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未完成作品集  作者: 京 高
ブレインはゴースト
5/20

ブレインはゴースト5

「二条さんが心配してくれた後に、こんなこと言うのはちょっと申し訳ないのだけれど……」

 

 ひとしきり笑った後、タカが真剣な顔で話し始めた。


「将君、今朝話していたお化けの話を学級新聞の記事にしない?」

「えっ?どうして?」

「本当にお化けがいるのだとしたら、僕たちになら見えるかもしれない。それにもし二条さんが手伝ってくれるのなら」

「夜の学校も調べられる、か」


 タカの言葉に続けておじさんが言う。


「はい」


 確かにそれなら効果的だと思うけど、


「でも、夜に起きたことは記事にできないんじゃなかったの?」


 昼に言われたことを思い出した僕はおじさんに尋ねる。


「別に、正直に何から何まで記事にする必要はない。使える所だけ使えばいいのさ」


 答えるおじさんの顔は、ちょい悪だった。どうやら手伝う気まんまんみたい。


「でも、どうして急にお化けのことを調べようって思ったんだ?」


 みっちがタカに聞く。これは僕も不思議に思っていたことだった。


「ちゃんとした理由がある訳じゃないんだ。何て言うのかな、とにかく気になるんだ」


 珍しくはっきりしない感じのタカに、僕とみっちは顔を見合わせる。

 そんなぼくたちの様子を見ておじさんが言う。


「そのお化けの話は将から聞いてはいるのだが、確認のためにもう一度教えてくれないかな?もしかしたらタカの気になっていることも分るかもしれない」


 その言葉に促されて、僕たちは今朝クラスの友達から聞いた話と、その時タカが疑問に思った目撃の話をした。


「ふーむ、それはタカが疑問に思うのも無理はないな。だけど、私としてはそれ以前に三年生の教室、というのが気になるね」

「何で?」

「ここだけ具体的過ぎるんだよ。……話は変わるけれど、三人怪談で必要なことは何だと思う?」


 突然の問いに混乱して答えられない僕たち。


「これは私の考えなのだが、怪談に一番必要なのは聞く人の共感とか理解とか、つまりは「ある、ある」と感じられることじゃないかと思うんだ。『ある』と思えるからこそ怖い。そのためには、いくつかは具体的な場所やモノ、ヒトなんかを登場させないといけない」


 おじさんの説明は続く。


「だけど、このお化けの話ではその具体的な例がさっきの三年生の教室しかない。運動場と一口で言っても広いし、校舎の中というのも適当過ぎる。せめて運動場の隅だとか校舎一階の廊下と言うべきだ。

 そもそも真夜中なのにどうして人影だと分ったのか?これも変だな」

「えっと?……どういうこと?」


 話の流れが見えず、僕は答えを急かした。


「つまり、だ。この話は怪談とか、誰かを怖がらせようとして作ったものじゃなくて、誰かが本当に夜の学校で何かを見た、ということなんじゃないかってことさ」

「三年生の教室っていうのは?」

「それは後からくっ付けたものじゃないかな。三年生に兄弟がいる誰かが脅かすためにやった、とかね」


 おじさんの推理に感心していると、みっちが問いかける。


「あれ?それじゃあ一体誰が、何を見たんですか?」


 その疑問はもっともだ。しかしおじさんは首を横に振ると


「そこまでは分らんよ」


 あっさり白旗をあげた。

 今度も何かしらの答えが出てくるものだと思っていた僕たちはずっこけそうになった。


「それに、分らないことがある方が記事にしやすいだろう。まずはいろいろと聞き込みをしてみて、いつからどんな噂が出ているのかをまとめてみるといいだろう」


 と、その後は学級新聞の作り方に話は移っていった。




「三人とも学校から帰る途中に来ているのだったか。時間は大丈夫なのかい?」


 学級新聞の作り方について一通り決まると、せっかく三人いるのだから宿題を終わらせてしまおう、ということになった。

 それも何とか終わらせると、もう六時前になっていた。

 六月ももう終わりが近づいているので、日は長くなっていて外はまだまだ明るいけれど、良い子は家に帰る時間だ。


「ん~、僕はまだ大丈夫かな」

「僕も塾がある時には八時くらいに帰ったりしてるので問題ないです」

「俺は明るい内にさえ、家に帰っていれば特に何も言われないんで平気です」


 ……どうもここには良い子はいなかったらしい。


「だけど、ご両親が心配するだろう?」


 おじさんは僕以外に二人も子どもがいるので、何かあってはいけないと気になっているようだ。


「大丈夫だって、おじさん。いざとなれば携帯で僕たちがどこにいるのか分るんだから」

「?…どういうことだ?」

「携帯電話の何だっけ?GPS機能?そういうのでお母さんたちの携帯から僕らのいる場所が分るんだよ」


 おじさんに話しながら僕が携帯電話を取り出すと、タカやみっちも自分の携帯電話を見せてくれた。


 百山小学校では安全のため、僕たち生徒が携帯電話を持つことを認めている。ただし、学校にいる間はクラスごとの携帯電話回収ボックス――鍵付き――に入れておくことが決まりとなっている。

