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酒場の従業員は請負人  作者: カズトモ
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 ガタン、ガタンとリズミカルに揺れる馬車に乗りながら師匠に託された土の魔法で造られた小鳥の形をしたゴーレムが空中を飛び交うのを見つめていた。


「アクアちゃん、飲み水を補充してくれないかい。」

「はいわかりました。」

 私が馬車に同乗することを許可してくれたおばちゃんに頼まれて馬車に積まれているタンクに魔法で水を貯める。


「やっぱり魔法って便利ね~私も使えたらどんなに楽か。アクアちゃんがいてくれて助かるわ。」

「いえ、私も馬車に乗せて頂いているんですからこれくらい当然です、また空になったら言ってくださいね。」

「嬢ちゃんくらい一瞬でこの大きさのタンクに水を一杯に出来るなら国お抱えの魔法使いになれるんじゃないかい?」

 馬の手綱を握っているおばちゃんの旦那さんに声をかけられた。

「こうみえても私はティヴラン国の魔法使い部隊に所属しています。」

「「えっ!」」


 2人が分かりやすく驚いた顔をしていた、無理もないだろう、この大陸においてティヴランは大国と呼べる国の中の1つで商業国家として栄えている国、ティヴランの特殊な所は魔法使い一人一人に爵位を与えること、2人はそれを知っているから驚いているのだろう、こんな20にも満たない小娘が爵位持ち、誰だって驚く。

 魔法使いが何故こんなにも優遇されるのか?簡単な話だ、魔法を使える者が少ないからだ。


 魔法使いの能力は子には遺伝しない、私も師匠に拾われるまでは農村で畑仕事しかできない10歳の女の子だった、魔法を発現させてからは学校にも通えない私の人生は180°変わってしまった。

 両親と共にティヴランに招致され瞬く間に住む家も着ている服も変わり、通えないと思っていた学校は魔法使い育成学校だが通えて16で卒業、魔法使い部隊に所属はしているが魔法使いは国にとって貴重な存在、いや他の国への軍事力の抑止力として存在しているので危険な仕事などは受けることもない。







「貴族だったのか・・?ティヴランってここから遠い東にある大国だよな、ですよね、なんで嬢ちゃ、アクア様はこんな所にいるのですか?」

「嬢ちゃんでいいですよ、ティヴランを離れてようやく伸び伸びと旅が出来るのですから。

 私は魔法使いとしての師匠に頼まれて人を探して旅をしているんです。」

「貴族ってのも固くるしそうだな。」

「大陸を回って人探しかい、大変だね~」

 おじちゃんとおばちゃんはそれぞれ感想を述べた。


「探し人って誰だい?魔法使いがわざわざ探しに行くのならやっぱり魔法使いかい?」

「魔法使いかはわからないけど、特徴だけなら聞きました、赤い髪の大男と茶髪の胸が大きい人だと。」

「・・・・・・」

「・・・アクアちゃん、赤い髪の人ってのは珍しいから見つかるかも、知れないけど、大丈夫?全然情報がないようだけど・・」

 おばちゃんが言いにくそうに聞いてくる、うん私もそう思う。

「おかげで渡されたお金も尽きそうで困ってたの、おばちゃんに拾われて良かったよ。馬車に乗るお金がなかったからね。」

「嬢ちゃん、長い道のりのお礼だ少しばかりだが受け取ってくれ」

 おじちゃんが懐からジャラジャラと音がする袋を取り出して私に投げてきた。

「お金?受け取れないよ、それに心配しないでおじちゃん達に送ってもらう街には冒険者ギルドがあるって話だからクエストを受ければお金は稼げるから。」

 丁重に断り近くにいたおばちゃんの方に袋を返した。

「いいのかい?アクアちゃんのおかげで水の補給に立ち止まることなかったから早く着きそうなんだよ。」

「私は魔法使い、人のためになることでしかお金を貰うこと以外は駄目だと師匠に言われてるから。」

「は~、いい師匠なんだね。」

「はい!」

「嬢ちゃん見えてきたよ、あれがコルマールの街だ。」

 おじちゃんが指を指した先には5メートルもの壁が横に連なっており入り口として一角のみが開かれていた。

「あそこで入場審査を受けてから入ることが出来る、嬢ちゃんも探し人が見つかるといいな。」

「ここまでありがとう。」

 おばちゃんが私の手を握ってくる。

「私の方こそありがとね、おじちゃん達も仕事頑張ってね。」


 私はゴーレムの小鳥を肩に乗せて馬車から降りて入場の列に並びに行く、おじちゃん達は馬車の荷物の検査があるので別の列に並ばないと行けないからお別れだ。


「住民カードもしくはギルドカードを。」

 私の順番になり冒険者ギルドで作ったギルドカードを門兵に手渡すと門兵は水晶の下のカード差し込み口にカードを通す、すると水晶が青色に輝きだした。

「問題ない、ようこそコルマールへ。」

 カードを返却されたので門をくぐり街に入ると街には水が溢れていた、水路が道のようにあり噴水により水が噴き出している、外から見た壁の内側には甲冑を着た騎士を模した像が間隔を開けて飾られている。


