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酒場の従業員は請負人  作者: カズトモ
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4

 









『こっちを見るんじゃねぇ!』

『駄目よあの子に近付いちゃ。』

『どっかいっちまえよ化け物め!』

 止めて、石を投げつけないでよ。

『化け物。』

『化け物。』

『いなくなれ化け物め!』

 僕は化け物なんかじゃない・・

 痛いよ、胸が痛いよ。

「カイル!?カイル!?」

「・・・ステラ?」

「あんたどうしたの?うなされていたわよ。」

「・・・ステラと付き合っている夢見てた。」

 拳がカイルの顔面にヒットした。

「いって~!」

「私と付き合うのが悪夢なの!?ていうか勝手な夢見てるんじゃないわよ!こっちだってあんたと付き合うなんて願い下げよ!」

「ずみません・・」

「は~、お客よ。」

 店の中の椅子に座る女性に気付いた。






 隣国が挙兵し1万もの大軍でこの国に進行中であると見張りの兵から連絡を受けて第一級の避難勧告が出され民衆は城の防壁陣の中まで避難してある。

 その中で国で最強の部隊である1万もの兵を保有する騎士団が隣国の大軍に対して派遣された。こちらの停止命令を聞くことなく敵軍は休むことなく向かって来ていたのでやむ終えず、隣国が境界線を越えた時点で開戦されることになった。

 最強の騎士団長『紫電のガイクツ』率いる騎士団の敗北など考えていなかった。しかし結果は1万もの兵が敵国の兵を一人も倒すことなく壊滅してしまう、逃げ帰った兵の話では紫電のガイクツは戦死、相手の兵は虚ろな目をしてこの国を目指しているとのことだった。そして騎士団を壊滅させたのは一人の女性、隣国の王女であるカタリナが持つ黒い杖から放たれた光が大地をえぐりとり、騎士団を地中に引きずり込んだそうだ。

 目の前で国王が開いている戦評定の話を聞いて私は驚く、元々隣国出身の私は王女カタリナの友だった、今はこうしてこの国の国王の側近騎士として支えているが私が知るカタリナは平和を望み、戦争など嫌う子であったはず。

 評定では敵軍の移動速度からして3日でこの国へ到達するので国の守りを固め、他の国へ使者を出して援軍をこう籠城戦と決まった、評定が終わり部屋に残る国王に私は呼ばれた。

「リンよ、お前に頼みたいことがある。」

「はい。」

「今はあるかわからぬが街のはずれに酒場があるそこへ行きこう伝えよ『ここに集う迷い人』とそう言えば話を聞いてもらえる、そして隣国の古から伝わる黒い杖が動き出したと。」

「民衆は避難しております、それに黒い杖とは何か聞いてもよろしいでしょうか?」

「避難場所は探させたがいないようじゃった、黒い杖については儂もよく知らぬのじゃが、ただ隣国に伝わる伝承ではあれは人の心を黒く染める物じゃそうじゃ、おそらく報告にあったカタリナ姫は杖に操られておる。」

「カタリナが!?はっ失礼しました!」

「そうか姫はお主の友であったな、だが杖を持っているのは姫じゃ国を守るため殺さなければならないかもしれぬ。」

「・・・・・・」

「案ずるな、兵を殺されはしたが心優しき姫は儂も救いたい、だからお主に酒場の人間への繋ぎになってもらいたい。」

「その酒場にいる人とは?」

「昔、儂を救ってくれた人じゃ。酒場があることを祈るしかない。」

「はい、行って参ります!」

 私は国王から文も預り街外れに向かい急いだ。

 街には避難勧告が出されたこともあり人はいなく静かだった、街外れで煙が上がっているのを見つけた避難していない人がいる?私は速度をあげて向かう、そこには古い酒場があり明かりが漏れている、ここが国王が言っていた酒場か。

「いらっしゃい。席は開いてるから好きに座って。」

 酒場に入ると女の私からしても綺麗な女性がいて、椅子を並べて眠っている赤い髪の男性がいた。

「あなたたちは避難勧告を聞いていないのですか?」

「ごめんなさいね、今帰ったばかりなのよ。」

 避難勧告と伝えても女性はあまり驚いた様子がない、国王の言葉を思い出す、まさかこの人達が?

