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親友殴りに異世界へ  作者: ヒナの子
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第十六話 夏目 伊織3 精霊界編

なんだったんだ?あれは本当に親父だった。

だが失踪した時と容姿が全く変わってなかった。体つきが全然違っていた、そういえば両手も少しおかしかった気がする。


「なつ…夏目…夏目君!大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。」


「今のが行方不明だったお父さんなの?」


分からない。確かに死体は見つかっていない。


「分からない。それよりも今は選定の儀だ。」


前いた世界とか言ってたな。魔力がどうとか。地球じゃないのか前いた世界は。


「ダメよ。」


「えっ?なんでですか?」


「イーリスだったわね。貴女の契約者の悩みを解決してからね。選定の儀に雑念は必要ないもの。」


親父との問題を片付ける。それはどういう結末を迎えればいいのだろう?


「そうだわ、夏目 弥、思念体から貰った魔力を返してもらうわ。」


確かに質が違う魔力が奥底に沈んでいるのは分かる。というより、精霊王は自分の思念体を次の精霊王にしたのか。


「あなたは、思念体じゃないんですか?」


「当然ね。と言いたいのだけれど、私は先代の王ラティースの元思念体であり、娘の様なものなのよ。」


「それはどういう意味で?」


「最初私は先代の娘として思念体として作られた。精霊に家族はないの。だからこそ代々の精霊王はこうして自分の子に見立てた思念体を作り出し精霊王に指名する事で命を授けることができるの。」


なるほど、精霊王になったことで思念体から神聖へ格上げされたと。


「分かりました。お返しします。」


手をかざし自分の中から絞り出してゆく。

最後の一滴まで絞り出して一息つく。

頭から親父のことが離れない。今どうしてるのか?今までどうしてきたのか?何があったのか?どれくらい生きてきたのか?


「一つ言っといてあげるわ。

あの男は正真正銘、夏目 伊織よ。」



その夜、、、


「少しいいかの?」


「ええどうぞ。昼間はすいませんでした。」


改めて見るとこの世の人間とは思えない美人である。身長は百六十五は超えているだろう。白銀の髪に紅い目、手を出すには畏れを抱くそんな印象の女性だ。


「いや、あれはしょうがなかったと思う。

我の名はセフィラ・カリオン。よろしくの。

それとの。一つ言っておきたかったのじゃが、御主の父、伊織は妻が亡くなったことを知っておったの。」


っ‼︎そんな、、


「その時の伊織は絶望そのものだった。もうその時から一千年は経った今でもあの反応を示した彼奴の事をあまり責めんでほしい。我が言いたかったのはそれだけだの。」


一千年、、途方もない年月が経っている。

それでもあの後ろ姿は後悔そのものを表している様に見えた。


「親父と合わせてください。明日の朝に。」


ちゃんと向き合い話をしよう。親父は何も悪くわないはずだから。


「ああ、伝えておこう。」


「それともう一つ。セフィラさんは親父を愛していますか?」


一千年だ。


「ああ愛しておるよ五千年以上もの。」


前を向いて進んでもいいと思う。


「そうですか。これからも親父をお願いします。」



「あ、当たり前じゃ。」


そう答えたセフィラさんの顔は照れ臭くも嬉しそうだった。



「で、私達は席を外しておけばよろしいのですね。」


「ああ頼む。イーリス、待たせちまって悪いな。」


「貴方が気にする事ではないわ。」


ゲートが現れる訳でもなくいきなり現れた。


「セフィも外してくれ。大丈夫。」


セフィさんは瀬崎達と共に森へ消えていく。


「久しぶりだな親父。何年振りだ?」


「五千十三年ぶりだ。大きくなったなって他の人の体なのか。」


「ああ色々あってな一度死んだんだと思う。」


転生する前アンセムにきた時に俺の体は思念体に刺されて死んだはずだ。


「そうか。大変だったろ。すまなかったな。」


「親父、セフィラさんから聞いた。知ってたんだろ。母さんが死んだ事も。」


「そうか聞いてたなら話は早い。」


そうして親父はここに飛ばされてからのこと全てを話した。妻が亡くなったまでのことを。


「なあ俺のこと恨んでるか?」


「見てたんなら知ってるだろ。」


「信じられなくてな。」


「ならこの口で言ってやる。

俺も母さんもあんたを恨んだことは一度もない。心配かけた、それだけだ。」


そう、恨んだことなんてなかった。

だから生きていると最後までしんじていた。


「そうかありがとな。」


「それよりも人間やめてるとはな、流石に予想もしていなかった。」


「なぁに話した通り成り行きだ。」


「死なないのか?」


「神にやられなければな。」


神、


「それは種族なのか?」


「ああ元々俺達人間も吸血鬼も獣人も全て神の末裔なんだ。それで神は退屈になり自ら死を選ぶ者が多いが、神が残っている世界もある。悪神もいれば良神もいるってこったな。」


アンセムにもいるのだろうか?


「神を殺したことはあるのか?」


親父で倒せなかったら無理だろう。


「ああ、三人かな。悪神共だったからな。」


目の前の親父は人間をやめ、神殺しにもなった。その上最上位の空間魔法を持っていて、

それでも地球には帰れない。


「なあ最後に、親父はセフィラさんを愛しているのか?」


「ああ多分な。」


それでいい。そうじゃないと精神が止まったままだ。


「そろそろ新しい妻を娶ってもいいと思うぜ。」


「何言ってんだよ、お前はもっとガキらしくいていいんだぞ。じゃあな、ありがとよ。」


互いに顔は逆の方向を向いている。


「もう心配かけるなよ親父。」


「ああわかってるつうの。」


二人とも声が上ずり、長い間溜め込んでいた涙が一気に溢れ出していた。






そのまま親父はアンセムに行った。

セフィラさんもありがとうと言ってきたから、こちらこそと答えておいた。


「吹っ切れたようだわ。よかったね。」


「ああ、親父が人間やめてるとは思っていなかったけどな。待たせたなイーリス、行こう選定の儀へ!」

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