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未完成作品集  作者: 京 高
ブレインはゴースト
7/20

ブレインはゴースト7

 ところが、お化けの噂話は予想外の展開を迎えることになる。


 次の日、僕は宗太のことで頭を悩ませたまま学校に向かっていた。そして当の宗太はというと、僕に話したことですっかり元気になっていた。

 なんだか悩みを押し付けられたようで釈然としないものがあったけど、文句を言っても仕方がない。それに本人も今まで悩んできたはずだ、それで十分だろう。

 こんな考えができるなんて、何て大人なんだろう――そうでも思わないとやっていられない――。そんなことを考える時点でまだまだ子どもな僕だった。


「おはよー」


 挨拶をしながら教室に入ると、先に来ていたタカとみっちがやってきた。


「将君、話があるんだけど」


 挨拶もなしにタカがそう言う。みっちも何だか焦っているみたいだ。


「ちょっ、二人ともどうしたの?」

「お化けの噂話で新しいことが分ったんだ」

「あ、そうなんだ。僕の方も二人に話しておかなくちゃいけないことがあるから、学校の後にでも……」

「そんな悠長なことを言っている場合じゃないんだって!いいからこっちに来い!」


 引きずられるようにして校舎の端まで連れてこられた僕は、二人から重大な話を聞かされることになった。


「あのお化けの話、中州(なかす)小学校でも噂になっていたらしい」

「中州小学校だけじゃないよ。川畑(かわはた)中学校でも、だって」

「どういうこと!?」


 混乱する僕に二人が話してくれた内容はこうだ。

 まず中州小学校の方だけど、これはみっちが昨日のサッカーの練習の時に聞いたもの。

 百山小学校は中州小学校から十年くらい前に分かれてできた学校で、そのためかいくつかのスポーツは二校合同で行われている。

 みっちがやっているサッカーもその一つ。練習後に皆で話していたときにお化けの話が出て、中州小のチームメイトから同じ話が最近噂になっている、と聞かされたそうだ。


 一方、川畑中学校の話を聞いてきたのはタカ。昨日塾で久しぶりに中学生の先輩と会って話をしていたところ、中学校でもお化けの話があったと教えてくれたのだという。

 ここまでなら「どこの学校にも同じような噂話があるんだね、あはは」で済むことだったのだけれど、問題はその後の事まで全く同じこと。なんと具体的な目撃情報が三年生の教室だけという点まで同じだったのだ。


「中州小は結構古くて他にも怪談話があるから、こっちみたいに騒ぎにはならなかったって、そいつは言っていた」

「中学校の方は小学生の兄弟がいる誰かが聞いてきた小学校の話だろうって、噂にもならなかったみたい」


 つまりこのお化けの話は、今まで怪談らしい怪談がなかった僕たちの学校だからこそ大騒ぎになってしまったけれど、普通の学校なら大した話題にならないものだったようだ。


「それにしても、三年生の教室かぁ……」


 宗太の話が嘘だったとは思えないから、あいつが妹の泉をおどかすために「三年生の教室にお化けがでる」と言ったのは間違いない。ただ、この話では元々お化けは三年生の教室にでるものだった訳で、これは偶然の一致というやつなのだろうか?


「どうする?調べてみる?」

「もちろん調べるだろう?」


 みっちは調べる気満々のようだけど、タカは迷っているみたいだ。何か問題があるのか尋ねてみることにした。


「僕も気になっているから調べることには反対じゃないんだけど、今回は学級新聞には載せることができないと思う」

「どうして?」


 みっちはぜんぜん分からないようで、タカに聞き返す。


「えっと、学校外のこと、しかも他の学校のことになるから学級新聞の記事にはふさわしくないっていうことじゃないかな」


 僕の説明にタカが頷く。どうやら当たりだったみたいだけど、


「後、どっちかっていうと、こっちの方で先生に反対されそうなんだけど……」

「まだあるの?」


 他の理由があるとは思っていなかったので、僕もみっちと同じように聞き返すことになった。


「もう生徒の皆も落ちついてきているから「これ以上お化けについて調べて、下級生を怖がらせるようなことをするな」って言われる気がする」


 言われてみれば確かにその通りだ。お化けの話を記事にすることができたのは生徒の皆の不安をなくすことに繋がったからだ。そしてその目的は前回の学級新聞で果たしてしまった。

