子供、拾いました。
転生してチート人生始まるかと思いきや、平々凡々な農耕生活。
長閑な田舎での祖父母との生活は案外性に合っていた。
結婚しないとな、16歳になった私は祖父母を安心させる為にも結婚を考え始める。
田舎にしては器量の良い私はそこそこモテていた。
ただ思い人はおらず、踏み切れずにいたのだ。
けれどそろそろ諦めるしかないようだ。
そんなある日、森の中で小さな子供を拾った。
魔族だとすぐにわかったが、大して珍しい事ではない。
魔族は極稀に自然発生するし、魔族と魂の契約をしている人間はそこそこいた。
拾ったその日に家に連れて帰って、保護した旨を国に伝える書類を記入する。
強い魔族であれば国が引き取るが、弱い魔族は孤児院だ。
こんな子供強くはないだろうと、引き取る旨を申請する。
数日後、その魔族は私と契約したいと言ってきた。
別に契約してどうかなるという訳ではない。
まあ、簡単に言うと家族になるという事だ。
その繋がりは血族よりも強い。
結婚したくはないけど、子供が欲しい。
その思いからの結婚検討だった私はそれを了承した。
だって、こんな可愛い子が家族になるなら配偶者はいらない。
それを祖父母に伝えれば、猛反対をされ結婚を推し進められそうになり家を出る。
契約により色々な力が使える様になった私は冒険者になる事に。
稼いだ金を時々祖父母に届ける事で恩返しをしようと気楽に考えていた。
まあ気楽に考えてしまうのも仕方がない。旅の途中で出会った魔物はどれも結構弱かった。
魔族から貰った魔法の袋に魔物を回収して売れば、結構良い値段で買い取ってくれたのだ。
拠点を大きな街に移して、依頼を数回受けて少し疑問が出てきた。
ちょっと弱すぎないかい?私は本当に苦労らしい苦労をせずに依頼を熟していく。
時々祖父母の元に帰っては怒られ、お見合いを勧められて断っては家を出るの繰り返し。
これからも、こんな平和な日々か続くと思ったんだ。
ところがどっこい。
何と子供は魔王でした。
異世界知識で魔王は殺される者として認識していた私は魔王の存在を秘匿する事を決意する。
しかし魔王との契約により強大な力を得てしまった私は悪目立ちしすぎた。
しかも悪目立ちしている事に気付かずに活動を続けていたので、遂に王都からの使者が。
無視する訳にも行かずどうするか迷ったが、こんな子供を魔王だと思う訳がないと思いそのまま招集に応じる事に。
どうして強いのに契約をしたのか責められると思っていた私は、こんな子供が強いとは微塵も思わなかったと言い訳をするつもりで王の前へと馳せ参じれば、以外にも歓迎された。
何故だ。
歓迎されている間に何故か国軍所属になった。何故だ。
そして国の為に働く事になった。やってる事は冒険者と変わりない。ならいいか。
そうして少しずつ魔王の事を調べる事が出来るようになった。
どうやら魔王は倒すべき存在ではないらしい。
しかも人間と契約したら人間の味方なので、可能であれば契約するのが望ましいそうだ。
やった。じゃあこの子が魔王である事は別に隠さなくてもいいのね。
でも聞かれない限り黙っとこう。面倒だし。
それから数年で祖父母が亡くなった。寿命だ。
この世界にしては長生きしてるし、大往生だと言えるだろう。
連絡は馬車で運ばれてくるから、家に帰った時はもう火葬が終わっていた。
当然だよね、こんな小さな村で保存の魔法が使える人なんていない。
空っぽになった家に、涙が零れた。
ずっと子供だった魔王が少年位の大きさになって、私の頭を撫でた。
慰めてくれたらしい。なんて優しい子なんだろう。
ってなんでいきなり大きくなったのよ。
今までは驚きとか楽しさとか喜びとか、そう言った感情を貰って育っていたけど、大きくなるには悲しみとか寂しさの感情も必要だったそうだ。
子供みたいに純粋で気持ち良い心を持っていると魔王に言われた。
子供に子供みたいって言われた!
