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ネタ帳  作者: とある世界の日常を
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運命論者

 私の前世での記憶は、ある人からすればとても幸せに見え、またある人から見ればとても寂しくも見える。苦労と言える苦労はなく、不幸と言える不幸もない。私自身から見れば楽しくて幸せな人生ではあったが、何処か物足りない人生ではあったと思う。


 そんな私が記憶を持ってこの世界に生まれてきた事には、何か意味があったのだろうか。


「全くお前は昔から変わった子であった。今度ばかりは失敗してくれるなよ」

「・・はい、お父様」


 なまじ前世の記憶があるが故に今世での言語の習得に苦労した。はっきりと前世を認識しないうちは、聞き取る言葉を無意識に前世の言葉と照合していたのか、聞き間違いが多く意味不明な発言も多かった。前世と今世を認識してからは無意識の聞き間違いは減ったが、空耳自体がなくなるわけでは無く、返事が一瞬遅れてしまう事がよくあった。前世の経験というものを活かそうと動き始めたのは、言語にも漸く慣れた7歳の頃だ。


 当時は天才だとか言われてもて囃される未来を思い描いていた事をよく覚えている。しかしそれはただの幻想でしかなく、現実は厳しいものであることを私は早々に理解する事となった。

 ここでは女の価値は低く、美しさと家柄しか必要とされない所謂男の添え物でしかなかった。社交の術さえ容姿と家柄というものが補ってくれる。最も重要なのは、後継ぎを産むことだ。勿論それに付随して貞操というものも重要視される。処女で有り続けることは良縁を結ぶ為の必須項目である。

 ここでは既に乗馬や水泳などの激しい運動で処女膜が破ける事もあるという事実は誰もが知っている事である為、未婚の女性は特にそれらをする事は禁止されている。とはいえ既婚者でもそれらをする女性というものは少ない。


 そんな不自由な世界に生を受けたからといって、不幸だと嘆いている訳ではない。今世は確かに不自由ではあるものの、地位ある立場に生まれ、此度婚姻を結ぶ相手もそれなりの地位にある。働くことなく保証されているのだから、寧ろ幸運と言えよう。


「顔合わせまであと一月だ。それまでに準備を整えよ」

「畏まりました」


 整えるべき事柄はそう多くはない。顔合わせの為のドレスを新調するのは当然で、お相手とそのご実家を含む情報を覚えなくてはならない。情報収集自体は父が家臣に命令して既に終わっているだろう。

ひとつめの国

婚姻して数年、子供が出来ずに離婚を切り出すも見目が美しいのでかなり愛されている。愛人を持つことも薦めるが断られる。愛しているが故にそれではダメだと分かっていながら喜んでしまった。

後継が出来ないことで国が荒れるが王は尚も王妃だけを愛すると口にする。内乱が起き国力が弱まる中、王国はついに他国からの侵略を受ける。抵抗を試みるも既に衰えた国力では贖えず、王国はあっけなく終わりの日を迎えた。


ふたつめの国

国王は殺されたが、王妃は侵略国の王に見初められ生き長らえる。愛人枠に収まり抱き潰されるも妊娠できない身体である事に感謝しつつ日々を過ごす。しかしこの王もまた元王妃に溺れてゆく事になる。それに嫉妬した者が元王妃に毒を盛り、元王妃は三日三晩意識を失い苦しむ事になった。それに激怒したのは王で、王は現王妃を処刑してしまう。それにより国は内乱へと傾く。王は元王妃を正式に王妃として迎え、一度毒殺されかけた事を理由に手厚く保護するという名目で軟禁した。そんな王妃を支えたのは処刑された前王妃の唯一の息子である王太子であった。事実を知ってか知らずが、王太子は王妃によく懐いていた。軟禁されつつも平和な日々がこのまま過ぎていくのかと思われたが、その平穏も長くは続かなかった。王太子が成人すると同時にクーデターを起こしたのだ。王は殺され、またも王妃は生き残った。やはり母が死んだ原因を知っており憎んでいたのかと泣き暮れる間もなく、王太子は王妃を妻にと望んだ。

王妃は恐ろしくなり、自ら毒を煽った。

しかし死に至る事はなく、王妃は引き続き軟禁される事となる。子を産めぬ身体であることを話しても、王太子の意思は変わらなかった。それどころか、前王弟の息子に子が出来れば養子に迎える提案までしてきたのだ。

死ぬことも出来ずに粛々とあるがままを受け入れ、いつしか王妃は王太子を愛していた。元々親愛の想いは抱いていたのだ。

しかしその幸せも長くは続かなかった。国王となった王太子は度々戦に赴き、ある諍いでついに命を落としたのだ。国王をしいし奉ったのはのはここ最近で勢力を伸ばしつつある魔族だった。

悲しみに呉れる王妃を迎えたのは王弟であった。王弟は王妃を側室に望み、王妃はそれを拒み出家しようとするも阻まれる。そしてまたも王妃は軟禁される。

運命に嘆く王妃を救う者はいない。寧ろ王妃は稀代の悪女として扱われていた。平民、貴族、どちらの心証も悪い。にもかかわらず男だけが彼女の味方だった。


さいごの国

奴隷として魔族の国に連れて来られた元王妃は魔王に献上される。愛した者を幾度も殺された憎しみは魔王に向けられている。

そして初めて元王妃は妊娠する。

元王妃は魔王が人間界に仕込んだ爆弾だった。

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