第十四話 夏目 伊織1 精霊界編
夏目 伊織は地球生まれの研究員。昔からアメリカにおり、バリアーや、レールガンの発明に携わり、最先端の研究所の主任に推薦されるも断る。古代の遺跡から技術を取り出しアメリカに戻る途中で失踪。
息子の夏目 弥が七歳の時である。
俺は親父が嫌いだった。
レールガンとバリアーの発明により、戦争は激化。家にも帰らず、母さんは毎日寂しそうだった。ある日親父が失踪した。バチが当たったと思った。特別裕福でもなかったが、親父が残していた貯金で過ごして母さんも働くようになり、なんとか生活できていた。だが三年立った時母さんは死んだ。過労死だった。その後寮生活をし、やっと落ち着いてきたその矢先俺はこの世界にきてしまった。
「こんなとこで何やってんだよバカ親父‼︎」
無意識に出た言葉だった。しかしその答えを期待した。
「あ、あま、弥なのか?そんなわけがないか。ここはアンセムだったよな。」
「ああ御主がいたはずの地球ではない。」
そんなことが、そんなことが聞きたいんじゃねぇ!
「何してるんだ、なんでそんな楽しそうに女侍らせて生きてるんだ!あんたは死んだんじゃなかったのか!」
「カンナースこいつの名前見えるか?完全にないとはいえないからな。」
「レビン・ツァオベライ・ハーシー、もう一つ夏目 弥だ。」
「っ⁈そうかお前もこの世界に来てしまったんだな。」
「何言ってる!あんたは、あんたは昔からそうだ。一人で勝手に納得して!クソッ!
母さんが救われねぇじゃねぇか。」
「セフィ一旦飛ぶ。すまんカンナースまた来る。」
「待て‼︎母さんはあんたのせいで死んだぞ!」
「そうか。すまなかった。」
ヒュン!
その男は横にいた白銀の髪を持つ女と消えた。
「なんで、なんでなんだよ。」
そういうしかなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれが御主、伊織の息子か。」
今、伊織達がいるのは遠く離れた森の中だ。
「ああ、外見は洋風になってやがるが、中身は正真正銘俺の息子だった。」
本当に驚いていた。百五十にもなるパラレルワールドの一つで会う確率、しかも向こうは自力で渡れないはずだ。
「気にしておるのか?」
「ああ、息子だからな。」
本心だ。昔からアメリカにいて一緒にいてやれなかった。もう地球には渡れない。もう会えないと思っていたから。
「そっちもだが、さっきの言葉。」
よく気づくな。本当に。
「ああ、わかっていたはずなんだけどな。」
「あの時散々我に泣きついたではないか。」
「馬鹿野郎!あれは忘れろって言ったろ。」
本当は知っていた。自分が失踪したことで、
妻が亡くなったことは。その時何度も何度も何度も何度もチャレンジして打ち砕かれた。
あの日、本当は日本にいた。サプライズで家に帰ってやろうと思っていた。しかし、途中で裂け目が現れた。そのまま飲み込まれ、着いた所は別世界アンセムだった。魔界、その言葉が最も似合う世界だった。
しかしその世界にも裂け目があった。またそこに吸い込まれた。
「思い出してるのか?」
心配そうに見て来る。
「ああ、まだセフィは出て来てないけどな。」
セフィ、この女は二つ目の世界で出会った。
アンセムから飛ばされ、着いたら目の前にいた。白銀の髪を持ち、赤い目でこっちを見てきた。それが運命の出会いだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「痛っ⁈」
裂け目に吸い込まれること二回。夏目 伊織は分析しようとしていた。どこかの屋敷裏、後ろは森になっている。直感で地球ではないと思った。そして目の前の今にも死にそうな瀕死の美女の行動で確信に変わった。
「何すんだよ!はなれ、っろ‼︎」
噛み付かれた。首筋に。悟った、このままではこっちが死ぬと。しかし突き飛ばそうとしてもビクともしない。
バンバン‼︎
銃声が聞こえ、目の前の女が撃たれる。
「発砲やめ!お前も吸血鬼であるか?」
俺は命を狙われることも一度や二度ではすまなかった。だから人が撃たれることが初めてではない。
「なにもしてないの、に。なんで、、、」
そのまま女は気を失う。俺は状況を把握した。この女は吸血鬼だと。追われていると。
だが、知らない人が撃たれて死にそうな状態でそれを見殺しには出来ない。
「チッ!ああもうどうとでもなれ!」
息子に自慢するはずだったんだぞ!
