第二十一話 遠足当日! 帝国崩壊編
遠足の日、、
「みんな集まりましたか?それでは行きますよ。」
登校するとそれはそれは一段と騒がしかった。一緒に回る五人で集まり、王城のことを話して盛り上がっていた。
王城は普段から入れる訳もなく、今日も人が働いているところを見るだけだ。
王城の敷地内には、王城、帝国魔法師団の本部、帝国騎士団の本部、王家専属寮、プラニエータ教会がある。
今日は王の公演が王城内であり、それに参加できるらしい。
天候は遠足日和とはいかず、暗い雲に覆われていた。
「どこから見て回る?」
主に議題となっているのはこの話だ。
王の公演が終わった後、昼食をとりその後一時間の自由時間がある。その時はどの職場を見てもいい貴重な機会になっている。
と言ってもA組からD組まで、総勢約百二十人だ。そんな大人数が自由に王城の敷地内を動き回ると、とてつもない迷惑になるので先生が進路誘導ぐらいしているだろうし迷子になることもないだろう。
「私は帝国騎士団の本部に行きたいわ。」
そう言ったのはシャルロットだ。
「騎士団を目指してるのか?」
「いえ、知り合いが勤めているのよ。
だから少し見て見たくてね。」
その時のシャルロットはその人を思い出していたのか少し寂しそうな目でこっちを見た、
そんな気がした。
結局、魔法師団の本部と騎士団の本部に行くことになった。
王城まではもちろん徒歩だ。
そのためこうして雨が降ってきた今、生徒も濡れながら走るしかない(もちろん魔法で防げる者は防いでいるが、面白がって他の人をカバーする気は無いらしい)。
「どうもありがとうレビン。」
グループで集まって歩いているので、俺の周りの四人の頭上に強めの上昇気流を発生させ、雨を防いでいる。そのため俺含め五人の頭上には水溜りが出来かけていた。
「便利だよねレビンの魔法は。」
まだ魔法が使えないエリスが悲しげに笑う。
ここ最近、特に入学してから彼女は自分の魔法を使いたがっていた。心力の鏡を使っても名前とよく分からない『末裔の血筋』としか出てこない。
「その内エリスも使えるようになるよ。」
こう慰めてはいるが、魔力は十分平均以上はあるし、なんで使えないのか全く分からない状況だ。
彼女の悩みを解決する手段を知っていそうなのは森で出会った賢者しか心当たりがない。
エリスも賢者のいった試練の内容を全く覚えていない。
「おっ着いたみたいだな。」
王城の門。雨を一切よりつけずしっかりと構えている。
「第一魔法学校、一年生の皆様ですね。
雨によって濡れてしまった方もいると思われます。脱水室を用意していますので着いてきてください。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って案内してくれたのは地球では滅多にお目にかかれないメイドさんだ。
服装は地球のメイド服と変わらない(もちろんスカートはくるぶしほどある。)。
「凄いね王城自体に結界が張られているんだね。」
アレスの言う通り、王城敷地内に雨水は入ってきていない。
「「「おー!」」」
門を通った生徒が例外なく驚きの声を上げている。
門を通ると同時に景色が変わった。
そこには外から見るより明らかに立派な城や、大きな教会、大きな建物が四つ見えた。
『あれ、結構強い結界が張られているわね。』
『皆んなには見えていないのか?』
『ええ、たぶんね。私でもあの結界は破れないと思うわ。』
結界を破る方法は二つある。
一つは術者を倒すこと。
もう一つは術者を上回る魔力(術者の約一.三倍の魔力)をぶつけることで破ることができる。
妖精族の魔力量は人間より桁違いに多い。
その為大概の結界は破ることができる。
「シャルロット、あの奥になんか見えるのか?」
「いえ、特に何も。どうして?」
『多分気づいているわ。』
やっぱり。
彼女は今あの建物を恨めしげに睨んでいた。
しかし、質問をした時にはもういつもの表情でとぼけた。
「いや、なんでもない。」
ここで聞いてはいけない。そんな気がした。
脱水室も見事だった。
脱水魔法のエンチャントされた部屋で入ると同時に水が乾いたようだ。しかし、口の中まで乾いてしまうのが難点らしい。
さっきのメイドさんが全員に水を配っていた。
「あと二十分ほどで王の公演が始まります。
ここでお静かに待っていてください。」
王城の裏、そこにある広場に続々と人が集まってくる。王に一番近いところに、生徒向けの椅子がならべられている。
一列に二クラスが座っている。
それが二列あり、その後ろに大人達が立っていた。騎士団や魔法師団もいるようだ。
「それではこれより王による公演を行います。」
そう、告げ司会をしているのは、、、
我が兄、ヘーブリヒ兄さんだ。
「よく集まってくれた。毎週行っているこの公演は今後の国の未来を、今をよりよくするためのものである。例年通り今日は第一魔法学校の一年生も来ている。よく話を聞いて自分で考えて欲しい。」
特に高圧的なところもなく至って普通の始まり方をした。
王、ペルソナ・プラニエータ。
魔眼持ちのオッドアイ。茶髪でオールバック
魔眼の方は金色、もう一つは茶色の瞳だ。
王冠は常にしている訳では無いらしく、その代わりと言ってはなんだが、代々受け継がれてきた立派な剣を腰に挿している。
「〜〜〜と言うのがこの国でやりたい事だ。
何か質問がある人は言ってくれ。」
「無いようですので、これで公演を終了させていただきます。」
こうして三十分の公演は幕を閉じた。
この締め括りの言葉と共に聞いたことのないような拍手喝采が送られた。
「ここからは自由時間になります。
王城の二階以上には立ち入らぬようお願いします。」
そのまま広場で解散がなされた。
メイドさんは一日中付いて回るらしく昼食の時間もずっと見ていた。何度目が合ったことか今日だけで二桁に到達するほど視線を感じた、、、気がする。
『大丈夫、実際に十二回視線を感じたわ。』
『いや、それ大丈夫じゃないから。
出来れば勘違いの方が良かったよ!』
『獲物を見る目、そんな感じよ。
正体が掴めないわ。貴方の国のマンガに出てくる暗部みたいなもんじゃないかしら。』
イーリスは俺の記憶を自由に閲覧できる。
よって俺の頭に入っているマンガにハマり読み漁っているのだ。
『正体が分からないってどう言うことだ?』
『何にも見えないの。全てが闇に包まれている、そんな感じよ。』
何の為に誰を狙っている?
「まずはどっちに行く?」
そう言ったのはエリス。
横にレスティア、もう隣にシャルロット、
俺とアレスが後ろを歩いている。
「まずは魔法師団の方に行こう、空いているし。」
この中の誰かがターゲットにされている。
そう思った少年の背中に悪寒が走った。
王国の暗部、妖精からも身を守れる、
そんな奴が狙っている。
そう思って、この世界にきて、いや、生まれて初めて命の危険を感じながら過ごす。
「レビン?どうしたの?すごく顔色が悪いよ?」
レスティア、、誰も気づかないのか。
「いや、何でもない。」
『気にしすぎよ。たかが遠足、そうでしょ?』
『ああ、ありがとう。』
メイドはイーリスの言葉を聞き、口角を少し上げ、気を取り直し準備にかかった。