「ここに集う迷い人」

 女性の顔付きが変わった。

「そう、お客様か。私はステラ、あっちで寝てるのがカイル、話を聞くから座って待ってて。」

 ステラはうなされているカイルに近付く。

「カイル!?カイル!?」

 ステラがカイルの肩を掴み揺する。

「・・・ステラ?」

「あんたどうしたの?うなされていたわよ。」

「・・・ステラと付き合っている夢見てた。」

 拳がカイルの顔面にヒットした。

「いって~!」

「私と付き合うのが悪夢なの!?ていうか勝手な夢見てるんじゃないわよ!こっちだってあんたと付き合うなんて願い下げよ!」

「ずみません・・」

「は~、お客よ。」

 カイルが鼻を抑えながら私を見た。

「美人な人だな~、甲冑がよく似合う。あれ?なんで甲冑来た人がここに?いてっ!」

 私の体を上から下まで見ていたカイルはステラに頬を掴まれ痛がっていた。

「ばかっ、お客って言ってるでしょ!」

 ステラが服で隠されているがチラリ見える何かが描かれた鎖骨を指差してカイルに言うとカイルの目付きがいやらしいものではなくなる。

「そうか。」

「ごめんなさい、あなたは私達に何を依頼するのかしら?」

 依頼?私は国王からに伝えるように言われたことを伝える。

「私は国王様の騎士でリンと言います。国王様から酒場の人に伝えるように言われました、隣国の黒い杖が動き出しました。」

「あの呪いの杖か?なんか手違いでもあったんだろうな。」

「そうね、あの杖は隣国の宝杖だからあのケースから出すことは禁じられていたはずだけど。」

 2人は杖のことを知っている?

「あの戦争のことを国の王は知っているはずだから、まず王の仕業じゃないな。」

「宰相辺りじゃないかしら?あいつ何か嫌な感じしたのよね。」

「あり得るな。」

「ちょっと待って下さい!お2人はあの黒い杖のことを知っているのですか?」

「あぁ悪い、こっちで話を進めてしまって。でも説明するにしてもなぁ、知らない方があんたのためだぜ。」

「・・・あの杖を使っているのは私の友人の隣国の王女カタリナなんです、お願いします。私はあの子を助けたいので情報をお願いします!」

「カタリナ姫が使っているですって?なんであの子が?リンって言ったわね、口ぶりからして国王から少し聞いてるみたいだけど私達にも今の状況を教えて貰えない?」

「はい、隣国の兵が突如挙兵して、すでに国境付近でこちらの騎士団と交戦、その時に生き残った者の話ではカタリナが持つ杖から黒い光が放たれて大地がえぐりとられ、敵兵は虚ろな目でなおもこちらに進軍中と聞きました。」

「虚ろな目・・黒い光で大地をえぐる・・」

「第二段階までいってるみたいだなステラ。」

「そうね、第一段階で人の心を乗っ取り、第二段階で光を放ち大地を動かす、第三段階まで行くとまずいわね。手が出せなくなる。」

「行くぞ、ステラ!」

「待って下さい!」

 立ち上がるカイルを呼び止める。

「第三段階とは何なのですか?」

 カイルはステラと目を合わせて何かを確認しているようだ。

「リン、第三段階にまであの杖が力を使うと、術者を囲む黒い球体になるの。そして球体は全てを壊し尽くす兵器と化す。術者の命を使い果たすまでね。」

 術者の命?・・・・カタリナが死ぬ?

「なんでそんなことに!?」

「わからないわ、でも今のうちに止めないと。」

 そうだ、ステラにもわかるわけはないのに私はステラに当たり散らすようなことをしてしまった。

「私も行きます!」

「・・・遅れるようなら置いていく。」

 私は国のことを考えたら国王に伝えないといけない立場なのに、カタリナを助けたくて志願した。

「なら私がこの国の国王に久しぶりに会ってくるわ、カイル先に行ってて。」

 ステラは長い袋を持ち出ていった。

 私もカイルと共に酒場を出て隣国に向けて走り出した、が私はどんどんカイルに距離を離されていく、魔力付与により高めている体なのに、あの人は何者なんだろう?


 魔力も限界を迎えた私だがカタリナを助けたいという気持ちが強いのか、体が動く。もう半日走り続けていて昼になった。その時大地が揺れて爆音が聞こえた。

「もう始まっているみたいね。」

「ステラさん!?」

 いつの間にかステラが私の隣を走っていた。

「カイルはあなたの同行に許可を出したけど、私は薦めないわあなたカタリナに殺されるわよ。」

 そう言ってステラは走り去って行ってしまった。私の足が止まる。確かに私が行っても・・・いやだ、私はカタリナを助けるんだ!私はまた走り出す。

 疲れた、足がうまく回らない、時折響く音と揺れが私を恐怖させる。もう辺りは夜、暗闇になるが私が行くべき所から音がする、私は走った。


 カイルとステラの元にたどり着いた私が見たものは空に浮かび黒い膜を纏ったカタリナの姿であった、カタリナが持つ杖から黒い光が放たれて下にいる兵士たちもろとも大地がカイルとステラを地中に引きずり込もうとする、カイルとステラはなんとか足場を取り生き長らえるが兵士たちは飲み込まれて消える。

