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酒場の従業員は請負人  作者: カズトモ
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「アクア、畑に肥料を撒いておいて。」

「はーいお母さん。」

お母さんに言われた通りに肥料を台車に乗せて畑に向かい肥料を撒き始めた。


「アクアちゃんは良く働くわね、うちのバカ息子とは大違いだよ、うちで取れた野菜を台車に乗せて置くよ!」

近所に住むおばさんが野菜を台車に乗せてくれた。

「ありがとうおばさん。」

私が住むコデラ村は小さな村で村人同士が今野菜をくれたおばさんみたいに助け合いながら生活していた。子供達も家の手伝いとして畑仕事や山に入って山菜取り、川で魚取りの毎日だ。

生活が苦しいわけではないけど、村の子供達の楽しみはたまに来る商人達から街の話を聞くことだ、聞いた話では私達の年頃の子供は学校と言う勉学に励む施設に通っているそうだ、優しい商人のおじさんは子供達全員に文字の勉強のための本や紙やペンを配ってくれたので畑仕事の休憩中などにみんなで集まりよく『学校ごっこ』と称して文字の読み書きが出来る村長と勉強をしていた。



「ごめんなアクア、学校に行きたいだろう?」

ある日の夕食の際にお父さんがそんなことを聞いてきた。

「うぅんお父さん、私は村が大好きだよ。」

私は答えて夕食を食べ終えてから片付けをして自分の部屋に戻った。

「行ってみたいよ・・・」

誰にも聞こえないように私は呟くと、食卓にいるお父さんとお母さんの声が聞こえてきたのでドアに耳を当てる。

「あなた、学校には奨学金と呼ばれる制度がありますアクアもなんとか行けるのでは?」

「俺だって調べてみたさ、でも奨学金を得るには学力がいる、アクアには畑仕事を手伝ってもらっていたんだ、勉強なんてさせたことない。」

「そうですよね、アクアの机にある真っ黒な紙を見ているとアクアに不憫な思いをさせているんじゃないかと。」

お父さんとお母さんのすすり泣く声が聞こえてきたので私はドアから離れると机に背中をぶつけた。

部屋にある自作した木の机の上には私が文字を何度も書いて練習した真っ黒な紙がある。

紙を手に取り破りゴミ箱に捨てる、私は決めた学校ごっこも参加しない、畑仕事を頑張ろうと。



「アクア~村長の所に行こうよ!」

「ごめん、これから山菜取りに行かなきゃ。」

「そうなの?じゃあ私達は行くね!」

誘ってくれた友達の背中を見送り私は背中に籠をからって山に入る。



「よし、そろそろ帰って薪割りしなくちゃ。」

山を降りていると村の方が騒がしかった。

「桶をもっと持ってこい!」

「早く来い!子供達と村長が焼け死んじまうよ!」

私は何かあったのか心配になり急いで村長の家に向かうと村長の家は火に包まれていた。

大人達は近くの川から桶を手渡しで運び水をかけて火を消そうとしていた。

「いやー!みんな!みんなぁ!」

「危ないぞ!」

私は家に駆け寄ろうとしたが大人に止められてしまう。

「いやー!みんなが、誰か誰かみんなを!水を!いやー!」

大人に抱き抱えられ、何も出来ない私は誰でもいいからみんなを助けてと考えていたら、体の中から熱い物が込み上げてくるのを感じた。

「水を!水を!」

私が川に手を向けると川の水が空中に舞い上がり火に囲まれた村長の家に降り注いで鎮火させた。

「おい今アクアちゃんの体が光って・・!」

「そんなことを言ってる場合じゃない、子供達を!みんな急げ!」

「おっおう!!」

村長の家に大人達が駆け寄り、焼け焦げた家から子供達を引きずり出した。

「アクア!大丈夫か!?」

「お父さん・・・みんなは?」

「大丈夫だよ、みんな生きてる。」

「良かっ・・た。」

私は駆け付けてきたお父さんの腕の中で眠気に襲われた。





「あなた、アクアはどうなるのですか?」

「魔法使いは貴重な存在だ、国によって管理されることになる。」

「そんな!?管理だなんて・・・アクアは私達の子供ですよ!そんな物みたいな言い方。」

「・・・・・・」

「あなた!?」

手に温かな感触を感じる。

「お父さん、お母さん。」

「アクア、大丈夫?痛い所はない?」