 つまり、今の僕たちには先生を説得するための理由がないのだ。


「それでもさ、やっぱり調べてみたいよ」


 みっちが小さな、だけどしっかりした声でそう言った。


「僕もみっちに賛成」


 タカもそれに続く。


「調べてみたいっていう気持ちは僕も一緒だよ。でもいいの?学級新聞も作らないといけないから、この前以上に忙しくなるよ?」

「おう!まかせとけ」

「それじゃあ学校が終わったら菜豊荘で作戦会議だね」


 二人ともすっかりやる気になっているけれど、それも仕方がない話かな。前回の学級新聞で僕たちがやったことといえば生徒の皆に聞き込みをしてどんな噂があるのかをまとめただけだったから、きっと二人とも不完全燃焼だったのだろう。

 僕だってそうだ。おじさんに手助けまでしてもらったのに「何も分りませんでした」では格好が悪い。


「おーい、そこの三人組ー。チャイムはもう鳴っているぞー。ホームルームを始めるからさっさと教室に入れー」


 四谷先生ののんびりした声に出したばかりのやる気がしおしおと抜けてしまいそうになりながら、ぼくたちは教室へと戻った。


「はい。揃ったようなので、朝のホームルームを始め……る前に、一宮。次の学級新聞の準備はもう始めているか?」


 てっきりホームルームが始まるものだと思っていた僕は突然名前を呼ばれて驚いてしまった。


「ひゃい?!え、学級新聞ですか?まだ全然用意していませんけど……」


 返事が裏声になってしまった、恥ずかしい……。でも、どうして急に次の学級新聞のことを聞いてきたのだろう?

 はっ!もしかして、また締め切りが早くなったとかだろうか?そうだとすれば大問題だ。前回の学級新聞を完成させてから何もやっていない。


「それならちょうど良かった」


 あれこれと悩んでいる僕に届いた先生の言葉は予想外のものだった。


「へ?あの……先生、良かったってどういうことですか?」

「実はな、お前たちが作った学級新聞の評判が良かったので他のクラスでもやりたいという話が出ていてな。どうせなら六年生全体で、順番に作っていってはどうかという話になったんだ。

 それで、もう準備を進めているのなら、もう一度うちのクラスが作ってから他のクラスに回そうと思っていたんだけど、準備ができていないのなら次の分から他のクラスに回してもいいか?」


 学級新聞がなければ、おばけのことに集中できる。これはチャンスかもしれない。


「全くもって問題ないです。一組にでも三組にでも回しちゃってください」

「分かったが、ずいぶん元気がいいな。……本当はあまりやりたくなかったんじゃないのか?」


 先生からジト目で見られて焦ってしまう。


「そういう訳じゃないんですけど……。えーと、あれです、前回上手くできていたので、ちょっとプレッシャーになっていたというか……そんな感じです」


 どんな感じだ!?もっと上手な言い訳がなかったのか!?心の中で自分に突っ込みを入れてしまうくらいグダグダだった。

 先生は僕の言い訳になっていない言い訳に「ふぅ」と小さく息を吐いて、


「まあ、次回うちのクラスに順番が回って来るのは夏休み明けの九月になると思うから、そのつもりでいるように。皆も一宮一人に押し付けないで前回のように色々と手伝うようにな」


 こう言ってその話をしめくくった。


 ホームルームが終わるとみっちがさっそく話しかけてきた。


「運がいいよな、おれたち。でも将の言い訳はどうかと思う」

「本当にそうだよね。でも僕も将君のあれはどうかと思う」


 タカまでわざわざやってきてそう言う。おのれ二人とも人の失敗を漫才やコントのように言いおって。ふてくされているとタカが笑いながら謝ってきた。


「あははは、ごめんごめん、そんなにすねないでよ」

「いいけどさ。自分でもあれはないわって思ったし……。だからそこで笑うな!」


 ひとしきりばか騒ぎをした後で、タカが尋ねてきた。


「ところで将君、さっき僕たちに何か言おうとしていなかった?」

「ああ、あれね……。ちょっと人のいる前では話せないから、学校が終わってから話すよ」

「何かまずい話か?」


 自分で思っていたよりも深刻そうな声になっていたようで、みっちが心配そうに聞いてきた。


「そうじゃないよ、ただ人の聞かれたくないってだけ」


 そう答えると、二人とも納得したようで「了解」と言って自分の席へ戻っていく。

 とにかく、何をするにも放課後になってからだ。今は授業に集中しよう。




 朝の決意も空しくその日は授業に集中できたとは言えなかったけれど、先生のお説教を受けることだけは回避できた僕たちは、帰りのホームルームが終わるとすぐに菜豊荘に向かって走り始めた。