いや、多分褒めてるんだろうけど、ちょっと納得したくない。
あの森に現れたのは、私の楽しいと言う感情に引き摺られてなのだそうだ。
じゃあ私の感情で生まれた様なものなのか。本当に私の子供同然じゃないか。
結構嬉しいな。そうか、私の楽しいに引かれたのか。
少年位に大きくなった魔王に角が生えてた。それも四つも。
角四つは魔王の証だ。これはバレるかもと思ったら案の定バレた。
何故言わなかったのだと言われても、だって聞かれなかったから。
そう答えれば面倒だったからだろうと言われた。良く分かってるじゃないですか。
そしたら国軍所属だったのが宮廷所属に変わっちゃいました。
ちょ、私に王族貴族の相手は無理なんですけど!
学べと言われましても!
魔王が家庭教師になりました。
ええ、びっくりです。私より賢いなんて初めて知った。
どうやら魔王は輪廻転生を繰り返してはいるものの、記憶はそのまま引き継ぐらしい。
なので様々な情報を持っており、実は礼儀作法も完璧。
成長するまでは年相応の振る舞いしかできない為、小さな子供の姿だと殆ど役には立たないそうだ。少年位になると結構役に立てるようになる。
見た目的には中学生に教えて貰う大人だよ。
見た目は情けないが、確かに魔王は良い先生です。
どうすれば魔王が大人になれるのかを聞けば、他にも色んな感情が必要だと言った。
例えば怒りや恋心。恋心は難しいけど、結構ちょくちょく怒ってると思うけど。
簡単な怒りでは中々足りないそうだ。私は本気で怒ったことがないと言われた。
まあ、確かに怒りを消化する事は得意かも。
恋心に関しては先に謝っておいた。
いいよ、まだ恋心は先で良い。
私は魔王について知らなすぎると思う。
ぶっちゃけ最初に調べた魔王は無害ってとこしか知らん。
成長遅いと思ってただけでまさか感情食べて育つとは思ってもいなかった。
そう思って魔王に聞いたら新事実発覚。
魔王と契約した人は寿命がかなり延びるらしい。しかも老化が遅くなるそうだ。
言われてみれば老けてないかもしれない!爪切る回数減ったし、髪伸びるの遅くなったかも。
今更かと言われました。はい、今更気付きましたけど何か。
ていうか魔王が生意気になった。
小さい魔王が可愛くて良かったよ。
そういや魔王以外に同じようなのはいないのか聞いたら、一応似たようなのはいるそうだ。
転生のサイクルが長かったり、記憶が完全に引き継がれる訳ではないそうだ。
感情は強さそのものだから覚えている人の方が強いのだそうだ。
魔王が中学生くらいになったからと言って特に変わる事はなかった。
変わった事と言えば、一緒に寝なくなったこととお風呂に入らなくなったことかな。
年少組みたいに小さい時は私が頭を洗ってあげてたのに、ちょっと寂しい。
そんな感情が伝わるのか、魔王は時々こっちを見て恥ずかしそうにしたり、苦笑したりする。
ちょっと可愛い。
魔王が中学生になったからか、力は結構強くなった。
子供魔王の時に比べて3倍くらいだろうか。楽に魔物が狩れる。
そう言えば、魔物って何なんだろう。
魔王先生に聞いてみた。
魔物っていうのは、負の感情に塗れてしまった生き物の死骸なんだって。つまりゾンビか。
魔王もゾンビなのかと聞いたら馬鹿にされた。
魔物と魔族や魔獣は別の種族なんだって。知らなかったぜ。
魔物は殺したら魔石のみを残して消えてしまうけど、魔族や魔獣は身体が残る。
そう言えば消えるのと消えないのがいたな。
魔族は魔獣は感情を吸収するのに優れた体質をしていて、戦争や飢餓で地が荒れると狂暴化しやすいそうだ。だから戦争をする人は魔族や魔獣の被害に遭わない様に先に殺してしまうのだ。それを聞くと人間が凄く自分勝手に思えてくる。
魔族はそう言った抗争から逃れる為に人との契約をするようになった。