お母さんはベッドに寝ていた私の手を握っていた、温かな感触はお母さんだったのか。

「うん大丈夫だよ、村長の家にいたみんなは大丈夫なんだよね?」

「大丈夫よ、あなたが助けたのよ。」

「私が・・・?」

「アクア良く聞きなさい、お前は魔法を使って村長の家の火を消したんだ。」

「私が魔法・・・?」

そうだ私は川の水を浮かべるイメージをして村長の家に向かって・・・

「お父さんも起きた村長に聞いただけなんだが、魔法を使える者のことを魔法使いと言うらしい、魔法使いは近くにあるティヴラン国にとって貴重な存在で、だからお前は、」

「あなたアクアにそんな話は聞かせなくても!」

「しかし・・」

「この子は私の子供なんです!魔法使いには危険な仕事もあると村長が言っていたじゃないですか!」

「村長は魔法がコントロール出来ないならアクアが危険になるとも言っていただろう!魔法を使えるためには国に頼るしかないんだ!」

「でも!」

「やめてお父さんお母さん!」

私は言い争いを始めた2人を止める。

「ごめんなさい、お父さんとお母さんが私のために話してるのはわかるよ、でも喧嘩しないで。」

「あぁすまないアクア。」

「ごめんなさいアクア。」

それから私はお父さんに魔法について説明を受けた。

「お父さん、私のことを国の人に連絡していいよ。」

「いいのか?」

私がお父さんの質問に頷くとお母さんは泣き出してしまった。

「お母さん、私ね魔法は危険なものだってなんとなくわかるの、だから村の人に迷惑をかけちゃうかもしれない、だから私は・・・村から出て行かなきゃ。」




お父さんが村長に掛け合いティヴラン国に連絡をしてから7日が経った、私は畑仕事もお父さんとお母さんに止められて家族3人でずっと村周辺の山や湖に遊びに行ったり、出来なくなるかもしれない家族での楽しみを満喫していた。

「イバルさん、アクアちゃんを迎えに来たとティヴラン国の方が村長の家に!」

家族3人で家で昼食を食べていると村長の隣に住むお兄さんが慌てた様子で家にやってきた。

「わかった、すぐに向かうよ。」

お父さんは覚悟したような顔をして、お母さんは俯いてはいるが一緒に家を出て村長の家に向かう。

村長の家は焼け落ちてしまっていたので納屋を改築した家になっていた、

「失礼します。」

お父さんが戸を開けると村長と赤色の髪で右目を隠している女性が立っていた。

「あなたがアクアさん?」

女性は私を見据えて聞いてきた。

「はい。」

「私はティヴラン国魔法使い部隊隊長を勤めるジェラリー・ダグマイアです、本日は魔法を発現したと言うあなたを迎えに参りました。」

「よろしくお願いします。」

私が頭を下げてまた上げるとジェラリーは驚いた顔をしていた。

「どうなさいましたか?娘が何か失礼なことをしましたでしょうか?娘は責めないで下さい、村での生活しかさせてはいませんので作法と言った物が私では教えることも出来ず・・」

お父さんは深々と頭を下げたので私もお母さんも一緒に頭を下げた。

「申し訳ありません、私の方が失礼でしたね頭を上げてください。」

ジェラリーに言われて私達は頭を上げる。

「私はアクアさんが覚悟した顔をしているようだったので驚いただけです、ちょっとアクアさんと2人きりで外に行ってもいいでしょうか?」

私はお父さんとお母さんの顔を交互に見てからジェラリーの言葉に頷いた。




「綺麗な所ですね。」

ジェラリーに案内を頼まれ村で1番綺麗な景色を見れる湖近くの花畑に来たらジェラリーは花畑の中に伸びをしながら倒れこんだ。

「アクアさんも隣にどうですか?」

ジェラリーに手招きされたので左隣に座る。

「アクアさんに質問していいですか?」

「なんでしょうか?」

「アクアさんが魔法で火に焼けていた家を消火したことは村長に聞いています、アクアさんは魔法の発現した時に何を考えていましたか?」

寝そべったまま空を見上げているジェラリーに聞かれた。

「私は・・・ただ友達を助けて欲しいと考えていました。」

そう答えるとジェラリーは左手を上に向けて挙げて握りこぶしを作った。

「アクアさんにはティヴラン国の魔法使い育成学校にて魔法のことを学んで貰うことになります、そこでは魔法とは神聖な力だと教えられると思います、そして魔法を使える者は特別な存在だと、ですが私はアクアさんに伝えておきたいことがあります。

