交差する
女は異世界の記憶しかなく、男は完全な記憶喪失の状態で二人は出会う⇒女が先に目覚め、気を失っている男を介抱する⇒目覚めた男は女を拒絶するものの暴力も乱暴も働かない⇒お互い怪我をしているし、何らかの事件に巻き込まれたのかもしれない⇒女は綺麗な男であるし、女に困っていないのだろうと判断⇒人里まで共に行動する事を提案するものの、なんと言葉が通じない⇒取り敢えず重症の男を看病することに⇒朝に屋敷の状況の確認⇒暫く生活に困らないだけの環境がそろっていることに気がつく⇒それといい香りがすることに気がついて香りのするほうへと向かうとそこは食堂だった⇒なぜか食事の準備がしてある。しかも二人分⇒しかもおあつらえ向きに片方はまるで病人食のようなものだった⇒不思議に思いつつも食事を済ませ、男の下へと食事を運ぶ⇒食事が終わり食堂へと戻れば、女の分の食器は既に片付けられていた⇒男の食器を机に置き礼を述べて部屋を出る。少しして入ると既に食器はなくなっていた⇒最初は屋敷を出て行くつもりで居た女であるが、生活が出来るのだからとそのまま屋敷にとどまることにして男の看病を続ける⇒伝わらない言葉で男に話しかけながら日々を過ごしていく中で、二人はお互いに言葉を教えあうようになる⇒言葉が通じるようになるに連れて惹かれあう二人⇒しかし男の記憶が少しずつ戻り始める⇒ふとよみがえるのは争いの記憶。記憶と今の女の表情や状況の違いに男は混乱する⇒それでも一度芽生えた思いはなくならない⇒混乱の中でも女を求めてしまい、ついに二人は結ばれる⇒女を殺した記憶がフラッシュバック。映像だけ思い出し、経緯を思い出せない⇒先日の胸の古傷の原因だと分かり自分を責める⇒落ち込んでいる男を慰めるも、原因が分からず戸惑う女⇒私では力になれないのかと悲しくなる⇒
まるで水の中にいるような、気怠さの中目が覚める。
寒い。
「痛・・っ」
知らない場所。記憶にない部屋。
「なに、ここ・・」
どうして私はここにいるのだろうか。
理由も分からず痛む体に鞭打ち立ち上がる。暗闇で確認出来ないけれど、もしかしたら怪我をしているのかもしれない。薄明かりの差す方へと慎重に足を進めた。
「どなたか、いませんか?」
暗闇に視界が慣れた頃、ここが以外と大きな屋敷なのだと気付く。屋敷自体は歴史を感じさせるものの、廃墟感はなく手入れは行き届いているように見える。
「(幽霊屋敷でもなさそう・・)」
それでも並ぶドアの向こうを想像すると触れる事さえしたくなかった。
「(本当に、何で、ここにいるんだろ)」
歩く度に軋む廊下は緊張の為か嫌に響いて聞こえる。
「(ゾンビとか出て来たらどうしよう・・)」
不安に身を震わせながらも、女はゆっくりと足を進める。
廊下に並ぶ扉を開ける程の勇気が出る事はなく、薄明かりの漏れている場所を目指した。
「あの~・・すみません・・」
囁くような声音で発された音は恐らく誰の耳にも届かないだろう。部屋を覗く勇気も無く耳を澄ませば、春日に寝息のような音が聞こえた。
「・・・」
そっと部屋を覗けば、漏れている灯りは更に奥の部屋からのものだと気が付く。手前が待合室で、奥が主寝室か何かなのだろう。緊張か恐怖に震える体をおさえて、女は部屋の中へと足を進める。
「・・・」
声は出なかった。人がいるなら声を掛けなければという思いはあったものの、恐怖の方が勝ったのだ。
待合室の向こうは確かに主寝室だった。燭台に設置された蝋燭には幾つか火が灯されており、それが廊下にまでうっすらと光をのばしている。
燭台から少し離れた場所には天蓋付きの大きなベッドがある。その上には不自然な盛り上がりが見えるので、恐らくはこれが部屋の主なのだろう。
「(寝てる・・?)」
微かに聞こえた気がした寝息はそこの主のものだろう。先程よりもはっきりと呼吸の音が聞こえる。
「(どうしよう・・)」
