第二十九話 変化と成長 親友編
「くそ!数が多い、きりがないぞ!」
「一度下がる?」
彼らはA級の魔物を一撃で倒しながら前へと進んでいる。
「いや、このまま突っ走る!」
また一段と彼のギアが上がる。
一日前までの彼とは似ても似つかない闘志だ。
「ペース早すぎよ!」
ピタッ。
「そうだな、先に行ってくれ。早く‼︎」
爆走していた彼が急に止まる。
彼女はまだ状況が把握出来ていない。
「何が⁈」
ガキィン!
「よく守ったな。名を聞いておこう。」
空から悪魔の翼を持った魔人が彼女めがけて小太刀を投げた。
「夏目、夏目弥だ。お前が魔人か!」
「いかにも。魔将ギーラ様の一番隊隊長のカルバラである。いざ尋常に勝負!」
「シャルロット!周りの奴らを頼む!」
Aプラス級の魔物が五体。
普通の学生が相手のできるものではないが、
「ええ、直ぐに終わらせるわ。」
彼女は自身の神名と共に自身の枷を外す詠唱をする。
彼女は殺戮の才能があった。
戦闘は確実に相手を死に追いやる作業だった。しかし、彼女の力は彼女の若い体で耐えられるものではなかった。彼女は本当の力をある人に封印された。
つい先日、枷の鍵は自身に預けられた。
詠唱を終えた彼女の体は修羅の炎で輝いていた。
「報告します!例の彼らが魔人と遭遇しました。」
「魔人の詳細は?」
「ギーラ一番隊隊長のカルバラです。」
「ギーラか、相性は悪くないか。
監視を続けろ。」
「はっ!」
報告に来た男の姿が見えなくなると、彼女は大きな溜め息をはき、
「すまないな二人とも。まだ私が出るわけには行かんのだ。そっちに回せるほどの人材もいない。」
彼女の主力は先の戦争で一人として残っていない。
もう一度溜め息をはき、まっすぐと前を向いた。
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「それにしても何者だったんだ。
奴は俺の異能、真理ヲ無視スル者の亜空間に入って来やがった。」
いつも何故か来てしまうどこかの地下の一室。古びた研究所。
「それに記憶が曖昧だ、、、」
どんどん虚ろな目に変わり、やがて光を無くした目は、研究所の一室の奥、鎖が巻かれた棺桶の前に立ち鎖の鍵の部分に魔力を流す。
そして瞳の光が元に戻る。
「またか。ここはどこなんだ。まあいいか。」
そう言ってある戦場へ飛び立った。
その時彼の後ろで何十本目にもなる鎖が崩れ落ち、遂に後一本となった。
その事に、その事の重大さに気付いているものは、この時誰もいなかった。
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「やるな!俺の異能、鍛治ヲスル者をここまで耐えるとは。それに同系統の異能のようだな。」
空中で少年と魔人は互いに創り出した武器で撃ち合っている。
しかし、少年より魔人の方が数手多く、少年は手に握る双剣で斬り落としている。
力量は拮抗しているように見えた。
「そうか。俺、本当は異能が二つあったんだ。けど、一つになったんだ。よく俺も分かんないんだけどな。
そろそろ本気で行くぜ!」
「来い!」
魔人は答えると今の倍近くのスピードで武器を創り出す。
「森羅万象ヲ創生スル者、
神器・七支刀!」
一本の剣から左右に三本ずつ枝刃が出ている。刀身は約二メートルあるが本人に重さは感じない。燃え盛る炎で創られた刀だ。
背中には八個の焔が宙に浮いている。
まるで小さな太陽を従えた神のようだった。
「あっ、あの輝きは⁈」
「危険です!みなさん下がりなさい!」
「千代様、どうされますか?」
「彼なら巻き込むこともないでしょうが、
念のためです。万物ヲ止メル者、絶対障壁」
透明で絶対なる障壁が、味方の兵と敵の境目にでき、魔物は障壁内に入って来られない。
ワァーー!
大きな歓声が上がり、兵士達は太陽を従えた少年を見やる。
「それが貴方の本気ですか。行きます!」
「ああ勝負だ!」
バシュッ!
