不認識存在
彼女は誰からも知覚されなかった。というより寧ろ、知覚する人間がいなかった。何もない世界で彼女は人形のように止まっていた。生きてはいる。が、生きている意味はない。彼女の表情は「無表情」という言葉も貼り付けられないくらい表情がない。彼女は何もない世界でただ存在しているだけで、彼女の存在を知り得る存在も存在しなかった。
だがこの瞬間、彼女の人生は変わった。彼女の人生は「意味」を持ったのだ。彼女はこれから馬に乗って旅に出るだろう。船で海原を越え、飛行機で空を飛ぶだろう。ギターを持てば歌を歌い、馬が死ねば涙を流し、やがて結婚して子供を産むだろう。
君は彼女を見ることができるのだ。
「一人ぼっちが怖いから、半端に成長してきた。」そんな嘆きが若者の心の片隅を占領している。思うに個人とは他者のカケラが集まってできたものなのだろう。仮に嘆きが叶ったとしたら、それはどれほど悲しいことか。知るよしはこの物語である。一人の少女のプロローグに過ぎないが、この物語を苦しむ若者達に贈ろう。幸福たれ!