ここは何処なのか、どうして私はここにいるのか、眠る人はこの屋敷の主なのか、聞きたいことは沢山あった。
揺り起こそうと思い近付けば、布団さえ被らず倒れ込むようにベッドに乗っている事に気が付く。よくよく見れば怪我も負っているようだ。
「(・・起こせない、けど、一人になりたくないな)」
幸い部屋には大きめのソファもある。
女はそこで寝てしまう事にした。ただそこに人がいる。その時の女にはそれがとても安心できる事のように感じたのだ。
実は敵同士。記憶がなくなる前は互いに死闘を繰り広げていた。
先に死んだのは女で、ある遺跡で拾った珠により体が再生し、魂が引き寄せられた。しかし次元の差異によりすでに転生した魂であった為に記憶を失う。
男は相打ち覚悟の女により瀕死の重傷を負っていた。辛うじて勝利を得たもののその傷跡は深く、移動中に気を失ってしまう。そしてそのショックで記憶を一時的に喪失してしまう。
酷く他者を嫌っている男は家に使用人らしい使用人をおいていないが、屋敷僕妖精をその膨大な魔力であまた使役しており、生活に困ることはない。記憶がなくなっていても魔力による契約は継続されている。
男は元は地位ある男だった。あるとき呪いに掛かってしまい、その地位を失ってしまう。のろいを解こうと周りが色々とがんばってくれるが、呪いは強まる一方であった。ある時信じていた兄弟の裏切りを知り絶望に染まる。理由は男にとってはくだらないものだった。裏切りを知られたことをきっかけに、男は軟禁から幽閉へと切り替えられた。男は様々なものから隔離されたのだ。男はそれ幸いと自分だけの居場所を作っていく。深い森の、別荘として建てられた屋敷。そこが男の全てだった。
長い年月がたつにつれ、男は自分が年をとらないことを知る。そしてのろいが変質していることも。今現在屋敷で僕妖精として契約しているのは、どれもかつてはただの人間だった。そのほとんどは親族の生活苦や借金が原因で人買いに売られた者たちだ。彼らは契約に従い男へと従属していた。しかし男の呪いが変質していくなかで、身近に居た彼らも強い影響を受ける。彼らは徐々に自我をなくし、男に与えられる魔力でただ仕事をこなすだけの人形になっていた。
男の呪いは屋敷を侵食し、庭を侵食し、森を侵食した。
ついには世界もを侵食し始め、各国は男の討伐を総力を挙げて行った。とめるすべは男を殺す以外にない。
女はそんななか、屋敷に辿りつくことの出来た唯一の人間だった。
記憶をなくした今でも、男の呪いは世界を侵食している。男はそんな現状を知らなかった。
ただ意味の分からない女が屋敷に侵入してきて、そして屋敷の主である男に害を奮おうとした。端的に言えばそう見えた。だから侵入者を殺した。
女には大切にしている妹が居た。両親は既に他界し、たった一人の心優しい自慢の妹だ。妹は心の支えで、人生を生きる意味でもあった。女は妹を守るために強くなり、その強さは妹のお陰でもあった。幸せは続くかと思われたが、あるとき妹が呪いの影響を受けてしまう。呪いの恐ろしさは知っていた。だが幸せに生きている妹には関係のないものだと、無意識に思っていた。最初こそ緩やかだった呪いは年々影響力を増し、被害もとどまるところを知らない。苦しむ妹を前に、女は何も出来ない無力な自分をのろった。
しかしそんな女に転機が訪れる。世界が呪いの原因を解明したのだ。女は歓喜した。これで妹を救えると。しかしその願いも虚しく、女は命を落とす。偶然にも禁術の篭められた珠を持っていたため、器の回復の為に別の世界の同一の魂を持つ者が犠牲になったものの一命を取り留めた。しかし魂までもこの世界に呼び込まれたために魂は異世界人のままになってしまう。
男の存在は長年帝国の極秘事項だった。帝国の王となるものが、王となったときに口伝でのみ伝えられる存在。不老とされており、長年研究の対象でもあった。その段階で禁忌にも多く触れている。




