旅を
自分が、歳を重ねていないと気付いたのは何時だっただろうか。
元々美容に気を遣っていたのもあって、10は若く見られる事が多かった。異世界に転移した後も美容には気を遣っていたから努力の成果だと思っていたのもある。何よりも、爪や髪などは普通に伸びていた。それに怪我をすれば普通に痛かったし、治るには相応の時間が必要だった。
だからだろう。自分自身に違和感を覚えたのは、こちらに来て随分と時間が経った頃だった。
ジプシーの様に各地を転々としつつ暮らしていた為、周囲にも気付かれていなかったのは幸いだった。元々の楽天的な性格もあり、気付いた後も気楽に旅を続けた。
終わりが来てしまったのは、気にしなさすぎたのが原因だ。誰も何年も前に数日、長くても1年程度しかいなかった者を覚えてはいないだろうと、過去にいつ立ち寄ったかなど記録もしていなければ覚えてもいなかった。再来である事を直ぐに気付く事もあれば、数日滞在して漸くもしかしたら来たことがあるかもと思い至る事もある。当然気付かない事もあった。
日記くらいは付けていれば良かったのかもしれない。
取りあえず、そういった自らの行いの積み重ねが、最終的に私を追い込んだのだ。
「魔女の力を我が物に」
逃げる術などなかった。不死身かどうかなど試したくもなかったし、寧ろそんな可能性は無いと思っている中で無謀な行動など不可能だった。
私はただ老けないだけの無力な女だ。
「私に若さを」
望まれたって与える事など出来ない。老けない以外は怪我もすれば病気にもなるし、無茶をすれば死ぬと訴えても鵜呑みにされる事はなかった。ただ多少は慎重になってくれたようで、無茶な人体実験じみた事はされなかった。血は飲まれたけど。
血を飲んでも効能はない様ではあるが、プラシーボ効果なのか本人は効能ありと判断し喜んでいた。
「貴方と私の子を」
血液を摂取する事による寿命の延長が上手くいかなかったのか、立ち代わり来る当主の一人がある時私に手を出した。本人が言うには、私に会った日から恐ろしいと同時に美しくも思っていたそうだ。彼は私に愛を囁く。
「貴方は日に日に美しくなる」
人と深く関わるのが面倒だとは言え、長期間幽閉され人との関わりを殆ど絶たれていた。色恋沙汰にも興味が薄いというよりも面倒だと思っていた。それでも全く男っ気もなしというのは流石に寂しさが募ったようで、久方ぶりのそれらに女らしさというものを取り戻したらしい。
「(思い返せば旅の最中も恋愛らしい恋愛はなかったけど、男にはそれなりにチヤホヤして貰ってたわね)」
人の肌は思っていたよりも暖かく、安心感を与えてくれた。
「産まれた子供はどうするの」
「我が子として育てる」
正妻の子同様、赤子は産まれて早々乳母に預けられた。最初こそ寂しさが募ったものの、数ヶ月もすれば人事になった。彼は私が母親だと教えるつもりがないといった。ならば子も私の存在を知ることはなく、私も関わらないというのであればいつか会うことがあったとしてもわが子だと判断できる自信はない。ならばもういないものと思ったほうが良かった。