 本当にカタリナがこんなことを・・・

「やめてー!カタリナ!もうやめてー!」

 私は揺れが収まった大地を蹴り空に浮かぶカタリナの前に出た。

「バカ!なんで出てくるのよ!」

 ステラの動揺した声が聞こえた、でもどうでもいい、カタリナにやめて欲しい。

 カタリナの杖が光出してエネルギーを溜めているようだ。それが私に向いている。

「くそっ!」

 私を助けようとしたのかカイルがこちらに走ってくるのが見える。

「うわぁー!」

 急に奇声を上げてカタリナが苦しみだして地上に落ちてくる。

「カタリナ!」

 私はカタリナの元まで走る、カタリナは怪我がないようで黒い膜に守られたみたいだ。

「ステラ!」

「わかってるわよ!『理を外れた力よ憎しみを捨て放たれた力を鎮めたまえ』」

『人神封神』!

 ステラが転げ落ちた杖に向かって何十枚もの札を放ち、札は杖を囲みながら強い光を放つ。

 杖は紫色の結晶体に納まる。

「終わりか?」

 生き残った兵士は力が抜けたように地面に倒れこむ。

「聞こえたよリンちゃん、ありがとう止めてくれて。」

「良かった良かった、カタリナが無事で。」

 カタリナは私の手を握りしめる。

「カタリナ、久しぶりね。疲れてる所悪いんだけど、なんで杖の封印を解いたの?」

 ステラとカタリナはやっぱり知り合いなの?

「ステラさん、私は宰相に操られていたみたいです、意識はあったけど体が言うことを聞かなくなって、杖の封印を解いてました。」

「宰相はどこ?」

「死にました、杖を手にした私を操ろうとしていたらしく」

「操れず、逆に杖の力に飲み込まれたのね。バカな男。」

「ごめんなさい私、たくさんの人を殺したんです。お父さんも、ごめんなさい。」

「いいのよ、今は休みなさい。」

 カタリナはステラにおでこを触られると眠りについた。

「カイル、今すぐにこのことを国王に伝えなさい。」

「あまり、昔の依頼者に会うのはタブーだぜ。」

「いいから!」

「はいはーい。」

 カイルは杖を手にこの場から一瞬で姿を消した。

「カタリナ、お父さんも・・」

「リン、カタリナを連れて帰りなさい。」

「カタリナは、どうなると思いますか?」

「良くて牢屋で一生を過ごすことになるわね。」

 カタリナが牢屋、悪くて死罪。国と国の戦争の重み。

「リン、あなたはどうしたいの?」

「カタリナを逃がします、あなた達が国王から依頼を受けているのは知っていますけど。私は・・・」

「違うわよ、私達はリンから依頼を受けた。だから逃がすと言うなら手伝うわ。」

「・・・あなたたちは一体?」

「ただの酒場の従業員よ。さぁ逃げましょう。『風となりて私は誘う、理を覆し、空が転じる。』」

 気づいたら私は酒場にいた。

「ここは?」

「あなたが来た酒場に似ているけど、あなたの国からずっと離れた街にある別の酒場よ。ここをあなたたちにあげるわ。心配しないでね、住民権はここにいるバカ2号が調達するから。」

「バカ2号とは何ですかステラさん!?てか突然来られても何が何だか・・」

 ステラが指差しているのは黒髪の男性、ひっくり返って顔にはパスタが乗っていた。

「いいから、さっさと住民権を取ってくるのよ、この子がリン、こっちの子がカタリナよ。」

「真夜中なんですけど~!?」

 男性はステラに蹴られて外に出される。

「リン年齢は?」

「18です。」

「2人とも18だからね。」

「行くの確定!?」

 ステラは酒場の扉を閉めた。

「いいんですか?私達には何もお礼が出来ません。」

「いいわよ、国王から搾り取るから。」

 満面の笑みでいい放つステラ。

「とりあえず一晩あいつがいないから、心の整理をしなさい。カタリナをよろしくね。」

「はいありがとうございます。」

『風となりて私は誘う、理を覆し、空が転じる。』

 ステラは消えていなくなった。転移魔法なんて存在するんだ。本当に何者なんだろう?



 それから3日経ちカタリナが目を覚ました。国から逃げてきたことを伝えると、カタリナは哀しんでいた、たくさんの人を殺したカタリナは罪の意識に耐えられるのか不安だった。

 酒場の従業員としてタリスという男性の元に働き出して3年経つ頃には、笑顔を見せてくれるようにもなった。でも時折見せるカタリナの顔は見ててひどく痛々しいものだった。

 勝手にカタリナを連れてきたが正解だったのか、自問自答は生きていく中でずっと続いていく。

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