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未完成作品集  作者: 京 高
ブレインはゴースト
2/20

ブレインはゴースト2

2 学級新聞を作ろう


「それでは、学級新聞を作るリーダーは一宮君でいいですか?」


 百山ももやま小学校六年二組の教室に学級委員長のタカこと、後藤孝ごとうたかしの声がひびく。

 今は学級活動の時間で、この前から話が出ていた学級新聞について話し合われていた。

 新聞を作ること自体は担任の四谷先生の提案だったから、何の問題もなく作ることに決まった。


 問題が起きたのはその後、新聞を作る委員を決める時だった。

 当然誰もやりたがらなくて、立候補はなし。

 次の推薦になると「お前がやれ」「嫌だ、お前こそやれ」の大騒ぎになってしまった。

 結局、委員はリーダーの一人だけになり、その代わり手伝いをお願いされたらできるだけ手伝う、ということになった。


 で、この提案をした僕がリーダーにされそうになっている、という訳。


「おい将、嫌なら嫌って言った方がいいぞ」


 後ろの席から「みっち」とみんなから呼ばれている七瀬充ななせみつるが声をかけてきた。

 ふざけているなら無視するところだけど、こういう時のみっちは本気で僕のことを心配してくれている。

 だから僕は後ろを振り返って言った。


「だいじょぶ。それに僕がお願いしたら皆手伝ってくれることになっているんだし、なんとかなるよ」


 義おじさんが手伝ってくれると言っていたこともあって、僕は本当になんとかなると思っていた。

 だからリーダーになることがそれほど嫌でもなかったし、不安にも感じていなかった。


 でも、みっちは安心できなかったのか不満そうだった。

 自分が面倒な事をするのは嫌だけど、他の人がそれを無理矢理やらされているのは許せない、みっちはそういう奴だ。

 だから今も僕がリーダーを無理矢理やらされそうになっているように見えて、イライラしているのだろう。

 僕はそんな優しい友達の気分が晴れるように、


「じゃあ、みっちは特別委員になって時間があるときには手伝ってよ」


 と言ってみた。


「面倒くさいんだけど、将がそう言うんならしかたないな」


 そう言いながらも、みっちは嬉しそうな顔をしていた。周りのクラスメイトが皆(ツンデレだ!)と思ったというのは本人にはないしょ。


 この後、授業が終わるとタカも学級新聞作りに協力すると言ってくれた。どうやら僕一人に厄介事を押し付けてしまった気がしたみたいだ。

 そう思っていたクラスメイトは結構いたようで、タカに続いて十人以上が同じように協力を申し出てくれた。

 みんなきっかけを探していたのだろう、何だかんだで人が良い奴らが多いクラスだと、ちょっと嬉しく思った。


 四谷先生はこうなることが分っていたみたいで、僕と視線が合うとニヤリと笑った。

 五年生の時から続けての担任なので、クラスメイトの性格や行動パターンなどはお見通しだったようだ。

 でも、こうなると先生の直接の手助けは期待できそうにない。

 質問すればアドバイスくらいはしてくれるだろうけど「学校は失敗するための場所」がモットーだから、僕たちが一通り作り終わるまでは、口出ししないつもりだろう。


 四谷先生のこうした態度は職務怠慢だと思われ易いみたいだ。僕自身も前はそう思っていたくらいだし。その考えが変わったのは、義おじさんに先生のことを話したのが切っ掛けだ。


 あの時も先生は、今日みたいに話し合いがまとまらずに大騒ぎになった学級活動を止めずに見ていただけだった。

 最終的に話し合い自体はなんとかなったのだけれど、皆の声が大きくなり過ぎていたようで、見回りをしていた校長先生が喧嘩をしているのかと勘違いして教室に飛び込んでくるほどだった。

 その後は四谷先生も含めて、クラス全員が校長先生からお説教を受けることになってしまった。


 このことをおじさんに話すと、


「それはなかなかできることじゃない」


 と言って感心してしまった。僕は


(先生がちゃんとみんなを注意して学級活動を進めていればよかったのに)


 そう思っていたから、おじさんの言葉にびっくりしてしまった。

 どうしてかと聞くと


「人間はな、立場や力が自分よりも下の者がいる前で怒られたり、叱られたりすることが嫌いな生き物なんだ。面子めんつを潰されたとか、プライドを傷つけられたとか感じるんだろうな。

 将だって一年生や二年生がいる所で先生に叱られるのは、普通に叱られるよりも嫌だろう?先生だって同じさ。

 校長先生や他の先生に怒られるかもしれないのに、お前たちの話し合いを見守ることを選んだんだ。立派な考えだと私は思うよ」


 そう話してくれた。

 そして続けてこう言った。


「先生にとって一番簡単なことは、一から十まで生徒にああしろ、こうしろと指示することだろうな。実際昔は結構そんな感じがあったからね。今の先生はむしろ大変なことをしていると思うよ」


