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酒場の従業員は請負人  作者: カズトモ
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 俺の名前はタリス。俺は18の時に村の金を盗んだと疑いを掛けられて村から追い出された、俺が親無しだからと言う理由だけでだ、目付きが悪く性格を勘違いされているとは思っていたがここまでの仕打ちをされるとは思わなかった。

 追い出されたことは恨んではいない、俺のことを嫌な目で見る連中と生活していくのは苦しいものだったから。

 行くあてもなく少ない手持ちの食料も尽きかけていた時に出会ったのが義賊を名乗る集団のリーダーのカムイだった。

 カムイは不正を働く貴族の家から金や宝石を盗み、時には不正を働く貴族や商人の馬車を襲ったりして生活に苦しむ者に対して施しをもたらす仕事をしていると話してくれ、俺も仲間に入るように進められたので仲間に入ることにした。

 カムイの仲間になったのは、カムイの不正を許さないという強い信念に触れたのかただの気紛れだったかも知れないが、俺はカムイと仲間20人程で毎日のように義賊として仕事に明け暮れた。

 もちろん貴族の金を狙っても人の命は取るような真似はしていない、それこそが義賊だとカムイは話してくれた。

 ただ、泥棒をしている俺達を貴族が許すわけはない、俺達を捕らえようと貴族から依頼を受けた冒険者や国の兵士たちがやって来るので俺達は仲間を減らすこともあったがなんとか逃げ延びていた。


 数年が経ち、俺が入った時のメンバーは少なくなっていたが仲間の数は増えており、俺も義賊の中では中心メンバーとなっていた。

 カムイが今回手に入れた金や宝石を包んだ袋を手に立ち上がる、金を配るのはカムイともう1人の男の仕事だったため俺は気になって声をかけた。

「カムイ、いつもどこで金を配っているんだ?」

「・・・そろそろお前にも話してもいいだろう。付いてこい。」

 根城にしている山の洞窟からカムイに付いて外に出た。



「おいカムイ!ここは悪名名高い山賊が住む山だぞ。何でこんなところに?」

 カムイに付いてやってきたのは人拐い、人殺し、金を奪うためには何でもやる山賊の山だ。

「いいから付いてこい。」

 ボロボロな建物の中に入ると大勢の汚ない服を着た山賊に囲まれてしまう、奥の筋肉だるまの大男が口を開いた。

「よう、カムイじゃねぇか!金は持ってきたか?」

「はい!グラス様、ここに。」

 カムイが袋を持つ手を前に出すと横でこちらを見ていた山賊の1人が袋を取りグラスの元へと運んだ。

 どういうことだよ?俺はカムイに聞きたいことがあったが山賊に囲まれているので口が開かなかった。

「確かに・・お前はいい仕事をするな。」

 グラスは袋の中を確認して頷きながらカムイを褒めるとカムイは頭を下げた。

「これで私達は失礼します。」

「ふんっ、汚い俺らとは一緒にいたくないわけか?まぁいいお前の集団のことには目を瞑る代わりに上納金はしっかり納めてくれてるからな。」

 グラスはしっしっと手を降り俺達を退出させた。



「どういうことだよカムイ!あの金は恵まれていない村や人に配るものじゃなかったのかよ!?」

 俺は帰り道にカムイを木に押し付けて問い詰める。

「綺麗事だけじゃ生きていけないんだよ・・」

「はっ!?」

「生きていくだけの金は手にするには学もない俺達には盗みしかできない、生きていくだけの金は手に入るし上納金さえ払えば山賊に・・同業者に狙われることもない。」

「だからってあいつらがあの金で何をするかわかってるのか?武器を買い、人を殺しては金を奪う、女がいれば犯す!わかってるのか!?そんな奴らの・・お前のそんな考えの片棒を俺は担がされていたのか!?」