魔法が使えても私達はただの人です。転んだだけでも死にます、病気になれば死にます、寿命がきたら死にます。

アクアさんが友達を助けて欲しいと思ったのは自分に力が無いとわかっていたからです、私はその気持ちを忘れて欲しくありません。

卒業したら魔法使いになり私の魔法使い部隊に配属されるでしょう、その時にでもアクアさんに聞きますね、魔法をどう使いたいのかを。」

ジェラリーさんは身を起こして私に笑顔を向けてくれた、私は魔法を発現して不安だった、でも不安を無くしてくれるような美しい笑顔だった。



ジェラリーと一緒に花畑で過ごした後に村長の家に戻りお父さんとお母さんにお別れの挨拶をする。

「お父さん、お母さん行ってきます。」

「アクア、元気でな。」

「たまには帰ってきてね、手紙を出せるように私も文字の読み書きを村長に教わるから。」

お父さんとお母さんの顔は泣いているせいかぐちゃぐちゃになっている。

「あのごめんなさい、私はアクアさんと家族の方を迎えに来たんです。」

お父さんとお母さんの涙が引っ込んでジェラリーに詰め寄った。

「どういうことなんですか?」

「私達もティヴランへ?」

「はい、アクアさんには魔法使い育成学校に入って貰いますが月ごとのお給金も支給されます、そして家族の方々にも国から街で暮らすための仕度金と言う名の2年間の支援金が支給されます、この支援金は街で住む家の家賃や働けるための勉強や資格を取る際にお使いください。

あくまで支援金は2年間のみですからお忘れのないようにお願いします、アクアさんは学校を卒業したら王から爵位が与えられますが領地や家が貰えるわけではありません、爵位により年に1回だけ爵位に応じたお給金が支給されるのみです、魔法使い部隊所属になれば月ごとのお給金も支給されます。」

「お給金?支援金?爵位?」

お父さんは話の大きさに驚いてしまった。

「じゃあアクアと一緒にいてもいいんですね!良かった!」

お母さんは私に抱きついてきた。

「では引っ越しの準備を手伝いますよ。」

ジェラリーはそう言って私の家の前まで馬車を回してくれて御者の男の人と共に持っていく物を馬車の後ろにある箱に入れていく、服は買わないと街で目立つそうなのでジェラリーがお父さんに渡していた仕度金で買うことになった、お父さんは仕度金の額に驚いていた。

その後は村長が村人達を集めていた村の中心にある井戸に行くと、友達も来ていて別れを言うと泣き出してしまい、私も一緒に泣いてしまった。



「さぁケルビンお願いします。」

ジェラリーが御者の男性に声をかけると私達を乗せた馬車は進みだした。

馬車は商人達が乗って来ていたので見たことはあったが座席が付いてシートの屋根ではなく、木で丈夫に造られた屋根の馬車に初めて乗り私達は興奮を通り越して困惑してしまっていた。

「そんなに固くならないでください、これから馬車で2日はかかる道のりですから疲れてしまいますよ。」

「私達がこんな待遇を受けていいのですか?」

「アクアさんのお父さん、魔法使いは数が少ない貴重な存在なので、アクアさんは優遇すべき人材なのです、両親であるあなた方もです。」

「魔法使いは少ないのですか?」

私は隣に座るジェラリーに聞いた。

「そうです、魔法使いが子供を産んだとしても魔法の力は遺伝しません、これが1番魔法使いが少ない原因とも言えるでしょう。

「だから貴重な存在なんですね。」

「そうです、飲み水を無限に造り出せる魔法もあれば火を灯す魔法もあります、人の生活の中で重要な役割を果たせる存在なんです。」



ジェラリーの話にお父さんもお母さんも、ただ目を丸くして頷くことしかできないようだ。


私は窓の外を眺めて、両親の質問攻めに答えているジェラリーの返事を耳に入れながら、見慣れた景色を遠く見つめティヴランで始まるであろう新しい生活のことを考えていたら突然辺りが炎に包まれた、父や母、ジェラリーさんが炎にのみ込まれながら私から離れていき、辺りは真っ暗になる。

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