第三十話 奇襲 親友編
「おかえりなさい。事は済んだの?」
夜が開けようという頃、どこかの洞窟に男女二人がいる。
「ああ、おおよその見当はついた。
問題は魔王さんがちょっとした知り合いだったことかな。」
火を挟み少し深刻そうな顔で目の前にいる女性に今日の収穫を説明している。
「そう、それは予想外の知り合いだったの?」
「いや、予想はしていたよ。何せ弥をこんな世界に連れて来たやつだからな。」
確かな怒りが見て取れる。それは知り合いに向けられたものではないことはもう分かる。
両腕を失った戦いで世界を救った時、その世界は魔力のない世界へと変わってしまった。
そう、まるで元々いたあの世界のように。
その世界で知ってしまった真実は誰もが知らない、知るべきではないものだった。
たとえ今の幸せが仮初めの物であったとしても。
「んっ⁈これは⁈」
男が見ているのは自身の能力を使っても覗くことしかできない世界。
そこにはかつて普通に存在していた物が、再び世界に充満し、時間の流れが元に戻った世界があった。
これは魔神の復活の紛れも無い兆候だった。
「なんかこう、、朝日が出てくるときに寝るってのはおかしな感覚だな。」
「寝ておかないと支障をきたすわよ。」
『そうよ。ただでさえ無理をしてるのに。』
「そうだな。じゃあおやすみ。」
しかし、相手は元々人間の魔王、その事はすっぽりと頭から抜けていた。
「ふぁ〜〜。見張りっても来ねえしなぁ。
はあ、ねむてえ。」
見張り台に男が三人皆眠たそうに目をこすりながら見張りの仕事をまっとうしている。
「そうか、そんなに眠たいなら寝てもいいぞ。」
「マジで⁈本当にいいの、、か。
うぁ!誰だっ!」
愚痴に答えたのは後の二人の声ではなく、新たな一人の声だった。
人間の兵士の格好ではない。どこぞの魔王が着ていた服装に似ている
「永遠に眠らせてやるよ。」
ザス、ザス、ザス
三度、肉が裂かれる音が明るい太陽の下で行われた。
「警戒も何もないな、、これで最後だ。」
ザス、ザス、ザス
全ての見張り台を落とし、城壁の上から下を見下ろす。
「天ノ法則ヲ無視スル者、、世界を破壊する。」
兵舎替わりの小屋が次々と宙に浮いていく。
「潰れろ。…次だ。」
かつての親友がいる本陣の右翼の兵士、一万の軍勢がほんの数秒でただの残骸となった。
魔王は迷わず真っ直ぐと本陣へ足を進めた。
「お休みのところ失礼します!
て、敵襲です。」
「何⁈戦力は?被害はどのくらい出ている!」
「戦力は一人、右翼が、、か、壊滅しました。」
「全軍‼︎今すぐ戦闘態勢に入れ!敵の王がお出ましだ!」
急いで拡声器で号令をかける。流石は本陣かすぐに戦闘態勢に入り、迎撃の準備を整える。
一時間前、、
「将千代殿はおられるか、面会を申し込みたい。」
「何者だ。内の兵士ではないな。」
「ええ、私は夏目 伊織という者です。」
「しばしここで待て。………許可が下りた、面会を許可する。」
「ありがとうございます。失礼します。
お休みのところすみません。」
「いや、構わないですよ。で、何用で?」
「少し気になる事がありまして、今までの戦争が二夜で全て終わったというのは本当ですか?」
「ええ。報告では、略奪までもが全て二夜の内に済まされたと、未だ信じられませんが。」
「そうですか。一応ですが兵士をこの本陣に集める事は出来ますか?」
「可能ですが、理由を教えてください。それなりの理由がなければそんなリスクは犯せません。」
「勿論です。彼は、魔王は人間です。太陽の下でも普通に活動できるでしょう。」
「ま、まさか!そ、それが本当ならば急がなければ!」
「ええ、ですので早急に兵士を本陣に集めてください。上手くいけば、敵の手の内が少し分かるかも知れない。」
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「まさか、本当に来るとは。しかし、右翼の被害はないはず、、」
「ええ、兵士は全て幻影です。しかし、思ったよりも情報が得られなかった。奴の異能は『天ノ法則ヲ無視スル者』建物が全て浮いたと思ったらそのまま潰されました。」
急に男女が現れ急いで戦闘態勢に入ろうとするが、自身の姿を見て慌てて布団のシーツで体を隠す。
「伊織、御主欲情してる場合か!」
横の女性が男の頭を容赦なく叩く。
そう、着替えの途中だった将は、下着しか身につけていない。男はそれを平然と見ながら話をしていたのだ。
「よ、欲情なんかしてねぇよ。そりゃいい身体してるとは思ったけどな。」
銀髪に赤の眼、この世のものとは思えない美女が頬を膨らませ叩こうとしている。
「な、何を言ってるんですか⁈いい加減向こうを向いて下さい!」
「ああ、すいません。セフィ、あの筋肉を見ろお前も筋肉つけた方がいいぞ、結構近接もいけるんだからさ。」
「ふん、私には必要ない。それに私の魔法はどう見ても遠距離用じゃ。」
なんだ、筋肉のことか、、、いや、別にいいんだけどさ、もう少し恥ずかしがって欲しかったり、、って、何を私は?
