神様の賭け事
神様は最近ツイてなかった。
賭け事では負けが嵩み、女には振られ、飼っていたペットには逃げられる。その上賭け事での支払いも滞っていた。
「そなたには世界を救ってほしい」
「嫌です」
ああ、またこれだ。
「何故だ」
「え、だって胡散臭い」
少し前までは、こうして声を掛ければ誰もが喜び勇み、異世界へと渡った。
「あちらの世界で役立つ、特別な力を授けよう」
「それってどんな力ですか」
「かくかくしかじか」
前はこうしてその力がどんなものなのか、説明を求める者などいなかった。
そもそも近所のじいさんと話している訳でもないのに、最近の若者、神様を敬わなすぎじゃないか。
神様は荘厳な雰囲気を醸し出す為に、眩い後光を放ち、そのご尊顔は見えているはずなのに認識できないという高度な技を使っていた。
にも関わらず、近頃の人間は恐れ多いという感情を抱かないらしい。
「いらないですね」
「不要な力などない」
「いえ、いらないです。そして行かないです」
人間を異界に送るタイミングというのは簡単なようで難易度が高い。その上、相性というものがある。
(簡単に行きそうな者を選んだつもりだったが、宛が外れたか)
神様は何度目かになる溜息を、心の中で深く吐いた。
(だがこれ以上見送る訳にもいかん)
何故なら、まさに賭け事で滞っている支払いというものがコレそのものだからだ。
「望みはあるか」
「はぁ」
「行くというならば、特別に望みを叶えてやろう」
最初は負けで、千の魂を支払った。その時に一人だけ、同じように拒否されたのだ。人はそれこそ星の数ほどいる。その時はまあいいかと、支払いを先延ばしにする代わりに百の魂を差し出す事を条件に、相手の神に支払いを待ってもらったのだ。支払う数は増えたものの、そんなものは微々たるものだ。しかし次に支払う百の中にもまた、拒否する者が現れた。その都度同じ条件で伸ばしたが、賭け事の負けも更に嵩み、支払いが最近は十万を超えた。これ以上先延ばしにしてはノアの方舟と同等の災害を起こす必要が出てくるかもしれないのだ。
せっかく文明レベルも上がってレートは良くなっているのだ。今更リセットはしたくない。
「じゃあ新しい世界でも今と同じレベルの生活が出来るようにしてください」
「ふむ」
ぶっちゃけコレは難しい要求だ。
支払った魂を渡す神は同じでも、その神の創造した世界の何処に振り分けられるのかはこちらの知った事ではない。
(予備で引き上げた魂の中ではまあ、これが一番害がなさそうだ)
実は度重なる失敗に辟易した神様は、予備で五十程の魂を引き上げていた。
(これなら引き上げる際予備にくっついた能力でなんとかなりそうだし、コイツにするか)
まさかまた予備が足りなくなるとは思ってもいなかったが、なんとかこれで一応の支払いは終わりそうだと神様は安堵する。
「宜しい。ならば力を授けよう」
一つ一つの威力は弱い。だがその分、日常生活に関する動作で出来ない事はない。そんな能力だ。
「その頂ける能力がどんなのか教えて下さい。納得できたら行きます」
「かくかくしかじか」
随分と時間を取られてしまったが、漸く最後の一人を支払う事が出来た。
「まーた支払い延長になるかと思ってたんだがなぁ」
「いやいや、今回はこれで終わりだ」
「残念だ」
「なに、また新しい賭けをしようじゃないか」
「お、次は何に賭ける?」
「そうだな」
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