表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/384

39 : Day -59 : Musashi-Seki


「神は千年王国を掲げ、われわれの世界へ侵略を開始している」


 血のように赤い服をまとった男が言った。


「まちがってはいませんが、それは一神教圏内の話で、日本を含む多神教国家は別のスキームでも動いていますよ?」


 緑の服をまとった男の唇は流れるように動くが、その目線は帽子の影に隠れて見えない。


「あなた方は、それを侵略と表現する。しかし、一神教の世界にとっては救済である蓋然性が高いことを、お忘れなく」


 会議に参加する唯一の女性らしい、白い衣をまとった女は言った。


「救済など、必要か? 必要なものならば、与えよう。われわれは、人の欲するものすべてを与える。それが必要だと言うなら、破滅すら救済であろうよ」


 黒い服の男が、やや乱暴な口調で言った。


「それは神の計画ではない」


()()()()殿()など、第三国で実験してみたところで、意味はない。──カテドラルは破壊する」


「あいかわらず乱暴だな。堕天使たちよ、あなた方は神と戦うつもりか」


「雑音が多すぎると目標がぼやけるのだよ。世界は世界で動く。東京は東京で動くのだ」


 交錯する四つの声。

 それは世界の行く末を暗示する、重いひとつひとつの言葉。


「地球が、ほどけますよ」


 緑の静かな声音から、宇宙が広がっていく。

 赤はわずかに顎を引き、


「量子計算かね? そうだな、どう表現するかはともかく、無限に発散する確率は低くない」


「どういう意味か、わかっているのですか」


「なあに、心配ないよ、白いの。ほとんどの人間が、いや神ですら、わかっちゃいないんだ」


「否定はできません。ある数学者が言いました。この理論で私は賞をもらったが、本当に理解している人間は、世界に数人しかいないだろう、とね」


「砂上に楼閣を築いている、という自白でよろしいのですか」


 啓蒙と頑迷、英知と妄信、科学と魔法が、原理と法則の狭間で交錯している。


「理解され、使われてこその科学。そんな難解な理論が、どれだけ人類の役に立つというのか? そういう意見もあった。けれどね、皆さん。世界の真実をあきらかにする理論というものは、結局のところ」


「妄言はもういい、うんざりだ。……ルシファー、ガブリエル、クリシュナ。こんなけったくそのわるい場所に俺を呼び出して、ただで済むと思っていないだろうな」


 黒い服のなかから顔を出したのは、ロキと呼ばれる男。

 マフユの「兄」という人間の身体を持ちながら、あきらかに人間を逸脱した、生まれついてのトリックスター。


「頭の固いオーディンよりは、きみのほうが話がしやすいと思ったのだが」


「現実に北部東京を支配するのは、北欧勢力が強いわけですしねえ」


 クリシュナ、ガブリエルと呼ばれたふたりが、フードから顔を出して言った。

 最後に表情を見せた赤い服、ルシファーと呼ばれた男の顔が、彼らのなかでは最も人間らしく見えた事実は、銘記しておくべきだろう。


「どの道、選ぶのは人間なのだ。悪魔と手を取り合い、共に歩むか。退けて、別の道を行くか。……この国に、いい例がある。かつて国つ神が天つ神という名の侵略者に国を譲り、神へと引き上げてもらった。かつて悪魔と呼ばれていたものも、神との契約により、神へと引き上げられ、統治を任されることもある」


「そういうスキームで動いている、ということですかね?」


「悪魔と殺し合うことは、お互いを高め合うことでもある……なるほど?」


「いいね、その話なら小気味いい。敵のいない世界は退屈だ。もしそれがいないなら、つくってしまえばいい」


 堕天使のつくった道に、天使と神、そして邪神が乗り合わせる。


「そう……ドイツがユダヤという敵をつくり、アメリカがイスラムという敵をつくったように。人類は、悪魔という敵をつくり、その障害を乗り越えてこそ、真に強い種へと進化を果たすのかもしれぬ」


 その瞬間だけは、全員の表情が人間の目に忌まわしく映る。

 だが結局のところ、選ぶ者の眼の色によって景色はすべて変わるのだ。




 会議は佳境を迎えていた。

 四人の悪魔たち──魔王、天使、魔神、邪神たちは、ゆっくりと同じ方向に視線を向ける。


「それにまだ、()()()()()()も聞いてはいない」


「オオクニヌシのベルトを締めて、子どもがひとり、竹やりを手に立ち尽くしている姿は見えるがね」


 つぎの瞬間、ばたん、と大きく開かれる扉。

 無防備に立ち尽くすチューヤ、サアヤ、そしてヒナノ。

 室内に四人。

 ルイ、ロキ、クリス、そしてガブリエル。

 ヒナノが、盗み聞きをしていた悖りを指摘されるまえに、まず責めるべき側に立つ。


「ガブリエル、あなた、拉致されたのでは……」


「似たようなものですよ、マドモワゼル。これらの殿方は、とても強引なのでね」


 あきらかな確信犯。

 男たちは低く笑う。


「あなたの姫を目覚めさせるために、なんらかのショックが必要だと言ったのは、あなたではなかったかな?」


「軽めの、ね。すこし刺激が強すぎたかもしれません」


 やや厳しい口調で口を開くロキは、チューヤたちがきのう見た不完全な状態では、もちろんない。

 これが邪神の風格、とでもいうべきオーラをまとって、闇の世界を代表している。


「甘やかすんじゃないよ。底辺の泥水をすすらせるのも、ひとつの教育だぜ」


「ありがとう、ロキ。今夜のことは、記憶にとどめておきましょう。クリス、ルイも。今宵の会談が、いずれひとつの形を結びましょう」


「覚悟しておくがいい。神の計画は、必ずや破壊されるだろう」


 姿を消すルイの背に、


「ありがとう、ルイ。計画は揺るぎませんよ」


「つぎは閨に呼び出させてもらうぞ、ガブリエル」


 不遜な笑みを浮かべ、ついで姿を消すロキ。


「ありがとう、ロキ。天使の吐息を浴びて燃え尽きてもよいのなら」


「人は愚かなままではいられないのだよ、唯一神の君」


 深遠な表情からそれだけ言って、歩き出すクリス。


「……あなたとだけは、協力できる可能性もあると思っていましたが、クリス」


 開かれた出口に向かい、クリスは振り向かない。

 やがて彼は、出口に並ぶ三人のうち、ヒナノの肩を軽くたたいて言った。


「きみの保護者の言葉を聞きなさい。──ぼくたちくらいになると、代理戦争をする自由さえも、あまりないのだ」


 奥行きのある言葉の意味を、ヒナノはもちろん、傍らで聞いていたチューヤたちも正しく理解はできない。

 立ち去るクリスの背中を追っていた三人は、背後から聞こえる声にふりかえる。


「ようこそいらっしゃいました、マドモワゼル」


 そこではガブリエルが、いつもの微笑を浮かべて、さっきまで三人の大物が座っていた席を、子どもたちに勧めていた──。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