 このことがあってから、僕の先生への見方が変わったんだ。

 そうするとこれまで見えていなかったことや、知らなかったことが沢山あって驚いた。今では、クラスの中で僕一人だけでも先生の味方の生徒がいてもいいんじゃないかって、そう思ったりしていた。


「…はぁ~~~…………」


 その日の放課後、僕は先生への見方を変える言葉をくれた義おじさんの前で溜め息をついていた。


「どうした?いつになくへたれているじゃないか?」


 おじさんのからかう声に反応する元気すらもなくしていた僕は、また「はあぁ~~~……」と溜め息をついた。

 その様子から何かおかしいと気付いたおじさんは、読んでいた本――ぼくが図書室から借りてきた――から顔を上げた。


「一体何があったんだ?ほら、言ってみろ。……もしかしてこの前話していた学級新聞のリーダーになったのか?」

「……そのことは別にいいんだよ………」

「そのことはって、テストに集中できないくらい悩んでいたのにか?」


 納得いかない、おじさんはそんな気持ちを表に出していたのだけれど、今の僕にとっては本当に『そのこと』という程度で気になることではなかった。

 どちらかといえばおじさんやタカたちクラスのみんなが手伝ってくれると言ってくれたことで、ぼくの中では良かったことになっている。


 そんな僕がどうして溜め息をついているのかというと、


「いろはお姉ちゃん、しばらく勉強とかアルバイトで忙しくなるんだって」


 おじさんは何のことだか分らないという顔をしていたが、すぐに答えを見つけてしまったようだ。


「ああ、いろは君に勉強を教えてもらうと約束していたことか」


 僕は正解というようにゆっくりと首を縦に振った。


「なんだ、あの子が忙しくなったから約束がお流れになって凹んでいた、ということか」


 おじさんにとってこの理由は僕の態度を理解するのに納得のいくものだったようだ。

 何だか僕が単純だと思われているような気もするけれど、今はそのことに怒る気力もなかった。

 そんな風にぼんやりとしていたから、おじさんがしみじみと言ったの次の台詞に飛び上るほど驚くことになってしまった。


「将も誰かを好きになるような年になったんだなぁ……」

「ななななな何、突然?」


 驚き過ぎて上手く喋れない。僕は自分の心臓がドキドキと早くなっているのを感じた。


「別に、そんなに驚く必要もないだろう。彼女のこと好きなんだろう?」


 僕の大袈裟な反応を見て、おじさんは苦笑しながらそう言った。


「確かにいろはお姉ちゃんは綺麗だし、ときどき可愛いと思うけど、好きかどうかはよく分らないよ」


 よく分らない、というのは僕の本当の気持ち。

 学校でもませた子たち、特に女の子たちを中心に「○○は××のことが好き」っていう話をしているのはよく耳にする。

 運動の得意なみっちや勉強ができるタカの名前は、そんな話の中にもよく出てくる。

 実は告白されたこともあるらしい。


 僕自身はそんな話に登場したこともないと思っていたのだけれど、タカによれば「本人のいる前では言わない」もののようで、みっちも一人でいる時に僕のことを話しているのを聞いたことがある、と言っていた。

 そのことを聞いた時にも、僕は嬉しいというよりも変な気持ちになってしまって、やっぱり人のことを好きになるというのはよく分らないことだった。


「いろはお姉ちゃんのことは置いておいて、問題は学級新聞の話だよ」


 苦手な話題から逃げるため、僕は強引に話を切り替えようとした。

 しかしこれは我ながら無理のある逃げ方だったと思う。何せついさっき自分で「そのこと」と言ってしまっている。大切な話というにはちょっと、といった感じだ。

 でも、おじさんはこれ以上同じ話を続けて僕を不機嫌にする必要はないと思ったのか、これに乗ってきてくれた。


「それじゃあ、どうなったのか詳しく教えてくれないか」

「うん。実はね………」


 ということで、学級新聞作りについて今日決まったことをおじさんに話し始めた。


「………それでみっちやタカ達もできるだけ手伝ってくれることになったんだ」

「将はいい友達を持ったな」

「うん。自慢の友達」


 ストレートな褒め言葉に嬉しくなってそう答えると、おじさんは満足そうな顔をしていた。

 僕のことを自分のことのように喜んでくれるおじさんは、幽霊だけどやっぱりいい人だ。


「それじゃあ新聞作りの方はまず、記事になるネタ探し、というところか」

「うん。とにかく調べることが決まらないと何もできないかな。みんなにも何か面白いことがあったら教えてくれるように言ってあるから、誰かいい話を見つけてくれるかも」

「私の方も出歩く時には何か起きていないか気をつけることにするよ」

「お願いします」


 学級新聞作りのための一つ目の目標が決まった後、僕たちは外国の有名なファンタジー小説の話で盛り上がり、気がつくと真っ暗になっていた。

 家に帰った僕はお母さんにこってりと絞られてしまったのでした。トホホ。


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