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花を探す
『あの子には心がない』
それを言ったのは、誰だったか。
覚えているのは、たまたま耳に入ったその言葉だけ。その後私がいる事に気がついて、顔を強張らせていた気もするが、朧気な記憶は不確かで、似たような別の場面での出来事だったかもしれない。
「アレスティータ様」
声を掛けられ振り向いても、その顔に見覚えがあっても名前までは思い出せない。
「ミルズ皇国の第3皇女、カスティーリャ様です。7ヶ月前のカスティーリャ様の生誕祭でご挨拶をしています」
素早く耳打ちをするのは、腹心のララ。その卓越した記憶力を買って数年前から重用している。
「カスティーリャ様、生誕祭以来ですわね」
人好きのする朗らかな笑みを浮かべ、親し気な雰囲気を醸し出す。天性の人垂らしだと父王は言った。
「はい、久方ぶりにお会いできて嬉しく思いますわ」
「わたくしもですわ。お元気そうで何よりです」
ミルズ皇国の情報は頭に入っている。人物さえ分かれば他にララに頼るべき項目はない。