「すまんがこいつは渡せないな。」
鞄から素早く携帯型使い捨てバリアーと、
レールガン搭載使い捨て銃を二丁だす。
「相手は人間!実弾銃用意。発射!」
「臨床実験だ!おら喰らえ!」
敵と俺が発射するのは同時。だが、敵は俺自身を、俺は奴らの目の前の地面を狙った。
レールガン搭載だ。当然奴らの弾が当たる前に地面に着弾して物凄い衝撃波を生み出す。
「バリアー起動!」
音声認識した携帯型端末から透明の壁が出来る。バリアーといっても物理攻撃は防げない。衝撃波を吸収し反射できるだけだ。
奴らも死んではいないが追っては来れないはずだ。
「実験は成功かな。」
銃にもバリアーを張ってあるので手に振動は来ないが、銃自体はボロボロだ。
「使い捨てになるのはしょうがないか。」
そんな呑気なことを言いながら、女を抱え、森に逃げ込む。
「ん、はっ!」
女は起きるなり戦闘態勢になってしまった。
「待て待て、俺はお前を運んできただけだ。覚えてないか?いきなり血を吸おうとしてきたじゃねえか。」
俺のことを思い出したのか少し警戒が和らぐ。
「貴殿、吸血鬼か?」
やっぱり吸血鬼なんだよなと改めて実感する。
「いや、純粋な人間だ。俺は夏目 伊織、お前の名前は?」
「セフィラ・カリオン。それより人間。
どうやって逃げた?とても人間の対抗できる相手ではなかったはずだ。」
「相手も人間だったろ?」
「あれは人間ではない。人工的に獣人の力を埋め込まれた奴らだ。」
なるほど。だから吸血鬼が追い詰められていたのか。
「そもそも人間。なぜ私を助けた?吸血鬼と人間は戦争中のはず、いやもう終わりか。」
いや待てよ。戦争やってるとか知らなかったし、こんな美女ほっとくのも可哀想だし。あれ?下心?、、、そんなことはない、はず。
「俺はそもそもこの世界の人間じゃない。
それと戦争が終わりとはどういうことだ?」
「なるほど。魔法使いだとは思っておったが
別世界とは。御主への非礼申し訳なかった。
それで戦争だが、多分生き残っている吸血鬼は私だけだ。」
魔法って言ったか?
「魔法って言ったか?」
「魔法がどうしたのだ?御主も魔法でこの世界に来たのであろう?」
「違う。俺のいた世界に魔法はなかった。
そうか魔法に巻き込まれたのか。それでだ。
なんでお前が最後と分かる?」
「お前はいやじゃ。」
「じゃあセフィでいいか?」
「ああ、許す。で、理由は簡単じゃ。我は王族故に吸血鬼の、仲間の気配をどこに居ても感じられるのだが、今は全くない。全滅じゃな。」
「そ、そうか。悲しくないのか?」
「悲しいよ。しかし戦争を始めた時点でわかっていたからの。それよりもとにかく遠くに逃げたい、手段はあるかの?」
量子テレポーテーションは今やってた研究課題だ。そのためには古代技術が必要だった。
「すまんがねえな。レールガンがあと一丁とバリアーが三つだな。」
「そうか御主はどうする?」
勿論お前についていくしか選択肢がないんだよな。
「セフィ、お前についていくしかないんだが、いいか?」
「ああそれは願ってもいないことだ。
少し手を出してくれないか?」
ふむ、見えそうだ。
今セフィの服装はかなり危うい。ワンピースを着ていたのだろうが、太ももの付け根近くまで破れていて、所々破れている。
そして今すわっている俺の手を立ったまま前屈みになって触ろうとしている。胸元がほとんど見えてしまいそうなのだ。
「セ、セフィすわったらどうだ?
いや、座ってくれ。」
なんで?と疑問を浮かべたまま座った。
「今から御主の魔法を調べる。魔力量から見て使えないことはないはずだからの。」
俺の研究は魔法のようなものが多く楽しかった。しかし魔法には程遠く、それが分かっているので憧れる。本当に使えるなら地球に戻れる魔法がいいな。
「魔法名は、空間魔法、電磁魔法じゃな。空間魔法で移動できそうじゃの。」
手の甲に何かの文字を指でなぞったと思ったら少し光り、セフィが目を瞑った。
「魔法の詳細は分からないのか?」
「空間魔法は空間を操る魔法。
電磁魔法は電力、磁力を生み出し、操る魔法。」
「少し実験したいんだが、そうも言ってられないようだな。」
遠くの方から声が聞こえてくる。
「御主我と契りを結んではくれぬか?」
「なんだ契りってのは?」
「御主を吸血鬼にする。そうすれば魔力量も増えるはずだ。」
「デメリットは?」
「我と過ごす。日光がしんどくなるだけじゃ。悪い話しではないと思うが?」
「いいぜ。どうやるんだ?」
「こうすれば良い。」
噛み付かれた。が、痛くはない。何かが自分の中に入ってくる。それが心臓まで達したところで、止まった。
「これで終わりか。」
「ああ、御主、いや、伊織これからもよろしく頼む。」
「ああこちらこそ。まあ元の世界に妻がいるから愛はそっちに捧げているけどな。」
「じゃあ逃げるか。」