「で、どうしますか?」
着替え終え、武装した状態で改めて向き合う。
「勿論ここでうちます。魔王がいなくなればこっちが勝ったも同然です。」
「そうですね。奴は、空間系、重量系、切断系は最低でも攻撃手段として確認しています。手の内のどのくらいを見せてくれたかは分かりませんが用心して下さい。」
この男は何の情報も無かった魔王の力をここまで暴いている。本当に何者なのだろうか。
「それに、無駄に兵士を当てても無駄でしょう。そうですね、先鋒は私達に任せてもらえませんか?夜までに大勢の兵士を失うわけにはいかない。貴方は今日の夜の戦の指揮を取ってもらわないといけない。」
「そんな⁈貴方達がわざわざ危険なことをする必要がないでしょう!」
「御主には荷が重いと言っておるんじゃよ。」
「私はこれでも三将の一人です!馬鹿にしないで下さい!」
「そんな事に頼っとる時点でもう底が知れるのう。」
「そこまでだセフィ。千代殿、どうかお任せを、あの少年、魔王は私の世界の人間です。けじめは私達でつけさせてもらいたい。」
「自分の息子と同じ歳頃の子供を殺められるのですか?」
「私も弥も、例え親友だとしても殺す覚悟はできています。」
「ま、まさかあの子がそんな決断をしたと、、、分かりました。お願いいたします。」
「いえ、許可してくださってありがとうございます。」
男女はそのまま小屋を出て戦場へと向かう。
取り残された将は自身の絶対障壁が破られたのを感じ、兵を避難させるために動き出した。
「本当にアマネに伝えなくていいのかのう。」
「どうせすぐにバレるさ。流石に息子とその親友を殺し合いさせれるほどの覚悟は持ち合わせていないもので。」
「そう言ってる合間にお出ましじゃ。」
「気合入れろよ、やられるぞ。」
二丁の銃を構え、目が鮮やかな血の色に変わってゆく。
「お前は昨日の、、そうか思い出したぞお前は死んだはずの弥の父親か。殺す理由ができたなっ!」
地面を蹴って移動する。その動作にも力の法則はある、少し力のベクトルをいじると驚異的なスピードをだせる。
「速いぞよ。」
「分かってるよ。言っただろ本当に法則を操るなら何ができてしまうか分からないって。」
左右に散って避け、火の剣と音速を超えた銃弾をすぐさま飛ばす。
しかし、どちらも標的に届く前に地面にめり込んだ。
「無駄だ。」
「そうらしいな。」
「まあ、幻影だけどな。」
「何っ⁈いつの間に。」
目の前にいたはずの相手がいつの間にか死角に潜り込んでいた。
ドカ。
背後から蹴りを入れられ真っ直ぐに飛んでいく。
途中で宙に止まり、地面に足をつけると同時に手のひらから剣を取り出し斬りかかる。
「全く、デタラメな剣速だな。」
「チッ!何で当たらない。」
空気抵抗をなくし、振り下ろす瞬間に重量を上乗せする。いくら戦い慣れした人間でも避け続ける事が出来るはずがない。
「よそ見のしすぎじゃぞ。」
多数の炎の剣が飛来する。避けようとするが足が凍りついて動かない。
「ふん、効かないな。」
全てが宙で消え去る。
「今のは真空か、魔力は足りるのか?」
「うるさい!」
また斬りかかってくる。吸血鬼のスピードでも逃げ切れない。
「痛いじゃないか。」
手を斬り落とされ、ぼやく。
「道化め。」
男はわざと少年の太刀を受け、落ちた砂鉄で固められていた手で攻撃するはずだった。
「いやいや、ばれちゃったな。」
半径二メートルほどの球の中の重力が強くなる。
すぐさま男は転移して女の横に現れる。
「相手に物理攻撃は効かないのう。そろそろ銃弾撃つのやめたらどうじゃ?」
「そうだな。魔力ほとんど使わないから良かったのに。」
一瞬体がビクッとなり、空間から宝剣を取り出す。
「エデンの掘り出し物だぜ、、、セフィ、ここは任せて弥のとこに行ってくれ。あいつがやばいかもしれない。」
「分かった、御主も気を付けろ」
直ぐに森へと消えて行くがそれを魔王は追おうとしない。いや、目の前の男がそれを許してくれない。
「おい魔王、お前には魔神の在り処を聞かせてもらうぞ!」
「グハッ⁈」
蹴り飛ばされた時よりも遥かに後ろに飛んで行く。宙に止まり剣を構える前に剣を持った手を斬り落とされる。
「ぐ、グァァ!なんだそのスピードは⁈」
空気抵抗をなくして移動していた少年よりも数倍速いスピードで向かってきた。
そして異能を行使する暇もなく片腕を斬り落とされた。
「体には電気が流れていて、それを早めている。そんな感じだっ!」
転移し、後ろから腹に剣を刺される。
そのはずだった。そこで少年の意識は切り替わった。
「何者だ。その速さ、神速に勝らぬとも劣らん。」
「こっちがお前に聞きてえよ。」
ガキン!再び転移し斬りかかるが、剣で止められる。
「我の神名はアモン。控えよ名無き英雄よ。其方の力は脅威だと我が認めよう。誇るが良い。」
「アモン、、一つ確認したい、お前が、地球、アースの神か。」
「いかにも、アースの神のアモンである。」




