世界なんて望むんじゃなかった
ここは理想の世界のようでいて、どこか違和感があって気持ちが悪かった。
「ここにも、覗き穴・・」
昔何で得た知識なのかは忘れてしまったが、王侯貴族の各居室は相手の秘密を探るためだったり監視をするためだったり、或いはただの趣味だったりで色々なところに覗き穴が仕掛けられているらしい。ヨーロッパを旅行したときに色々なお城を見て回ったけれど、観光自体が楽しくてそんな知識は忘れてしまっていた。だからどんなに思い出してもそれが本当にあるものなのか確かめようもないけれども、ここのお城には間違いなくその「覗き穴」というものは存在していた。
「これで十二箇所目・・何個あるのよ」
客間と寝室にお風呂は勿論、トイレにまで覗き穴は存在した。しかも別方向に複数の覗き穴があるのだ。暇にかまけて豆知識を思い出し、面白半分で探してみたら本当に見つけてしまったときは叫びたくなったものだ。
「(今度は何で穴をふさいでしまおうかしら)」
絵画に仕掛けがある場合は楽だった。その絵が気に入らないからと布をかけてしまえば良いからだ。とはいってもこれはもう使えない手段ではある。数日はそれでもったものの、直ぐに違う絵と取り替えられて布をどけられてしまった。しかも覗き穴の仕掛けまで新しくなって、だ。似たような人物画であったから見られているみたいで怖いという理由で布を掛けたら、今度は翌日には風景画に取り替えられてしまった。勿論覗き穴はそのままだ。最初はなくなったのかと思ったが、よくよく見ると仕掛けがあるのが見えた。結局居室中の絵画は風景画に変えられ、覗き穴を隠す口実はなくなってしまった。
一つの仕掛けの仕組みを知り見慣れると、何故か次の仕掛けもふと気がついてしまうものらしい。それは壁一面に彩られた装飾の中の一部だった。絵画のない場所だからと油断していた。今までももしかしたら覗かれていたのかもしれない。そう思うと情けなくて溜息が出てしまいそうだった。
「(別に、家では裸族だったし、裸を見られること自体はそう気にすることでもないんだけど・・)」
始終監視をされているかもしれないというその事実がとてつもなく嫌だった。
「(窮屈・・・)」