 お金もないし、私の探している人達の情報を聞くならギルドに向かって歩く、冒険者ギルドにはどの街でもデカデカと看板を掲げているのですぐにわかるはず。



 見つけた、見つけたけど・・・

「おいにいちゃんどこに目を付けて歩いてるんだ!」

「ここに2つ。」

「なめてんのか~!」

「兄貴に謝れや!」

「そっちがぶつかってきたんだろう?」

 買い物袋を抱えた赤い髪の男が筋肉質の男3人に囲まれており、見事にギルドの入り口を塞いでいた。

 赤い髪!?


「あーぁあいつらカイルさんに絡んでやがる」

「初めて街に来たんだろう、気の毒に。」

「壁にめり込むに500レミル。」

「いやコンクリートの地面にめり込むに500レミル。」

「「のった!」」

 野次馬の人間は助ける様子はなく、賭け事みたいなことをしている。


「この~痛い目にあわせてやる!」

「「やっちまえ兄貴~!」」

 1番体の大きい兄貴と呼ばれる男が赤髪の男に殴りかかった。

「ふげー!!」

 赤髪の男が抱えた買い物袋が宙に浮いたと思ったら殴りかかった男が奇声を上げながら空に飛んで行きギルドの上に凄い音と共に落ちたようだ、買い物袋はいつの間にか赤髪の男が抱え直していた。

「後はお前らか?」

「ごめんなさい!」

「許してください!」

 兄貴と呼ばれる男と同じようになりたくないのか土下座して謝っている。

「うーん、駄目。」

 ドゴン!バン!

 赤髪の男の平手により凄い音をたてて壁と地面にめり込んだ。

 平手!?


 赤髪の男は一仕事終えたと言った感じでギルド内に入っていった。

「1人が壁。」

「もう1人が地面。」

「「あと1人がギルドの屋根。」」

「「わはは!」」

「賭けはなしだな。」

「だな。」

 野次馬もめり込んだ人を放置して街の中に溶け込んでいった。


 って赤髪の人はもしかして?

 私も我に帰ってギルドに入っていった赤髪の男を追いかけてギルドに入る、ギルドの内はガヤガヤと人で溢れていた。

「なんなのココ?本当に冒険者ギルドなの?」

 冒険者ギルドにはココのように酒場や飲食店を併設している所はあるがこんなにも人で溢れているギルドは見たことがなかった。

「冒険者ギルドで合ってるわよ。」

 後ろから声をかけられたので振り返ると茶髪の美人な女性がいた。

「・・きれい。」

「ありがとう。」

 はっ、心の声が漏れていたのか女性が笑顔でお礼を言ってきたので恥ずかしい気持ちになった、多分顔が赤くなってると思う。



「ステラさーん!帰ってきたのならこっちで一緒に飲まないか?」

「抜け駆けするな、ステラさん俺と。」

「いやいや俺達と飲もうぜ!」

「バカ言わないでよ、従業員が飲むわけないでしょ、その代わりにみんながお金を落として行ってね。」

「「「はーい!」」」

 酒場のお客に誘われたステラだが笑顔を振り撒くとみんな大人しく自分の酒を飲んでいた。




「あなたも仕事なら奥の受付よ、飲むなら私か制服を着ている従業員に頼んでね。じゃあ。」

「待ってください。」

「なに?」

「赤い髪の男性を知りませんか?このギルドに入って行くのを見たんですけど。」

「カイルのこと?あいつに何かされた?」

「いえ、私が探してる人かも知れないんです。」

「探してる?」

 ステラの目線が私から肩に乗せている小鳥に移る。

「あらあなたティヴランの魔法使い?」

 えっなんでわかったの?茶髪の女性?まさかこの人が師匠の言っていた?

