世界は優しいけれども、甘くはないらしい
典型的なお決まりの台詞を頂いて、お決まりのご都合主義の展開に笑いが止まらない。
そうか、世界はこんなにも優しかったのか。そう思わずにはいられなかった。
「それで貴方はどんな能力を望みますか?」
「私、人を覚えるのがとても苦手だったんです。名前もそうですが段々顔も覚えられなくなってきて、たまに会話の内容で思い出すこともあるんですが、相手は覚えているのに自分が覚えていないのがとっても申し訳なくて、だからそんなことが無い様にその人の名前と見目は勿論、いつどこでどんな出会いをしたのかとか会った回数とかが瞬時に思い出せるようになりたいんです」
「ふむ、エンカウンターを少し改良すればいいか・・」
「他には何かあるか?」
「え、まだいただけるんですか?」
「因果を代償に得ることは出来るよ」
「因果を代償にしたらどうなるんですか?」
「色んなトラブルに巻き込まれるね」
「あ、結構です」
「そう?それでも欲しいって人は結構いるんだけどなぁ」
「面倒な予感しかしません」
「それなりに楽しいと思うけど」
「う~ん・・」
「ほら、良くある空間収納とか、成長倍化とかさ」
「代償は?」
「空間収納は色んな人に騙されたり利用されたり、狙われやすくなるね。成長倍化は強敵と巡り合いやすくなる」
「やっぱり結構です」
「そう?楽しいのに。魔法は?」
「あれ、今は使えないんですか?」
「使えないよ~。魔法はいいよ。便利だよ~。生活魔法から攻撃魔法、レアな光や闇なんてのもあるよ」
「因みに代償は?」
「生活魔法はドジっ子になって、攻撃魔法は強敵とのエンカウント率アップ。光や闇は空間収納と似たような感じだよ」
「あ、遠慮します」
「楽しいのに~」
「・・というか、そんなに代償があるのに、最初のには代償ないんですか?」
「あるよ」
「マジか」
「うん」
「因みに内容聞いても?」
「忘れちゃうのに?」
「はい、お願いします」
「基本的に一つ目の能力は前世の記憶を代償にしてるよ。君の場合は記憶したいという願いだから、記憶が代償となることで殆ど釣り合いが取れてるんだよね。つまんないの」
「つまんなくないです」
「あ、でも能力を得た理由はなんとなく覚えてるから大丈夫だよ」
「・・ありがとうございます?」
「なんで疑問系なの」
「いえ、お礼を言うべきなのか迷ってしまいまして」
「まあ、とにかく、一つ目も代償を払っての獲得であることは間違いないよ」
「なんか、釣り合い取れてない気がするんですが・・」
「取れてるよ。君の場合、君の記憶だけじゃなく、存在した記憶自体が代償になっているからね」
「え、それは因果律的に大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫、記録を消したんじゃなく、記憶を限りなく早く忘れさせるだけだからね。存在自体はなかったことにならないけど、誰の記憶にも殆ど残ってなくて、思い出せないっていうだけ」
「・・・いえね、もうその世界にいるわけじゃないので別に構わないんですが、結構えげつないですね」
「でもそれくらいしないと容量が足りなくなるんだよね。他の代償が良かった?これでも来世に影響ないような代償を選んだつもりだったんだけど」
「いえ、とっても有難いです」
「どういたしまして」
飄々とした態度はどこか軽くも見えてつい気安い態度をとってしまう。
「色んな能力もらった方が楽しいと思うよ?」
「別に普通で良いんですよねぇ」
「他に君の興味を引きそうな能力は何があるかなぁ」
「そういえば、能力をもらうときの代償については覚えていられるんですか?」
「得た能力と能力を欲した理由はなんとなく覚えておけるけど、代償については覚えておけないよ。覚えていても意味もないしね」
「そうなんですね」
「あ、誰からも愛される能力は?」
「面倒臭そうなので今くらいでちょうどいいです」
「外見もいじれるけど」
「いじらなかったらどうなるんですか?」
「今と同じ程度の見目になる」
「なら大丈夫です」
「肉体は?どんなに食べてもベストをキープするとか」
「う、気になりますが、代償は?」
「どんなに食べてもなんか物足りなく感じたりするかな~」
「う~ん、普通でいいです」
「最強の肉体!」
「どうせまた強者とのエンカウント率アップとかですよね」
「そうそう」
「そういうのはいらないんですってば」
「なんか特別な能力足そうよ~」
「代償が面倒じゃなければ考えるんですけどね。というかもう最初の能力だけで結構満足です」
「というよりももう考えるの面倒になってきたんでしょ」
「さすが神様。正解です」
「も~、仕方がないなぁ。欲がない子が一番扱いづらいよ」
「え~、私は欲だらけだと思うんですけどね~」
「君はハーレムとかニートとかもあんまり興味ないでしょ。基本的に、自分の身の丈ってのを理解しちゃってるんだよね~。一応欲はあっても、身の丈にあわせちゃうんだよね」
「ああ~」
「色々と自己完結しちゃってるし」
「そうですかね?」
「ね~、なんかないの~?」
「うう~ん・・あ!私の能力、本人に会わなくても、名前とか特徴とかから思い出せたりします?」
「しないね、本人に直接会ったときだけだよ」
「写真とか、似顔絵とかも駄目って事ですか?」
「うん、出来ないね~!いじっちゃう!?」
「・・そうですね、本人にあわなきゃ思い出せないならあんまり意味がないような・・」
「名前とか特徴とかからも参照できるようにすればいいの?」
「・・代償ってどんな感じでしょうか?」
「言っても覚えてられないんだから知らなくていいんじゃない?」
「うわ~・・もしかして面倒臭い感じなんですね」
「まあ、記憶したものを引き出すだけだからそうでもないよ」
「なら代償教えてくださいよ」
「因果が増えるだけだよ」
「何ですか、因果が増えるって」
「まあ、ちょっと頼られることが増えるくらいだよ。ほら、人って覚えている人につい聞いちゃうでしょ」
「あ~・・まあ、それくらいならいいかなぁ・・」
私はこのとき油断していたといわざる得ない。だって、求めた能力には必要な機能だったんだもの。そしてそれくらいなら別にいいやと思ってしまったのだ。面倒くさがりの私には因果が増えるということがどんなに面倒なことなのか、ちゃんと予測ができていなかったのだ。
「じゃあ決まりね~。この世界をゆっくり楽しんでね!」
「ありがとうございました。色々良くして頂いて感謝しています」
「あれ、急にまじめ」
「それはもう、感謝してますから」
それになんだか、ずっと昔から知っているような懐かしさと、安らぎを感じる。もしかすると、家族よりもずっと身近に感じてしまいそうになる。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
ふわりと消えれば、また神様はその広い空間にたった一人。
「さてと、次の子は何を望んでいるかな」
今日も今日とて、神様の仕事は続くのだ。
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