第十九話 理事長登場‼︎ 帝国崩壊編
「せ、瀬崎⁈もう来たのか?」
幾ら何でも早過ぎる、、
「あれ?レビンはこの子のこと知ってるの?」
しまった!
「その人が先程説明させていただいた友人です。」
へっ?
「そうだったんだ。今日集めたのはこの子のことでなんだよ。」
瀬崎の言い分はこうだった。
「この世界に来て何もわからない。
友人の所に居座るのにも限界がある。
寮がある学校がいい。お金は後から払う。」
物分かりが良過ぎる気もするが信じてもらえたらしい。
瀬崎も切り替えが早過ぎる気もするが、寮で住んでいたので家族とも色々あるのかもしれない。
「理事長が入学を許してくれるかどうかなんだ。それで今から理事長の所に頼みに行こうと思う。」
「私の事情に巻き込んでしまってすいませんが、どうかよろしくお願いします。」
そして今、生徒会メンバー(副会長を除く)が理事長室前に集まっている。
「失礼します。生徒会からお願いがあって来ました。」
シンプルな部屋。本棚、来客者用のソファー
トロフィーなどが入った棚。そして理事長の机のみだ。
「うにゃ、どうしたんだい?」
若い!とかもんじゃない。間違いなく幼女に分類されるだろう。
アルン・オストリア。
六天聖の一角。彼女の魔法を全て見たものはないと言われ、数々の伝説を打ち立てている。彼女は姿が定着するのが早かったという噂があった。
『この人の名前アルン・オストリアじゃないわよ。本名はイルダーナ・ルー・ドルドナ。
魔法までは見えないわ。』
な、そんなアルン・オストリアは帝国内で知らない者はないとまで言われる名だ。
イルダーナ・ルー・ドルドナという名は、
天上の国と帝国との戦争『天帝戦争』、
その天上の国の神童『天災のイルダーナ』と言われた戦犯だ。その姿も幼女だった気がする。
「君はレビン・ツァオベライだね。
噂は聞いているよ。孫の自信を打ち砕いてくれてありがとう。あいつは調子に乗りすぎていたからね。それでどうかしたのかい?」
『イーリス、この人に家族がいるか分かるか?』
『ええ、少し待って、、いないわ。
結婚もしていない、過去が鮮明には見えないわ。』
ベントがこの人の孫というのも嘘か。
「いえ、何もありません。」
「ふっ、そうかい。
で、お願いとはなんだい?」
「〜〜〜ということでして、この人の入学を認めていただけませんでしょうか?」
瀬崎のことをひと通り話した。
話の途中に、少し難しい顔をした事もあったが今はニコニコとしている。
「うん。事情は分かったよ。
そこで少しだけ実力をみせてくれないか?
少しはレビン君に習ったんだろう?」
「そんな⁈彼女はまだこの世界に来てそう経っていないんですよ?」
当然会長が抗議をする。
「なあに彼女の実力を見てもし、この学校では危なそうだったら他の学校に推薦してあげるさ。どうする?」
他の学校、それは普通の学校という事だろう。
「やらせていただきます。」
「そうこなくっちゃ!」
「もしかして理事長が相手をするんですか⁈」
「もちろんだよ!」
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勝負の話は明日の放課後になった。
理事長が生徒の前に姿を現わすことはないので、地下の教師用の訓練場で行われることになった。
「どうするんだよ。このままじゃやばいかもしれないぜ。」
今は瀬崎と下校中だ。彼女は明日、この国最高峰の攻魔師との手合わせをどう思ってるのか?
