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23 : Day -60 : Nishi-eifuku


 作戦会議もひとしきり進み、解決を見た。

 深夜はまずい。夜明けを待とう、という持久戦略。


 地下道を移動し、日付が変わり、最寄り駅も変わっている。

 このとき、男たちは再び戦いに身を投じた。

 みずから、あえて、他のだれでもない、お互いの強さを確かめるために。


 結界のすこしだけ外で、向かい合い、殴り合うふたりの男。

 それは避けることのできない、男と男の勝負。

 慌てて飛んできたサアヤは、


「ちょっと、この非常時に、なにやってんのよ! もしかしたら混乱魔法とかかけられてる? 早く止めないと」


 走り出そうとするサアヤの手をつかむチューヤ。


「待てよ、サアヤ。止めちゃだめだ。あいつらは最初から、このために集まったんだから。やることやらせないと、消化不良になる」


「だって……」


「もちろん、そんなことやってる場合じゃないのは、あいつらもわかってる。だけど、ちょうどいいところに屋台があった。こいつがあれば、すぐに回復できる。なら、仲間にも迷惑がかからない。そう判断して、自分たちの間にあるわだかまりというか、もやもやに決着をつけにいったんだ。男ってそういうもんよ?」


「そうなの?」


 しばらく自問自答していたチューヤは、とりあえずごまかしておくことにした。


「……ま、いろんなタイプはいるけどね」


「チューヤがそういうタイプじゃなくて、残念だけど、ちょっとホッとしたよ」


「どういう意味よ」


「ふーん。女の子にしかわかりませーん」


 いろんなタイプの高校生たち、その若い夜が更けていく。




 天を仰ぎ……といっても、薄暗い天井しか見えないが、横たわったのはケート。

 またしても、両者の対決はリョージに軍配が上がった。

 専門に格闘技の訓練を受け、かなり強いケートだが、タッパがちがいすぎる。

 それなりのダメージを与えるも、結局は敗北せざるを得なかった。

 誇り高き敗者を見下ろし、リョージは静かに言った。


「おまえは強いよ。同じ身長、体重だったら、負けていたのはオレだ」


「黙れよ。なんでおまえの慰めなんか受けなきゃならないんだ」


 リョージは首を振る。

「慰めているわけじゃない。事実を言ってるだけだよ。感情的な言葉より、男は事実が好きだろ」


「そうだよ。事実は揺るがない。尊重すべきものだ。だからこの最大の事実である結果を、いま受け入れているところなんだ。余計な言葉で汚すんじゃないよ」


 ケートは地面に横たわり、呼吸を整える。

 なぜかすがすがしい、などという言葉は、口が裂けても言わない。

 リョージはさわやかな笑顔を浮かべ、心から同意するようにうなずく。


「ははは、なるほど。部分的には気が合いそうだ」


「冗談じゃない。だれがおまえなんかと」


「去年も言ったけど、男は拳を交えて友情が芽生えるらしいぞ?」


「去年も言ったよな。帰れよ、昭和に」


 リョージは、ケートの隣にあぐらをかいて、

「だよなァ。べつに友情なんて、まえから感じていたもんな」


「その件については同意を留保する」


「まあ人間の遺伝子なんて、一万年まえもいまも、そう変わっちゃいないわけだ」


「おまえの口から遺伝子とか、どういう了見だ」


 リョージが、わずかに声のトーンを落とす。


「……デメトリクス社、だよな」


「DNAに情報を書き込む研究をしているベンチャー企業だ。やれやれ」


 ケートはその場に、ゆっくりと上体を起こす。

 その目を見つめるリョージ。


「おまえの親が大株主だって言ってたろ。それこそ、ルイさんが対立してる多国籍企業らしい。──この国を戦場に、なにをやらかす気だよ」


 ケートは肩をすくめて首を振った。

「ま、その話にはなるよな……よっこらせ、と。おいチューヤ、いつまでそこでトボケてやがる。さっさと手を貸せ、役立たずの審判め」


 呼ばれてようやく出番を確認し、結界から出るチューヤ。


「あいよ。おまえらこそ、めんどくさい意地張りやがって」


 チューヤの手を借りて回復屋台との間を往復しながら、ケートは淡々と言った。


「話してやるよ。キミらの知りたいことを。もちろんボクだって、全部を知ってるわけじゃないけどな」


「一般ピーポーよりは核心に近いんだろ?」


「キミら自身が核心となるかもしれない。覚悟して聞け。……そのまえにチューヤ、レベルは10になったか?」


 予想外の方向からの問いを受けて、チューヤは自分のナノマシンに確認しながら、


「あ、ああ。おかげさんで、どうにか」