「お前だって何も出来ないから今!こうして!盗みをしているだろうが!」

 カムイの言葉に掴む手が緩むとカムイは手からすり抜けて帰路を歩き始めた。

「お前にはわからないか、帰ってきたくないなら好きにしろ。」

 俺はカムイと一緒に戻る気力をなくして木を背中に地面に座り込む。

 ずっとかカムイ?ずっと俺を騙していたのか?確かに義賊として人は殺してはいないが、盗んだ金を山賊なんかに渡していたら俺達だって山賊と一緒じゃねぇか・・・



「カイル、人が落ちてるわよ、これもあいつらの仲間かしら?」

「聞いてみたらどうだ?」

 女と男の声が聞こえる、頭を上げて見ると服を血で汚した赤髪の男と刀を血に濡らした茶髪の美人な女がいた。

「あなた山賊?」

「・・・山賊か・・ははは、そうかもしれない。」

 考えていたことを女に聞かれて山賊と同じだと実感する。

「なんで泣いてるのよ、まぁ山賊なら殺すだけだけど。」

「待てよステラ、仲間の居場所を聞き出すのが先だ。」

 ステラと呼ばれた女が刀を振り上げると男がそれを止めた。

「おーい、あんた義賊と名乗る集団も仲間だろ?居場所教えてくれないかな?」

 義賊?カムイの・・俺達のことか?

「あんたら一体・・・?」

「山賊狩りよ、ちょっと依頼されてね。」

 山賊狩りか・・・国に依頼された冒険者か?俺は山賊の山の方を見ると煙が上がっているのが見えた、まさかこいつらが2人で?

「あんたら2人で山賊を?」

「まぁね、それよりも山賊達が書物に記していた傘下の集団も潰さないといけないから早く教えてくれる?」

「・・・・・・」

「だんまりか?なら少し痛い目に・・」

「待ちなさいカイル。」

 俺は義賊が根城にしている山を指差していた、カムイに罪を償って欲しいためなのか、俺は山賊を潰すだけの力を持つ2人に仲間の居場所を伝えていた。

「あの山か?」

「近いわね、楽でいいわ。」

 2人は俺を置いて歩いて行こうとしたので声をかけた。

「・・俺を殺さないのか?」

「長いこと生きてきてるからね、自分が犯した過ちを悔いている人かどうかわかるのよ、それにあなたからは何も悪意を感じないわ。」

 ステラは取り出した布で刀の刃を拭い、布を捨てながら義賊の居場所にカイルと向かう。

 俺の罪、カムイや仲間達と義賊として活動して笑いあった日々は、他の者達が泣き叫ぶ結果に繋がっていたかもしれない。

 孤児が集まった集団は孤児を救うものだと思っていたのに・・

 俺は2人が去った後も山賊の山を見ながら泣いていたが、カムイのことが気になり2人の後を追って走った。



 雨が降り始めて服が雨を吸って重くなるのを感じた、山に着くと見張りの奴が血だらけになって倒れていたので近付いてみると息はしているようで、傷も深いものではない。

 洞窟に向かう道中に倒れている奴らも気絶しているだけで無事だった。

「仕方ねぇだろ!生きるためだ!強いものに守ってもらって何が悪い!弱い奴が悪いんだ!ぐわぁぁ!」

 カムイの叫びが洞窟内から聞こえた。

「やっぱり他の奴らは山賊のことを知らされていなかったんだな。」

「そうね、リーダーとその周りだけだったみたい、でも盗みは盗み後の連中は捕縛して依頼主に届けましょう。」

 洞窟の中を覗くと2人の足元にカムイが首から大量の血を流して倒れていた。金を受け渡しに行ったもう1人も首と胴体が離れた状態でカムイの近くにいる。

「カムイ!」

 俺は洞窟に入りカムイに駆け寄った。

「あんたはさっきの・・・」

「コイツの仲間だったのねあなた。」

 カムイの体はどんどん冷たくなっていくように感じた。

「・・知っていると思うがカムイは仲間に山賊と繋がっていることを知らせてなかったんだ、他の奴らは貧しい奴らを救うためだと信じて動いていた・・・だから頼む見逃してやってくれ!」

