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境界の扉
森の奥には大きなお屋敷があった。ある貴族が避暑の滞在地として使っているお屋敷だ。手入れは村の者に任されており、代表者が交代で手入れをしていた。夏の間しか使われない、寂しいお屋敷。そこは長い間そうして使われていた。
それが変わったのはある冬の終わりだった。貴族の誰かが長期で住むことになったらしい。世話役として隠居前の老夫婦がお屋敷の一角に住むことになったと、そうなった数日後に人伝に聞いた。性別も年齢も不明だ。その貴族は人前に姿を現していないからだ。
姿を見ていないからというのも相成って、お屋敷に貴族が住み始めたという事実に、村人は直ぐに興味を無くした。