「だったらこれを飲め。デメトリクス・カプセル。ナノマシンとも呼ばれるが、一度飲んだだろ。同じものだ」


「は? もう飲んだからいいよ」


「いいから飲め。チュートリアルを見るくらいの労力も、かけるつもりがないならな」


「……まあ、そう言うなら」


 カプセルを飲み込むチューヤ。

 もう毒は飲んだのだから、あとは皿までだ。


 ケートによれば、その意図はこういうことだ。

 カプセルは通常25%濃度のものが流通している。

 つまり4個、飲むことによって、はじめて100%、全能力が解放されるということだ。


 なぜ、最初から100%のものを流通させないのか。危険だからだ。

 ナノマシンは肉体に対する負荷が大きく、低レベルのときに高濃度のものを摂取すると、激しい拒絶反応に見舞われることが知られている。

 場合によっては死にいたるため、強制的に代謝される安全装置も、最新版には組み込まれている。

 濃度を増せば増すほど血液中の毒性が高まり、それに耐えられるレベルになって、はじめて摂取してよい、とナノマシンから許可が出ている事実に、チューヤはようやく気づいた。


 通常、レベル10までは25%濃度が限度。

 そこを超えてきて50%まで許容され、レベル25で75%、レベル50に達してようやく100%濃度のナノマシンに耐えられる、という疫学的データが出ている。


 じつは、ここから先も極限を極めたい悪魔人間たちの探求はつづいており、100%を超えるナノマシンの運用が研究されたこともあった。

 が、いずれも悲惨な結末に至っていることから、ナノマシンの限界至適運用の結論は、すでに出ているといっていい。


 では、許容範囲内でナノマシンの濃度を上げると、どんなメリットがあるか。

 それはユーザーのタイプによって異なるが、召喚士については悪魔のストック枠の拡張、という効果が顕著な例として挙げられる。

 その他のスキルタイプではもちろん、スキル枠の拡大という効果を発揮する。


 チューヤは天性の才能で最初から6体のストック枠を持っていたが、最初のカプセル摂取で、それらを使役する能力とともに、8体のナカマをストックできるように強化されている。

 そしていま、2個目のカプセルを摂取することにより、10体のナカマのストックと、細かな周辺機能の強化も施された。

 順当にいけば14体までのストックが可能と考えられ、さらに拡張プラグインにより、上乗せすることも可能であるらしい──。


 これはじっさい、すさまじい才能なのだが、彼らはまだよくわかっていない。

 肉体を鍛え上げ、極限までレベルを上げてナノマシンを100%解放しても、1体しかストックできないという残念なS型もいることを、あまりにも才能に恵まれすぎた彼らは、知りもしない。

 いずれ、この上下間格差の問題も、俎上に上がってくることになる──。


「レベルが上がったら、カプセルを探せ。ナノマシン側から上限解放のお知らせもあるはずだ。チューヤなんだからチュートリアルくらい読めよ」


「チューチュー言わないで。……なるほど、つまり俺は、おかげさまで10体までのナカマをストックできるようになったわけだな」


「そういうことだ。精進しろ、召喚士」


 ポン、とチューヤの肩をたたいて、話を切り上げようとするケート。


「待って、俺からもちょっと質問あるんだけど、いいかな?」


 挙手するチューヤ。

 ケートはため息交じりに首を振り、


「キミからは質問ばかりじゃないか。まあいい、言ってみろ」


「ケートの連れてるガーディアン、なに?」


 それは悪魔使いらしい質問だった。

 一般に守護霊と呼ばれるガーディアン。

 ナノマシンの拡張機能のひとつとして、ガーディアンの能力を本体フィードバックする、という便利なシステムがある。

 スキルをコピーすることはもちろん、ステータスまで強化してくれるのだ。

 リョージはあのとき、サレオスをガーディアンに迎えた。


「なるほど、その話か。ボクにこのスキルを学習させてくれた悪魔? のことを知りたいわけだな」


「ま、そういうこと。リョージもそうだけど、スキルタイプの人って、あんまりガーディアンを表に出さないだろ」


「影ながら守護するのがガーディアンだからな。まあ、よかろう。……出て来い、()()()()()()


 軽く耳のピアスを弾きながら、ケートは言った。

 瞬間、そのメッシュパーマのうえ、モズの巣に放り込まれたウニのようなものが出現した。

 飛び退くチューヤ。他の一同も驚きを隠せない。

 なんだ、この悪魔は……。



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