炎の七支刀に触れる前に剣達は溶け落ちてしまう。
「ああ、ギーラ様、貴方の願いを叶えたかっ、、、」
ここに最初の大きな戦いが終わった。
一番隊隊長対少年の戦いは少年に軍配が上がった。
「シャルロット!大丈夫か?」
「ええ、なんとかね。」
彼女も大きな傷は見られない。
手には妖刀が握られている、紋様も出ていない。
「少し暴れる!」
手を掲げると八個の焔が手の方に上昇してくる。
「釈天!」
八個の焔がそれぞれ地上の魔物に向かって飛んで行き、死体の隅から隅まで焼き尽くしそこに魔物の残骸は一つも残らなかった。
はずだった、、
「なんで届いてないんだ!」
途中で氷の矢によって狙撃され、そこで互いに消滅してしまった。
「もう一度!」
彼の背中にはすでに八個の焔が生み出されている。
『待ちなさい。よく見て見なさい。』
言われた通りに遠くを見ると、まだまだ魔物が待機しているその上空、ここから一キロほど先に浮かんでいる影がある。
シュッ!
「あんなとこから狙撃されてんのか!
なんてやつ、手の出しようがないな。」
正確に三本の矢が飛んできた。
それを躱すと、その後ろの絶対障壁に当たり砕け散る。
「あれがギーラね。氷獄ヲ支配セシ者。
厄介極まりないわ。」
「一度下がろう。どうせ日が昇ると奴らは逃げるだろう、もうすぐ日が昇る。」
「ええそうね。戻りましょうか。」
「で、この世界に来たことで魔力が混ざり、魔法が異能になったと。」
「ああ、精霊王はそう言ってた。 能力の内容はさして変わらないけど、魔力の消費は減るし、だから更に大きな技も使えるようになった。」
「やっぱりね。私も少しおかしいと思ったのよ。いつもと同じ消費量なのに威力が全然違ったから。Aプラス級五体に奥の手使わずに勝てるはずがなかったからね。」
「で、異能名は調べたのか?」
「ええ、さっき千代さんに手伝ってもらってね。」
「で、なんだったんだ?」
「煉獄ノ妖魔ナリシ者。女の子に不恰好な名前だわ。」
「はは、そう言うなって。こっちの世界の方が魔力の質が高いからなんだから。」
コンコン。
「失礼するよ。今日はお疲れ様、二人ともとてもいい動きだったよ。」
「ありがとう千代さん。最後に狙撃して来たのがギーラよね。」
「ああ、奴の異能はあんなものではない。
奴が参戦してくるまでに数を減らしたい。」
ヒュン!
「よっ!久しぶりだな。弥。」
急に現れた男に弥以外の人が警戒態勢に入る。戦争中に広場の真ん中にいきなり人が現れたら誰しも警戒態勢に入るだろう。襲い掛からなかっただけマシとするべきだ。
「親父⁈なんでここに?」
「まあ、調べたいことがあってな。」
「よかった。これでアンセムに帰れるぜ。
セフィラさんも来てるのか?」
「ああ、その内会えるんじゃないか?
それより、さっき泉くんに会ったぞ。
立派に魔王してたな。」
「っ⁈どこで!どこで会った⁈」
「ちょっ落ち着けって。あの子は別空間にいたよ、立派な城の中にな。」
「そ、そうか。じゃあ出てくるまで待つしかないのか、、」
「まあ、そうなるな。こっちの調べ物も状況次第では中断しなきゃならんかも知れない。」
「調べ物って何なんだ?」
「魔神。その復活の阻止だ。」
「魔神⁈そんなあれはとうの昔に倒されたはずでは?」
焦った顔で話しに割り込んできたのは、千代さんだ。部下達も驚いた顔をしている。
「伝承にあるのは、一つ目の鬼ですか?」
「ええ、異界の者が倒したと。」
「一つ目の鬼は魔神の手下で、魔神には遠く及ばない。」
「そ、そんな化け物を誰が封印したのですか?」
まっすぐ見ていた視線を少し逸らし、もう一度向きなおる。
「分からない。それが現状です。
しかし、各地の伝承からするにこの世界にあるはずなんですよ、魔神の本体が。」
「いつ復活するとかも分からないのですね。」
「ええ、何しろ本体が見つかりませんから。
しかし、伝承があるんですよ。伝承を書いたのが誰かは分かりませんが。
『世界が一つに統合される時再び悪の化身が蘇らん』とね。」
怯えた様子の将は部下の前でこれ以上取り乱すのは控えたいのか、必死で言葉を飲み込んだ。
それ以上追及されなかったこと、妙に不可解なことに気づかれなかったことに安堵を感じ、ホッとした男は、挨拶をし、またどこかへ消えた。
息子は自分の父親に頼まなければなかったことも忘れて、その場に立ち竦んでいた。