 ちなみに避難訓練や本当に災害が起きた時に生徒に携帯電話を返すかどうかで、保護者会の意見が分かれているらしい。


 まあ、僕たちの携帯電話はお父さんやお母さん、そしていざという時のために警察や消防署にしかかけることができないようになっている。

 当然、ネットを見ることもできない。そんなことをぼくたちから説明されたおじさんは一言、


「便利なのか、不便なのか分らん」

「大人にとっては便利、子どもにとっては不便、かな」


 そうは言っても、テレビでは凶悪犯罪のニュースが毎日のように流れている。安全のためには多少の不便さは仕方がないのかもしれない。

 この前おじさんと話し込んでしまって帰るのが遅くなった日も、どこにいるかが分っていたからこそ、お母さんのお説教はあのくらいで済んだのだ。

 もし居場所が分らなかったら、しばらくは学校以外外出禁止になっていたかもしれない。


「このあたりなら早々危険なことはないだろうに。少し過保護な気もするな」

「そうでもないですよ」


 おじさんの呟きにタカが反応する。


「大きな事件になるようなことは起きていないですけど、不審者とか変質者なんかは結構いるみたいですよ」

「うそ?」

「まじで?」


 僕とみっちが揃って声をあげる。


「どうして、将君とみっちがおどろいているの。ゴールデンウィーク前にも不審者が出たからって、急に短縮授業になったばかりじゃないか」

「おお!そういえば!」

「そんな昔のことは忘れた」


 呆れたように言うタカに僕らは再びそろって返事をする。だけどその内容は正反対だった。


「そういう短縮授業になることはよくあるのかい?」


 ついふざけてしまう僕たちとは違って、おじさんは真剣そのものだった。

 その雰囲気に僕たちも姿勢を正した。


「はっきりとは覚えていないですけれど、一年に一回くらいはあったと思います。隣の中州なかす小学校とかも入れた川畑かわはた中学校の校区で見ると、もっと多いと思います」

「そんなにか」


 さすがにおじさんも驚いたようだ。タカの話は続く。


「家のパソコンに市内の学校で不審者の目撃情報があった時、学校から防犯メールが送られてきているんですけど、それは大体一週間に一回くらいのペースできています」

「これは……過保護とは言い切れないな。子どもが自由で安全に遊べる場所がどんどん少なくなっているのだな」


 おじさんは遠い目をして言う。

 これは……もしかしたらチャンスかもしれない。僕はかねてからの計画を実行に移すことにした。


「そうなんだよ。危なくて外で遊ぶこともできないから家とかで遊ぶしかないんだよね。だから………」

「ダメ。ここへのゲーム機の持ち込みは禁止です」

「……少しくらい考えてくれてもいいと思う」

「絶対にダメ」


 こうして計画はあっさり失敗に終わった。


「まあ、いいじゃん。別にここまで来てゲームしなくてもさ」


 落ち込む僕を励まそうと声をかけてきたのは以外にもみっちだった。


「あれ、みっちなら将君といっしょに残念がると思ったんだけど?」


 タカも同じことを思ったようだ。


「だって、折角こんないい秘密基地ができたんだぜ。家にいる時と同じことをするなんてもったいないよ」


 みっち、めちゃくちゃいい笑顔。


「色々とおもしろい計画を立てているみたいだけど、しばらくは無理だよ」

「何でだよ?」


 楽しい気分に水を差されたようになり、みっちが不機嫌になってタカに聞き返す。


「何でって、さっきも話していたけど学級新聞を作らないと。四谷先生は『いつまで』とか『どのくらい続けて』とか言わなかったけど、夏休みに入るまでに二回は作らないといけないと思う」


 今が六月の下旬なので、夏休みまでの一ヶ月で二回作るとなると、約二週間で一回作ることになる。


「二週間か、結構余裕があるな。これなら学校で作るだけで間に合わないか?」

「普通ならね。でも今回のお化けの話は二条さんに手伝ってもらっているから……」

「そうか。ここでしかできないって訳か」

「そういうこと。もちろん他の部分はクラスの皆にも協力してもらうことになるから、学校でも作らないといけないよ」


 二人の話を聞いていて、急に重要なことが思い浮かんだ。


「ねえ、このお化けの話なんだけど、学級新聞の記事にして大丈夫なのかな?」

「何か問題あるかな?」


 僕が何を疑問に思ってそう言ったのか、みっちだけでなくタカも分らなかったみたいだ。


「朝、先生が言っていたじゃない。僕らが不安そうな態度をとっていると下級生がどう思うかって。だからみんなが不安になるようなことをするな、って怒られないかな?」

「四谷先生ならオッケーしてくれそうだけど、職員会議の議題にも出たみたいだし、他の先生が許してくれないかも……」


 僕たちの中では記事にすることが決まっていた分、どうすればいいのか見当がつかなくなっていた。


「要するに、記事にするのに先生を説得する理由があればいいんだな」


 困って固まってしまった僕たちにおじさんが声をかけてきた。


「義さん、何かいいアイデアがあるんですか?」


 興奮気味のみっちにおじさんは苦笑すると「上手くいくかは分らないが」と前置きして話し始めた。


 おじさんの案はこうだ。

 先生たちがどんなに大丈夫だといっても、自分たちを安心させるために嘘をついていると思う生徒がいるかもしれない。

 だから同じ生徒である僕たちがお化けの噂について調べて記事にすることで、生徒のみんなの不安をなくすことに繋がる、という訳だ。


「もちろん、噂を調べていることで不安になる生徒がいないように十分注意することや、書いた記事はまず先生に見せて問題がないか確認してもらうことも、忘れないようにしなくてはいけないよ」


 おじさんはそう言って締めくくった。


「これなら上手くいきそう」


 この予想は正しく、先生にお願いしたその日の内に僕たちはお化けの話を記事にする許可をもらうことができたのだった。


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