基本的に魔族や魔獣は正の感情を好むそうだ。つまりは結局人間が悪いってことじゃないか。
魔族や魔獣はそれでいいのだろうか。
そう思っていると気にするなと魔王が頭を撫でてくる。そうする事で魔族も魔獣も負の感情から守られているのだからお互いさまなのだそうだ。
魔王は見た目中学生だが、とても頼りになるな。
他にも教えて貰った。
殆どの魔族は大人になるのが早いそうだ。
この国の貴族や王族たちは魔族と契約する為に早くから魔族については学ぶらしい。
感情豊かな人は人気があるらしく、一人に二人の魔族が契約する場合もあるそうだ。
そういや魔族を二人連れてる人も見た事あるな。あれがそうなのか。
契約するには感情だけでなく、強い魂が必要になる。
私は本当に知らない事だらけのようだ。
おぼろげな記憶が前世のものなのだとはっきりと理解したのは6歳の時だった。
私は祖父母に育てられていて、両親がどこにいるのかは知らない。顔も見たことがない両親の話題は今まで上がった事がないので、もしかしたらもうこの世にいないのかもしれない。寧ろ同年代の子供に会うまでは、祖父母が両親だと思っていた。前世を自覚した頃は随分な高齢出産だったんだな、程度の認識だった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、気を付けるんだよ」
「はーい」
前世を自覚したからと言って、あの頃よくあった小説や漫画のように転生チートというような能力はない。知識だって多少家庭菜園を手伝っていただけで、肥料や道具は店で購入したものだったから作れと言われてもまず原理が分からない。一応、何となく真似る事は出来るが、何となくでは効果は高が知れている。
「今から出るのか?」
「うん、山菜採ったらすぐ帰ってくるから」
「あんまり奥に入るなよ」
「はーい」
祖父は森に入るのが仕事だ。木こりと猟師を兼ねていて、村によく肉を卸しに行っている。貰うものは現金ではなく物々交換で、野菜や調味料、日用品になる。
「行こう、フェイ」
「ガウッ」
フェイは狼と犬の間みたいな動物だ。一応犬と認識しているけど、前世で見た犬とはちょっと違う。見た目的には狼に近いので、心の中では狼犬だと思っている。
そんなフェイは祖父に忠実な猟犬で、こうして山菜採りに一人で行くときはなるべく連れて歩いている。祖父が猟に行っていない時に限るけど。多分だけど、フェイは私の事を妹か何かだと思っている。
「この前山から持ってきて植えた野苺が駄目になったの。おばあちゃんに聞いたら植え方が駄目だったんだって。ちゃんとした植え方教えて貰ったから、新しい苗が欲しいの。一緒に探そうね」
言葉をどこまで理解しているのか分からないが、フェイはまるで全てを理解しているようにも見える。私がフェイに枯れた野苺の苗を見せると、フェイはその匂いを嗅いで、同じ匂いを探してくれる。
「さすがフェイね、頼りになるわ」
道中にある山菜を採りながらフェイについて歩けば、程なくして目的の野苺の苗を見つける。周りの土ごと用意していた布袋に入れて、苗を傷めない様にと用意していた背負いかごの一段目に入れる。
「ここの苗を全部採るわけにはいかないから、あと2、3ヶ所探してもらえる?」
「グルル・・」
苗用にと用意していた下のかごに苗が一杯になる頃には、山菜も数日分は確保できた。
「これだけあればいろいろ作ってもらえるかな」
ふきのとう味噌に行者ニンニクの醤油漬け、それからウドの甘酢漬けも良い。ミズも塩漬けしてもらおう。
「ただいま、山菜沢山採れたよ!」
「あらまぁ、ルビアは本当に探すのが上手ね」
「私が上手いんじゃなくて、フェイが上手いのよ。野苺の苗も沢山見つけてきたの!早速植えたいんだけど、前に教えて貰った場所に植えていい?」
「手伝おうか?」
「大丈夫、行ってきまーす!フェイ、おいで」
「ワン!」