 俺はカムイを抱き締めながら2人に懇願した。

「・・・察するにあなたも知らなかったのね、真実を知ってコイツを許せなくなり居場所を教えてくれた。そうでしょ?」

 頷く。

「ステラどうする?」

「じゃああんた荷物持ちね。」

「・・・?」

「あんた達が盗んだ物を運びなさい、他は治療はしないけど生き延びたら無罪!」

「勝手に決めていいのか?」

「依頼を受けたら仕事はするけと依頼中は私がルールよ!だから早く荷物を纏めなさい。」

 俺は指示通りに盗んだ荷物を担いで2人の元に戻る。

「それだけ?」

「はい、後はカムイが貧しい人に配ると言って山賊に・・・」

「そう、なら行くわよ。」

 俺は約束通り仲間を見捨てて2人の後に続いて歩く、気絶しているだけだし大丈夫だと信じて。



 1時間程歩いて城のある城下町へとたどり着いた。2人は警備隊の施設の前を通りすぎる。

「あの、警備隊に行かなくていいんですか?」

「依頼主の所に行くんだよ、この先の酒場に待たせているから。」

「はぁ。」

 何にしても俺は荷物を届けたら牢屋に入るだけだけどな。

 それから少し歩くと小さな酒場に2人と共に入る。

「お帰り、待っていたよ。」

 中には杖を手に椅子に座る爺さんがいた。

「山賊は潰した、後は爺さんに任せるぜ。」

「わかった、山賊の根城にある物はこちらで回収しよう。」

「では依頼終了とさせていただきます、それとここに山賊傘下の集団が持っていた金品は持って来ておりますから。」

 ステラがテーブルを叩きテーブルに置けとジェスチャーしたので袋をテーブルの上に置いた。

 俺はこの爺さんに突きだされるのか?

「依頼した時には見ない顔だな。」

「えーと、」

「タリスです。」

「この子はタリス、私の下僕よ。」

 えっ?

「それと相談なんだけど、この子は身分がないのよ、お祖父様の力でなんとかならない?」

 えっ?

「身分がない下僕か・・?」

 爺さんは俺に疑いの目をかける。

「俺は義賊の集団の一員でした。」

 素直に答える、これも罪を償うためだがステラはバカと呟いた。

「・・・いい目だな、義賊のことは知っている、お前達のおかげで捕らえた貴族は少なくない、いいだろうこの町で生活できるように身分証を発行してやろう。」

「えっ?でも俺は・・・」

「いいんじゃ、これも私の罪が招いた事態と言っていいからな。」

「よし下僕ゲット!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「何よ?そんな目で見ないで!タリスも私が助けて上げたのよ、生意気な目をするんじゃない!」

「いたい!」

 ステラに腹部に膝蹴りを入れられた。

「わかるぜその痛み。」

 カイルは俺の肩に手を置いて親指を立てる、意味がわからない。

「とにかく全うに生きること、ステラさんが面倒を見るなら問題ない。」

「面倒なんて見ないわよ、私達この町から出ていくからこの酒場をタリスに任せるだけ。」

「俺がこの酒場を?」

「しっかり働いて金を稼ぎなさい!回収には来るから赤字出したら握りつぶすわよ!」

 ステラは何かを握るポーズをしたので無意識に内股になった。



 それから3日経ち、ステラ達の依頼主のこの町の王の爺さんから身分証が手に入ると同時にステラとカイルは酒場から出ていった。ステラがいなくなった酒場は客足が減り、それでも何とか切り盛りしている。




 酒場の生活にも慣れて、何年かに一度金を受け取りに来るステラはとても恐ろしい人で、山賊に上納金を払うカムイはこんな気持ちだったのかもしれない。

 数ヶ月前にステラが急に2人の女の子を連れてやってきた、俺は食事中だったのに寒い真夜中の外に放り出された。身分証を取ってこいと言われても頼めるのは王の爺さんだけで城は真夜中の来訪者は受け付けないだろう。路地の中に入り寒さに震えていると隣にステラが急に現れた。

「あの子達をよろしくね。」

「誰なんすか?」

「詮索はなしよ、襲ったら千切るからね。」

 いつの間に刀を!?

「はい!」

「あなたなら任せられるわ。」

「あの、あなたは一体?王の爺さんとも親しいようですし。」

「あなたの雇い主みたいなもんだけど、実際は私も酒場の従業員でしかないのよ。2人をよろしく。」

 ステラは何かを呟くと消えていなくなってしまった。


 カムイ・・・底辺からここまで来るのにも苦労するものだよ。俺は運が良かっただけだが、他の仲間達はどうしてるだろうか?

 笑いあった日々をよく思い出すよ。間違ってはいたがお前には感謝している。

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