゃないのか!」
四人とも見事にふくらはぎを貫通され、血を流している。
「回復魔術を!」
千代とセフィラが魔術を使い、四人のふくらはぎが光に包まれる。三秒ほどで応急処置がされ、目の前の敵はその様子をゆっくりとみている。
「魔術の心得があるのか。セフィラさんと千代さんは回復魔術に専念してください!
俺とシャルロットで攻めます!」
敵に向かう少年と少女にまた水の槍が襲いかかって来たが、少年と少女はそれぞれの剣で切り裂く。純粋な炎と修羅の炎は水を完全に蒸発させ、敵に襲いかかる。
「無駄な、グラムオーバー。」
「それはっ!魔王の魔法と同じじゃ!」
二つの炎は地に這い蹲り、消滅した。
「「はぁっ!」」
七支刀と神魔刀が空間に止められる。
「さっきと違う⁈」
魔法が喰われるのではない。距離が長過ぎて届かないのだ。一メートル先にいる相手に、
「空間調節魔法。この一メートルは無限に続いている。」
「シャルロット一旦引くぞ!」
「ええ。ん!剣が動かない⁈」
「剣の周りの空間を拡張しているお前達がノロノロしていた時にな。」
漆黒の顎門が現れまっすぐ向かってくる。
「さらばだ。」
グシャ。グシャ。
儚くも二人の命が散った。跡形も無く喰いつくされ、地面に血痕だけを遺して消えた。