「はいそうですけど。」

「ここじゃ話せないわね、カイル~!」

 女性が大声を上げると酒場のカウンター奥からさっきの赤髪の男が出てきた。

「なんだ~!帰って来たなら仕事してくれ、ここのお客はステラ目当てだぞ。」

「今日は帰るわよ、あなたも仕事切り上げなさい。」

「「「え~!」」」

「ステラさん帰っちゃうの?」

「帰らないで!」

「うるさくなった、ステラどういうことだ?」

 カイルさんがこっちに耳を塞ぎながら歩いてきた。

「いいから帰るわよ。」

 ステラさんを先頭にギルドを出るがその間もステラを求めるお客の悲鳴は鳴り止まなかった。




「さてと、話を聞こうかしら。」

 ステラさんは私の前のテーブルにコトっと音を鳴らしながらジュースの入ったグラスを置いた。

「あのここ酒場ですか?」

 辺りを見ると酒瓶が棚やカウンターに立ち並んでいたので酒場だと思った。

「そうよ、私達の家でもあるのよ。」

「なんでギルドの酒場で働いていたんですか?」

「あー、なんで酒場があるのにギルドで働いていたか気になるのね、簡単な話よ時給1000レミルだからよ。」

「はっ?」

「だから時給がいいからってことだよ、あんたティヴランの魔法使いなんだろ?俺らに用があるって話、だよなステラ?」

 カイルさんと呼ばれる赤髪の男がステラの隣にある椅子に座った。

「そうね、ゴーレムはティヴランの魔法使いじゃ今は1人しか造れないはずだもの。」

 ステラさんが小鳥に目を向けると、小鳥は羽を広げてテーブルの上に降り立ち、喋り始めた。

「お久しぶりですステラ様、カイル様。」

「えっしゃべった!?」

「あなた知らなかったの?」

 ステラさんに聞かれて私は顔を上下に振る。

「アクアのことですからお2人に自己紹介もしていないでしょう?この子はアクア・ハミルトン、私の弟子になります。」

「そうアクアね、言っとくけどアクアはバカ面になっているわよ。ちゃんと伝えておきなさいよ、ゴーレムは遠距離でも視覚、聴覚が術者に伝わることを。」

「いやいやこれもアクアの仕事振りを知るためには必要なことですよ、おかげでアクアが私の悪口を旅立って2日目に言っていたのがわかりましたから。」

 えー!聞かれてた!?仕方ないじゃない赤髪の男、茶髪の胸が大きい女しか情報が無くて送り出されてつい・・

「あらあらアクアは小さくなったわね、それであなたが私達に何の用かしら?」

「『ここに集う迷い人』この言葉と共に正式に依頼を出します、ノアと呼ばれる物を探して頂きたい。」

「・・・・・・」

 ステラさんとカイルさんの顔が悲しい顔になった。

「返事はなしですか、でしたらアクアをあなた達に預けます。」

「えっ師匠!?どういうことですか?」

「お2人にお仕えして魔法使いとして成長して帰ってきなさい。」

「仕える?成長?」

「ステラ様、アクアを育てて頂くと言う依頼なら受けて頂けますか?」

「・・・・・・」

「また返事はなしですか。困りましたね。」

「・・・おいジェラリー、なんでノアを知っている?」

 カイルさんが師匠を呼び捨てにして聞いた。

「国を救うためです、ノアと名乗る力、それによって私の国は滅びようとしています、ティヴランの魔法使いを束ねる者として若い者達は何とか国外に逃がしましたが・・・交信もここまでのようです、アクアをお願いします。がフッ!!」

「師匠!?」

「ジェラリーどうしたの!?」

「ジェラリー!?」

 小鳥のゴーレムはボロボロと崩れてしまい、残ったのは土の塊だけだった。

「ステラ!」

「わかってる、遠い距離だから魔力を練るわ、刀を取ってきて。」

「わかった。」

 カイルさんは奥の扉に入っていった。

「師匠はどうなったんですか!?何か知っているなら教えて下さい!」

「黙ってて、転移するから魔力を練ってるの!」

 ステラさんの一喝で何も言えなくなってしまう。

「ステラ持ってきた。」

「跳ぶわよ!服に捕まって!」

 カイルさんがステラさんの腕を掴んだ。

「なにしてるの!あなたも行きたいんでしょ!?」

 ステラさんに言われて私はステラさんの腕をすがり付く形で掴む。

『風となりて私は誘う、理を覆し、空が転じる』



 酒場の風景から一変して私が見たのは地獄のような光景だった、私はカイルさんに抱き抱えられ今ティヴラン国の上空にいる、いつも通っていた魔法使い育成学校は火で焼けており、街も塔も城も炎に包まれていた。

「お父さん!?お母さん!?ジェラリー様は!?」

「ステラこれは!?」

「えぇ火のノア、グエルの炎の色。」

「感じるか?」

「うぅんもういないみたい。」

「生き残りはいないみたいだな。」

「えぇ・・」

 炎の熱のせいなのかステラさんとカイルさんの会話を聞きながら私は意識を手放した。

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