本当に平凡だとこうなる
記憶を持ったまま転生した時は、これで私も異世界無双俺ツエー!!が出来ると喜んだものだ。だって異世界は文明が発達してなくて、マヨネーズや石鹸、コンロみたいな簡単な知識で現代知識無双ができるし、例えそれがなくても異世界を超えた歪とかで超レアスキルだとか、何故か神様がへりくだって謝ってきて、特別扱いしてくれるんでしょ。
神様に会った覚えもないけど、忘れてるだけで多分私は何か素敵なスキルとかをもっているはずだ。
ここまで傲慢に考えていたつもりはなかったけど、今思い返すとそう思っていたに等しい思考回路を当時の私は持っていた。
私が生まれた家は貧しくて、かなり生活水準が低かった。勿論、そんな家族が住む場所は同じような生活水準の人達ばかりで、よくある異世界転生マンガの生活そのものだった。というよりも平民なだけにそれより悪い。
生活はカツカツだから子供も働かなくてはいけないし、そんな中で学校なんて行けるはずがない。両親、特に父親は気性の激しい人で、少しでも稼ぎが悪ければ子供を平気で殴るのだ。日本でも親から子への暴力は見逃され安い。虐待死などで多少は配慮されるようになったものの、結局虐待死される子供は減らなかった。生活水準がここより高く人権も守られている日本でそうだったのだ。人権って何それおいしいの状態の最下層では関係のない話だし、何より誰も他人に構う余裕などない。
「またこんだけしか稼いできてねぇのか!」
「ぎゃっ!」
男とはいえ子供相手にグーはないだろう。だからと言って庇えば今度は私が殴られる。続けざまに2発、弟の顔が殴られる。殴られる事の多い弟の歯は疎らで、子供だからこそまた生えてくるだろうが、見目は相当に酷い。
「おいで」
父親の折檻が終わってから弟に近付く。
殴られた顔は既に腫れはじめている。内出血も起こっており、口内も切れている。
「明日はもっと腫れるわね」
「ひゃくら」
「ほら、これで冷やしな」
口には出さないが、明日は実入りが良くなるだろう。物貰いをする時は怪我した子供がいた方が同情が買える。
「明日は私と市場の方に行くよ」
「うん」
ここでの生活は死と隣り合わせだ。
できれば前世の記憶を活用して快適に過ごしたいが、スラムで小綺麗になると直ぐに人攫いに狙われる。それで売られる先は殆どが家畜よりも酷い扱いを受ける。そんな場所には行きたくない。だから私はスラムで平均的な汚さだ。見えない場所は綺麗にしているし、髪で隠した顔もなるべく小綺麗にしてはいる。
どうしても、いつか何かを期待してしまう。
「サクラ、またやってんのか」
「ローグ」
「こいつ、幾つだ」
「4つよ」
「じゃあまだ名前はやってねぇな」
「ええ、そうね」
ローグは三つ上の兄だ。スリを生業にしている。ローグも名前がなかったが、私が自分に名前をつけると、それを真似て自分の名前をつけたのだ。
それ以降に生まれた弟妹は7つになると名を付けた。7つより前は死ぬ事が多くて名を付けるのをやめた。
「ローグ、最近派手にやり過ぎよ」
「こっちは上手くやってるよ」
「出来てないから私にまで情報が入ってきたのよ。もう目を付けられているのよ。しばらくスリは控えた方が良いわ」
「関係ねえな」
「スリは捕まれば腕を切り落とされるのよ」
「捕まるなんてヘマしねぇよ」
「警備兵はそんなに甘くないわ」
結局ローグは忠告を聞く気もなく家を出た。