 ランドセルを背負ったまま全力疾走したので、着いた頃には全員汗だくで、学校に持ってきていた水筒の中身を飲み干してもまだ落ち着かなかった。

 建物の前で、三人して「ゼイゼイ、ハアハア」といっている姿に、寒川のおじいさんが驚いて急いでお茶を出してくれるほどだった。


「そんなに息をきらせてお前たちは何をやっているんだ……。競走でもしていたのか?」


 僕の隠れ家改め皆の秘密基地となった一〇四号室に入ると、僕たちの様子を見た義おじさんが驚き半分呆れ半分といった顔で言った。


「新しい情報が手に入ったんだよ」


 息を整えながら言った僕に、今度は驚き一色の顔を向けるおじさん。


「昨日将が話していたこととは別の情報か?」

「当たり。二人にはまだ昨日の宗太の話をしていないから先にそれから話しておくよ」

「構わないが、名前を言ってしまってもいいのか?」

「うん」

「将が決めたことならそれでいい」


 僕は「待ちくたびれた!」と顔に書いてある二人に向き直り、昨日あった出来事を話す。

 宗太から聞いたこと、そしてそれを学級新聞の記事にはしないつもりでいたことや先生に話すかどうか迷っていたことも話した。


「二人のことを信用していない訳じゃないんだけど、本当はあまり詳しい話をするつもりはなかったんだ」


 その言葉にショックを受けたのか、二人は俯いたまま黙ってしまった。


「ごめん」

「どうして将が謝るんだ!そいつのことがばれたら大変なことになるってことくらいおれにだって分かるぞ!」


 空気の重さに耐えきれなくなって謝った途端、みっちに怒鳴られた。


「もしかしたら生徒全員でのいじめが起きるかもしれないからね。慎重になるのも分かるよ」

「タカの言うとおりだ。だから謝るなよ。それはショックじゃなかったって言えば嘘になるけど、そのくらいで将の友達をやめようとか考えないから」


 二人の言葉に胸が熱くなる。

 正直に全部を話さなくてもよかったのかもしれない。でも友達だからこそきちんと話しておくべきだと思っていた。これは本当だ。

 だけど僕は心のどこかでこの友人たちのことを軽く考えていたのかもしれない。そう思うと何だか恥ずかしく、そして情けなくなく感じた。


「ありがとう」


 だから僕は短くお礼の言葉を口にした。


「あ~、青春っぽい友情ものの最中にもうしわけないが、話を進めてもらってもいいかな?」


 おじさんが乾いた口調でそう言うと、タカとみっちの二人も「はーい」と応じる。


「え?ちょっと軽くない?僕の感動はどこに行ったの?」

「いいから将も早くこっちの世界に帰ってきなさい」


 戸惑うぼくにきつい一言。

 場を明るくするための演技なのか、それとも本音なのかどっちなのだろうか?


「それで、新しい情報というのは何なんだい?」


 おじさんの問いかけにタカとみっちが昨日聞いた話を説明していく。

 ついでに学級新聞作りが延期になったことも伝えておいた。


「つまり将たちの学校だけではなく、隣の小学校や近くの中学校でもほとんど同じ噂が起きていた訳か」

「やっぱり同じものだと思う?」

「たまたま同じような噂話が同時に起きただけ、という可能性はあるだろうけれど、ここまで似ているのに別の噂話だと思う方が無理があるだろうな」


 そう言うとおじさんは腕を組んで考え込んでしまった。


予想外の展開を迎えた所で恐縮ですが、ここで終わりとなります。


一応、この後の展開について考えがない訳ではないのですが……。

いずれ、また。

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