わたくしの猫
わたくしの全ては薄い膜で被われている。
「それでは行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ、旦那様」
両親でさえ気付いていないだろう。だってここは平和で甘くて優しくて、全てのわるいものを遠ざけてくれる。例えるなら綺麗な鳥籠のなか。
わたくしの強気な一面が顔を出す機会などない。旦那様はわたくしの事を深窓の令嬢、家に守られ純真無垢に育てられた赤子のように無知で世間知らずなお嬢様だと思っている。
それは間違いではない。娘が欲しいからと励んだ結果、私には7人もこお兄様がいる。諦めかけていた時に漸くできたわたくしは、溢れんばかりの愛情を注がれ、全てのわるいものから守られてきた。だからわたくしはここで悪意というものを向けられた事はない。
厳選された乳母、侍女、家庭教師。そのどれもが優秀でありながらも気性の優しい者が選ばれた。加えて待望の娘に浮かれた母が常に側にいたこともあり、厳しくされた記憶はない。
幼少の頃の友人から社交界に入ってからの友人、そのどれもが母に厳選された人々であった。元々母も気性の優しい人柄なのだろう。というよりも社交という特殊な環境がこうした優雅さを作り出しているのかもしれない。
ともかく、わたくしはいつでもにこにこと笑みを浮かべ、話を聞き、優しくあればそれで良かったのだ。
そんな母が見繕った旦那様も、やはり優しいお人柄であった。
「」




