道行くひと
人間に形が近いものは、人間を元に異種族の遺伝子を組み込んだ生物である。
獣に姿が近くある程度の知能を持つものは、獣を元に人間の遺伝子を組み込んだ生物である。
戦争はあらゆる技術を進歩させた。第三次世界大戦はその多くが人同士ではなく、人間対ロボットであった。遠隔操作、人工知能、搭乗型、ありとあらゆる機械技術が発達し、それと同時に化学兵器の開発も進んだ。懸念されていた核の使用は、想定されていたよりも随分と投入自体を各国は躊躇った。しかしそれも永遠ではなく、ついに核戦争が始まってしまった。
原因は幾つかある。
核使用による環境汚染、つまり放射性物質の除去技術が発見された為だ。汚染されても戻せるならば問題は無い。そう思わせてしまった。
しかしそれらも完璧ではなかった。結局放射性物質を固めて凝縮する事ができても、放射線を完全に抑える事は出来ていなかったのだ。結果、世界は放射性物質を凝縮した廃棄物に溢れ、それから僅かに漏れる放射線により衰退した。
精密機器は不調をきたし、長い年月を掛けて機械技術は廃れてしまう。
一部の貧困層は選ぶことも出来ずに拉致または売買され強制的に実験用のモルモットになった。
一部の民衆は生き残りを賭けて生体実験のサンプルとなる道を自ら選んだ。
一部の富裕層と権力者は生体実験の結果を元に進化を選び、より強い力を得て生き残った。
地上を生きる者もあれば、地下へと逃げた者もいた。
機械技術が衰退した事により文明は後退し、自然が文明を呑み込んだ。森は勢力を伸ばし、野生動物にとっては暮らしやすい環境となった。一見すると平和にも見える。
しかし森の中には見慣れぬ異形の動物が時々姿を見せた。言わずもがな、人類が作り出した化け物どもである。人が変わり行く地球に適応するための実験体と、戦争に投入するための生物兵器との間にそう違いはない。
いつだって、飛躍的な進歩は争いの中にあった。
「ああぁあ~!!!」
同情を誘う哀愁漂う叫び声が酒場内に響く。振り返ってみればこの店の看板娘のセイリアが頭を抱えて蹲っている。
「あんた!うちの看板娘に何したんだい!!」
「へ?いや、オレァ何もしてねぇよ!」
直ぐさま厨房から飛び出してきた恰幅の良い女将が、セイリアの脇で戸惑っている酔っ払いに手に持ったお玉を突き付ける。
「ならさっきの叫び声は何だって言うんだい!」
「俺が聞きてえよう!」
事の顛末を見ていない野次馬はただ成り行きを見ている。
「ま、ママ・・違うの、その人は関係ない」
「何があったんだい?」
「何も、ないわ・・ただ、ちょっと・・・」
「何もないって顔じゃないよ。あんた顔が真っ青じゃないか」
「お、思い出しちゃって・・」
「?」
「あ、思い出したってまさか!」
「はい、色々混乱しちゃって・・」
「まあまあまあまあ!取りあえず一旦休憩に上がんな!」




