第1章-2 「そのスープは美味であった」
「一之瀬春華」
自称
「暗黒邪王」
身長は174センチと中々の高身長で、体重63キロの痩せ型体型。
黒く少し天パがかっている髪型をしていて、右手にはいつも赤い包帯を巻いている。
中二病を除けばイケメンで至って普通の高校3年生で18歳。
8月3日生まれで、青森のド田舎育ち。
父と母と高校1年生になる妹を家族に持つ長男だ。
そんな春華は嘗て味わったことのない危機に陥っていた。
「あぁ、腹減った。」
春華のお腹は既に限界寸前だった。
昨日の昼から何も口にしていない。
正確にいつから食べ物を口にしていないかは分からなかった。
ただ、胃の中がすっからかんであることだけが分かる。
「うっ…、気持ち悪い……。」
胃液が逆流してくるようだ。
車はガソリンが無いと走れないのと同様に、春華の燃料は底をつきていた。
仰向けで寝たままの状態で、身体は首より下に力が入らず動かない。
空は黒い雲で覆われ、辺りは薄暗く、周りは紫色に変色した気味の悪い木々に囲まれた森の中。
春華は硬い土の上で「うぅ……うぅ……」と、項垂れる事しか出来なかった。
春華が数分程その場で身動きを取らずに項垂れていると、ある疑問に行き着いた。
─あれ?俺は何故こんなとこにいるんだ?
しかし、余りの空腹に春華の思考は余り働かなかった。
いつも身に付けている右手の包帯がないことに気づいた春華は、ゆっくりと現状の整理を始めた。
朝7時:着たことのないスーツに30分も時間を掛けて着替えて8時に家を出る。
朝9時:駅付近のコンビニでサンドイッチを購入し、そのサンドイッチを食べながらバス停のホームへ歩く。
朝10時30分:就職試験会場に到着する。
─!?
そこでようやく春華は気づいた。
そう、春華は就職試験に行き、面接試験中に中二病を豪快に晒し、不合格確定の状況に陥っていたことを。
しかし、何度整理してもその後のことを思い出せない。
帰りのバスにも乗らず、鬱々した歩きで河原の横を歩き、家へと帰っていた。
そこまでだ。
春華はそこまでしか覚えていなかった。
何か重要な事を忘れてるような……。
そんな腑に落ちない気持ちで心の中はいっぱいだった。
そして結論へと辿り着く。
─あ、俺死んだのか!
薄暗く見覚えの無い場所=ここは死後の世界
途中から無くなっている記憶=死んだ時のショックで忘れてしまった。
何となくそう感じた。
空腹が限界で良い結果に思考が回らない。
しかし、春華はある疑問に気づく。
死んだ筈なのにお腹は空いている
その空腹による吐き気もある。
死んだこともないから死人の感覚は分からないし、もしかしたらこれが「死んだ」ということなのだろうと、考える。
上手く働かない思考で試行錯誤していたせいなのか、とても疲れた。
そして春華を突然の睡魔が襲う。
その時だった。
春華の頭の上の方から徐々に足音が近づいて来た。
春華の睡魔は既に限界で、身体は動かず、近づいて来る足音に顔を向ける事が出来なかった。
─もう限界……。
春華はそのまま静かに眠りに落ちてしまった。
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温かい布団の中で春華は目を覚ました。
目の前には見たことのない木で出来た天井。
ぐつぐつと聞こえる部屋には、甘く良い匂いが広がっていた。
春華は思わず、「ぐぅぅぅ」とお腹を鳴らしてしまう。
「腹減った…。」
薄暗い森で目覚めた時にも同じ様なこと言ったな、と思い出す春華。
そんな春華の枕元に、
「目が覚めたかね?」
と、老人のような人の声が聞こえた。
枕元のその人に顔を向けた春華は、驚きの余り言葉を失った。
そこには、
目は白目まで赤く、頭に髪の毛は生えておらず、肌は黒に近い紫色。
額からは二本の触角の様なモノが生えていた。
まるで「バイキ○マン」の様な姿に、春華は全身から冷や汗を流し、驚きの表情を見せた。
─悪魔!?
