私が恋を知ることはない
不確定な他人、不確定な未来、不確かな過去、確認できない今。
人が、正しい情報を正しいままで手に入れる事は難しい。
人は見栄を張る生き物であり、恥を知り知恵を持つ生き物である。時に嘘をつき、時には真実を口にする。言葉ばかりが増えていき、その実中身はカラッポかスカスカだったりする。それを満たす方法は人それぞれで、中身となるものも十人十色、多種多様。それが外見と釣り合うかは別として、だ。
私の中は、果たして何で満ちているのか。
視線の先にいるのは、多分これから会う男だ。先月から連絡を取っており、数日前にお互いの都合を合わせて会う日を決めた。
写真の印象とは少し違うが、詐欺という程違う訳ではない。昼に来たメールの通りの服装だ。濃いめの色合いのジーンズに、白いシャツ。シンプルなだけにスタイルの良し悪しが目立つが、プロフィールにあった通り178センチという高めの身長と鍛えている体のお陰で格好いい。
声を掛ける時は少しだけ心拍数があがる。緊張するというのもあるが、名前と顔を覚えるのが苦手な私は、メールを確認しながら何度も彼の名前を頭の中で繰り返してるのだ。
早く覚えなくては、そんな考えが私の心拍を早くする。事前に覚えでもすれば良いのだが、如何せん興味が薄く、かつ何人かは同時進行で連絡を取っているので間違えてしまいそうなのだ。
スマホを片手に、彼の側に立つ。
「こんばんは、たかしさん、ですよね?」
にっこり笑顔で微笑めば、つられて相手の口角も上に上がる。
「あ、はい。カエデさんですか?」
「はい、はじめましてですね、今日はありがとうございます」
「はい、こちらこそ、はじめまして、宜しくお願いします」
「写真よりもなんだか素敵ですね」
「あ、ありがとうございます。カエデさんは写真の通り綺麗ですね」
「ふふふ、ありがとうございます。じゃあ早速行きますか」
「はい」
「たかしさんはこの辺詳しいんですか?」
「実はあんまり来ないんですよね」
「私もです」
彼は手際がよく、調べて店を予約してくれていた。気の利く人だ。
「こんなお店あったんですね、初めて来ました」
「○○が好きだって言ってたので」
「嬉しいです、ありがとうございます」
乾杯をして飲んだのは私がハイボール、彼が生ビール。
「でも意外ですね、カエデさん。モテるんじゃないですか?」
「う〜ん、どうなんでしょう。たかしさんこそ、モテそうですよ」
「俺は仕事ばっかりで出会いもないから」
「私は出会いはあっても中々恋愛にはならないからですかね」