「そうね。おかげで今日の夜も精霊界で特訓よ。」
精霊界⁈
「どういうことだ?なんで精霊界が出てくる?」
「そりゃ特訓のため。」
『イーリス、精霊界に出入り出来るのか?』
『私達は出来ない。彼女達は出来ると思うわよ。』
『なんで?』
『そうね、、精霊界の門を開けているのは精霊王、それと同等の聖、後は妖精族。
でもその中でも主導権を握っているのは精霊王なんだけど、私みたいな妖精が開けていると主導権を奪っちゃうの。そしたら聖達は精霊界と出入りできなくなってしまう。
差が開きすぎるとダメだからというのが理由ね。』
『まぁそれはかわいそうだな。』
「聞いてる?」
「え、なんて?」
「だーかーら、魔法が一つ増えてたの!」
「え、そんなことあるのか?」
「私に聞かないでよ。こっちが聞きたいのに。」
「そうだな、悪い。でもいつから?」
「今朝よ。精霊界から帰って来てから確認したら増えてたの。確か天弓魔法。
七つの効果を持つ七色の矢を放つ魔法。
まだ使ったことがないんだけどね。」
天弓の意味は虹。七色もそれに準ずるのだろう。
『共鳴ね、羨ましいわ。』
『共鳴ってなんだ?』
『精霊との魔力が混ざり合うことで新たに魔法を取得できること。精霊達の憧れよ。
それにしても早いわね。』
つまり、イーリスと一緒に戦う内に魔力が混合し、その結果新たな魔法を得られると。
瀬崎とシュリアは精霊界で多くの時間を共に戦ったのだろう。
「じゃあ今から少し試してみるか?」
「うん!ありがとう。」
そうした若者達の後ろ姿を簡素な部屋から、
笑みを浮かべて見つめる影があった。
「ここでいいか。」
近くの森の近くの空き地。
黄昏時、日が沈む。
「暗くなるまでに終わらせよう。」
七色。手の内は全く分からない。精霊との共闘もありとした。
「じゃあこい!」
「ええ、行かせてもらうわ。
一ノ矢・不知火!」
弓が現れ、弦を引くと同時に技名が叫ばれ、
矢の先に赤い火の灯った矢が飛んで来た。
『っ!避けなさい!』
イーリスの悲鳴に似た命令を聞き反射的に避ける。
「これが不知火の能力か。」
消えない。今も矢が刺さった地面半径約一メートルの範囲に炎が広がり燃え盛っている。
「次々行くわよ。三ノ矢・迅雷!
虎神!蛇神!」
『これは全て防ぎなさい!』
『了解!』
着地と共に放電。稲妻が全方向に飛んでくる。一つの稲妻を土の壁を作り防ぐと、他の稲妻が同じ所に飛んでくる。全て防ぎ終わる前に、紙でできた虎と蛇が攻撃してくる。
それを火を発生させ燃やそうとする。
しかしその火が紙に当たった瞬間にその部分が剥がれ落ちほぼ無傷で襲ってくる。
「ちっ!やるな!
アブソリュートゼロ!」
範囲魔法アブソリュートゼロ。
水の分子をできるだけ濃密にし、絶対零度を作り出す。
「だてに生徒会やってないわね。
六ノ矢・水浅葱、七ノ矢・濃毒姫!」
彼女の服装が薄い浅葱色の着物へと変わった。矢を放つかと思いきやそのまま水色の火が瀬崎の体を包み込んだ。紫の火は両手を包み込み怪しげに揺らめいている。
『これは、どうすればいいのかしら?』
『どういうことだ?』
『七ノ矢・濃毒姫。かなり強いわ。あの火が、猛毒の塊、たいていの物資は腐敗してしまう。』
『なら、風で吹き飛ばせばいいじゃないか。』
『風も腐敗してしまうと思うわよ。』
『なら、イーリスが出れば?』
『それなら大丈夫のはずだけど、、一人でやってみなさい。』
「なんだよそれ!っ!瞬歩!
剣舞・イノセント。エンチャント、テンペスト!」
遠距離から誘導して、、、
「コキュートス‼︎」
コキュートス、今使える最大の魔法の一つ。
魔力自体を凍らせる。しかし、発動までかかり過ぎるのと範囲が狭すぎる。
「やられたわ。ここまでね。」
ふー。コキュートスまで使うことになるとは予想外だった。それと、、
『なんで出てくれなかったんだよ。』
『貴方の力を見てみたかったのよ。
けど、まだまだね。』
『そうかい!』
「帰ろうか。少し暗くなって来ているし、」
「ええ、そうしましょう。」
この二人の姿をずっと見ていた影は満足げに窓を閉めた。