驚きと恐怖で頭の中はいっぱいだった。
すると、目の前の人では無い「ナニカ」は、
「驚かせてすまないね。」
と、申し訳なさそうに頭を下げた。
春華はその姿に多少の安心感を抱いた。
そして春華はその人ではない「ナニカ」に勇気を出し恐る恐る質問をした。
「あんた…、人間か?」
人間でないことは見ての通りだった。
しかし春華は、信じられないその姿を「人間であってほしい」と願うのだった。
すると、目の前の彼は、
「私があの忌々しい人間の姿に見えるのかね?」
と、逆に尋ねてきた。
まさか。
信じたくはないが、その言葉に唖然とする春華に、彼は、
「キミは運が良かった。私がキミを見つけなければ人間に殺されていたに違いない。」
そう言った。
言っている意味が分からなかった。
─人間の俺を人間が殺す?
悪魔の様な姿をした彼なら殺されると言うのも分かるけど、春華は同じ人間。
同じ人間を殺すはずがない。
もしかするとここは死後の世界で、この人はその世界の生き物なんだ。
そう思った。
すると彼は、
「お腹が空いたんだね、可哀想に…。今スープを注ぐから待ってなさい。」
目の前の彼は優しく言い、部屋の隅に置かれた鍋に歩いて行った。
しかし、春華には一つの疑問があった。
─俺は人間だぞ……。
先程彼は、「あの忌々しい人間」と言った。
そんな彼が何故人間である春華を助けるのか。
もしかすると、スープに毒を入れて殺すつもりなのか。
疑問は膨らむばかりだった。
春華が考え事をしている間に彼はスープを注ぎ終え枕元へと戻って来た。
彼は器に入ったスープをスプーンですくい、ゆっくりと春華の口元へ差し出した。
「食べなさい。身体が温まる。」
彼は優しくそう言った。
色はコーンスープの様なクリーム色で、中には色々な形の野菜?の様な食べ物がゴロゴロと入っている。
見た目は完全にシチューだが、中身の分からないスープだ。
中に毒が入ってるかもしれない。
しかし、春華のお腹も限界だった。
そのスープはとても良い匂いがした。
食べてはいけないのだと分かっていても余りの空腹に春華は食欲を押さえきれなかった。
そして春華はゆっくりとスープを口に入れてしまう。
そのスープは甘く、今までに味わったことのない味がしたが、余りの美味しさに思わず「美味しい」と、言葉が溢れてしまう。
それを見た彼は、
「安心して食べなさい。毒など入れはせんよ」
と、優しく微笑むように春華に言った。
その瞬間、春華の食欲は爆発した。
お腹が空いて動けない身体を無理矢理起こし、何も考えず手に取ったそのスープをただひたすらに口へと掻き込む。
「美味い……美味い……。」
こんなにも美味しいスープを春華は今までに飲んだことがなかった。
春華の目から涙が零れた。
止まらない涙に止まらないスプーン。
春華の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
「誰も横取りしたりせんよ、ゆっくり食べなさい」
彼は笑いながら空の皿にスープを注ぐ。
春華はスプーンを止める事なくスープを喉へと流し込む。
「げほっげほっ!」
当然噎せてしまう。
胸元を思い切り叩き、置いてあった水を全て飲み干す。
そしてまた食べ始めた。
気付けば隣のテーブルに10枚程の皿が積み上がっていた。
全て無意識の内に食べていたみたいだ。
そして春華は満腹になったお腹に満足し、「ふぅ」と一息吐くと、次にやって来たのは吐き気だった。
空っぽの胃に満腹になるまで食べ物を突っ込んだのだから当然だ。
「おえぇぇっ……。」
春華はそのまま布団の上にリバースしてしまう。




