第二十話 理事長の力 帝国崩壊編
「よし、じゃあ準備はいいかな?」
放課後、予定通り地下の訓練場にきて、瀬崎と理事長の試合が始まろうとしている。
「はい!よろしくお願いします。」
『心配そうね。』
『そう見えるならそうなんだろう。
天災のイルダーナなら相当強いはずだしな。』
『まあ別に殺し合いするんじゃないんだし大丈夫じゃない?』
「じゃあいつでもどっからでもいいよ。」
「では、六ノ矢・水浅葱!
虎神、蛇神!」
「これは、式神魔法と天弓魔法だね、悪くないよ。」
そういい、右手で空中をコツンとノックする。
「次々行ってみよう!」
陽気にはしゃいでいる子供にしか見えないが瀬崎が使った魔法が消し飛んだ。
『何をしたか分かったか?』
『いえ、ごめんなさい。衝撃波だとは思うけど詳しいことは…。』
妖精でも見ることができないほどのスピード。だが、まだ瀬崎の目に諦めは見られない。
「流石ですね、理事長。辰神!」
「十二支最強の式神か凄いね。ほい。」
辰神、まさに日本の伝説に出てくるような龍がさっきと同じ動作をしただけで消えてしまった。
「これほどまでとは、一ノ矢・不知火!
二ノ矢・夢落羊!」
放たれる二本の矢。一本目は直接、二本目は眠りに落とす対象の真上へ。
「消えぬ炎と、眠りへ誘う光ね。」
そう言ったと同時に三度目の動作。
またもや二つの魔法がきえた。
「次はこっちから行くね。
雷狼群!」
二体。ベントが出した狼とは大きさも数倍あり、密度も桁違いだ。
「束縛紙!くっ!」
紙でできた縄が二匹の狼を締め上げようとするが、努力虚しく一秒足らずで破られてしまう。
「ここまでかな?じゃあ最後にサンフレア!」
その時、地下の訓練場に太陽が現れた。
「なに、、こんなの。っ!精霊召喚‼︎」
「天撃!」
瀬崎の真横にRPGでよく見たような魔方陣が現れ、そこからシュリアが出てくる。
シュリアがすぐさま天撃を放つ。
(天撃とは、空気を百分の一にまで凝縮し、
直径一メートルほどの濃密な空気の塊を放ち標的に当てると同時に開放する。
元に戻ろうとして爆発する。いわゆる圧縮爆弾だ。)
『イーリス出れるか⁈』
『ええ、シュリアだけじゃ足りないわ。』
「精霊召喚!」
「「合成魔法、双剣・天叢雲剣!」」
「もうちょっと力を貸すわ。アトミック・
フルバースト!」
弥の体から紅蓮の魔力が吹き出、濃縮され吸い込まれる。片目が赤黒くなってオッドアイとなった。
「おっと、ここまで強いとはね。
ウルシャイン!」
即死確定。極光の名がふさわしいプラズマ弾がイルダーナの手から双剣を持つ少年に発射される。途中ゲートが現れたがすぐに消滅してしまう。
「っ!予想以上だよ!」
少年はその攻撃を、一刀両断、一刀両断、
その二つの動作で防ぎ、天撃で弱まった太陽を切り刻む。
「ありがとう。終わりにしようか。」
四度目の同じ動作。シュリア消滅。紅蓮の魔力も消滅。しかし天叢雲剣までは消せなかったようだ。
「断絶障壁まで効かないとは、、、
本当に驚いたよ。」
目の奥を怪しげに輝かせた気がしたが、
いつものつかみどころのない雰囲気に戻った。
「やりすぎじゃないですか、理事長。」
真っ先に声をあげたのは、瀬崎ではなく、
もちろん俺でもなく、生徒会長だった。
「君には最初に話しておいたはずだよ。
まあ、それでも少しやりすぎちゃったかな。
ごめんね二人とも。」
「どういうことですか。」
俺はかなりイラついている。これでは元々、瀬崎と俺を殺す気でやる予定だったのではないか?と疑わざるを得ない。
「そうだね。二人の、最大限の力を見たかったんだ。ああ、蘇生要員はちゃんと呼んでたよ。」
「もう帰っちゃいましたけどね。」
「蘇生要員はどなただったんですか?」
「君のお母さん、シリカ・ツァオベライ氏だよ。」
っ!母さんが、、俺が一度死ぬことを承諾したのか、、。
「理事長。私の入学はどうなるんでしょうか?」
そう、本題はそれだった。
「ああ、もちろん合格だよ。
来週の遠足の後かな、三日後に遠足があるからその次の日にもう一度来て貰って、その次の日から通ってもらうよ。だから、五日後に入学だ、おめでとう。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「そろそろ行こうか、上で待たせてる二人にも悪いし。」
カル先輩とバートン先輩は地下への入り口を見張って貰っている。
そう言って何もなかったように歩いていく理事長。
『魔力の残量、分かるか?』
『えっ?十分の一も減ってないわ。』
『そうか、ありがとう。』
アトミック・フルバースト、魔力、マナ、
身体能力、処理速度、全てを二倍にする補助魔法。これをもってしてもギリギリだった。
イーリスの能力は分からない。
今使えるのは、アトミック・フルバースト、
天叢雲剣、後二つだけだ。
その日はその後先に瀬崎と一緒に理事長室から出た。カル先輩とバートン先輩も先に帰っている。
三人残った理事長室でその後何が話されていたかはわからない。
理事長室のさらに上からある家へ向けられている視線に気付いている者は誰もいなかった。帝国の黄昏時、赤黒く染まった空は、まるで血塗られたようだった。




