整形美人は切実に現実に帰りたい
はい、異世界に来ました。というよりも召喚されました。
例のごとく、聖女として召喚されたそうです。浄化の力はあるけど、魔法はないそうです。
「あなたのように美しい方に初めてお会いしました」
「ありがとうございます」
魔なるものが増え混沌の時代が訪れようとする最中、力ある王家は古の伝承を紐解き聖女の召喚を行ったという。
「(元の世界じゃ、整形美人だとかサイボーグだとかの陰口言われてたのに、ここじゃ整形自体が存在しないからそんな事言われないんだ・・)」
このままここにいても良いかも、そんな気持ちが芽生えそうになる。
「(ダメよ。例え結婚して子供が生まれても、どちらにも似てない子供が生まれたら浮気を疑われるわ・・教えないままに結婚なんて出来るはずがない・・)」
結婚の条件に子供を作らないといれたとしても、元の世界ではそれで大丈夫だったとしても、避妊方法のないこの世界では意味もない。
「(そもそも、私は定期的にメンテナンスしなくちゃいけない顔なのよ・・・)」
どんなに居心地が良くても、帰らなければいずれ破綻する。そんな世界をただ楽しむなんて出来るはずもなかった。
「(私が本物の、美人だったらよかったのに・・・)」
モンスターだの妖怪だのと悪意しかないあだ名を付けられた幼少時代はまさに地獄だった。進学するにつれあからさまなあだ名は付けられなかったものの、陰口がそれに連なるものだったことは言われずとも知っている。
就職してもそれは殆ど変わらず、耐えて耐えて漸く整形のための目標金額が貯まると仕事を辞め整形した。それを知られるのも嫌で、逃げるように地元を去って上京し新しい職探しに奔走しながらバイトを転々とし、漸く正社員の仕事が決まったと思った矢先の異世界召喚だった。
「(帰れたとして、来たときと同じ時間に戻してくれるのかな・・場合によってはまた就職活動しなくちゃ・・)」
とはいえ就職をバックレた上にそれから暫くの空白期間は確実に次の就職活動に支障を来すだろう。




