こんなチートは望んでない!!
いずれ長編に書き直したいなぁ
異世界っていうのは、もっと夢があって楽しいもんだと思っていた。
大体の小説では転生にしろ召喚にしろ、何かしら特別な力が与えられる上にご都合主義よろしく豪運に恵まれ異性にちやほやされる展開ばかりだ。
確かにそんな展開なら異世界に行ってみたいと思った事はある。
最近流行りの巻き込まれものでも、初期不遇設定ものでも、結局はご都合展開で美味しい思いが出来る結末っていうのが待っているんだ。だからきっと、これも初期不遇設定ものの異世界転生で、頑張ればきっと、恐らく、多分、逆ハーレムのチヤホヤエンドが待っているんだ。
「だからって、これはないわ~・・・」
私は異世界で超大型巨人になった。
多分、最強なんじゃないかなぁ。
◆
「この度は我々にお力を貸して下さり、誠にありがとうございます」
「良いですよ、力を貸す代わりに私の衣食住を保証して下さるという交換条件付きですし」
私の肩に乗って話しているのはこの国の第一王子であるラインハルトである。結構なイケメンだと思うのだけど、はっきり言って小さすぎて良く分からない。だって全長が小指程に小さいのだ。造形が細かすぎて大まかにしか見えないのである。これだけ小さいと多少の美醜では見分けがつかないと思う。年齢も良く分からん。というか実をいうと性別も良く分からん。服装と自己申請で判断するしかない。
「住居はこの国の建築士と魔法士を総動員して施工していますので、近日中に完成するでしょう」
「宜しくお願いします」
「食料に関してなのですが、本当に食材の確保はお任せしても大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、まあ、この巨体ですし、自分で確保した方が早そうですから」
先ほど、この世界で自分がどの程度の位置づけになるのかを試した。
最初はこの世界の一般的な武器、刃物や弓、砲弾がどの程度の威力であるかの確認から始まったのだが、全く話にならない程の性能の差があった。
刃物は一応痛いがまずもって長さが足りないので、気分的には針が刺さったよりも荒れた木目の細かい棘が刺さった気分である。自分で刺す分にはちょっと刺さるが、少しでも動こうものなら簡単に曲がるのである。異世界人は力が足りないのか、刺さりもしない。弓も同様である。砲撃は多分BB弾の方が痛い気がする。
魔法も同様で、普通の魔法は全く聞かない。爆発系の魔法は線香花火である。一応この国最強の魔法使いとやらに最強の爆発魔法を撃って貰ってみたが、ちょっとびっくりする程度だ。威力はロケット花火くらいで、火傷するかもと思ったがそれもなかった。多分火の温度が違うのだと思う。試しにキャンプファイヤーみたいに火を焚いてもらったんだけど、ちょっと熱いと感じただけだった。
こんなんじゃ布も燃やせないんじゃないかと思って、持っていたハンカチ入れてみたけどやっぱり燃えなかった。
「本当に試されるのですか!?これは骨まで溶かす強酸の沼ですよ!?」
「はい、これ出す魔物とかもいるんですよね?あるんだったら試しておきたいです。まあ、本当に怖いのでちょっとだけですけど・・」
そう言って浸したのは髪の毛だったけど、全く解ける気配もなかった。なので試しに指先を浸けてみたらちょっとヒリヒリというかひんやりする位だった。もしかしたら数時間つけていたら表皮くらいは溶けるかもしれない。というか、何か触った感じがあの足の古い角質を取り除くとか言うドラッグストアとかで売られているあの液体に近い感じがする。もしかしたら同様の効果を得られるかもしれない。
※因みに後に試して、本当に同様の効果が得られた。そして向けた皮は何故か防具として加工され売りに出され、超絶恥ずかしい思いをしたのは何だか哀しい思い出である。竜の革よりも軽くて頑丈。
※そして日々の抜け毛も回収され、何かしらに加工されて使用されているのを本人は知らない。
まあそういった戦力確認の結果、この辺の魔物、というかこの国に現存するどの魔物も私の脅威とはなり得ないらしい。そして色々と話しを聞いた結果、私が食べる量を確保するには大きい魔物を狩る方が良いとなり、魔物の強さ的に自分で狩った方が人的被害の可能性がない。
「あんまり魔物っていないんですね・・」
「あ、いえ・・多分、小さすぎて見えてないだけじゃないかと・・」
「え?いるんですか?」
「え、と・・何回か、踏んでました」
「ああ~・・」
あまり大人数で来ても踏んでしまっては怖いので、私と一緒にいるのは索敵が得意だというラインハルトだけだ。少し離れた距離からラインハルトの護衛として5名が付いてきている。
「もう直ぐ目的の魔物の生息地に入ります」
「了解で~す。ふわふわしてまるっこい魔物なんですよね?」
「そ、そうですね・・火に強く刃物を通さない毛皮・・その巨大な体躯を丸め弾丸の様な速度で外敵を蹴散らす魔物です」
「可愛ければペットにしても良いですか?」
「かなり狂暴な魔物ですからね・・ペットに出来るかどうか・・」
「まあ、見てからでないと決めれないですよね」
「!!来ます!!」
幾つもの丸い塊が土煙を上げ、樹々をなぎ倒しながら近付いて来る。
「あれが例の?」
「そうです!!どうしてこんなに!!?」
「・・10匹以上はいますね」
「一際大きい個体がいます!あれが恐らくボスですね・・」
「ボスなら先に他の個体を捕まえた方が良いですね」
「・・れ、冷静ですね」
「思ってたよりも小さかったので・・・」
勝手に兎位のサイズを想像していたのだが、多分モルモットくらいだな。兎より小さい。
向かってくるタイプで良かった。こんなに小さいのがすばしっこく逃げるのを捕まえる方が大変だ。まるで捕まえてくれとでも言っているかのように向かってくるモルモットを手ですくい上げて捕まえる。
「取りあえず、一旦エコバックに入れますね」
「殺さないのですか?」
「手で絞殺すのはちょっと・・」
向かってくるモルモットを次々にエコバックに放り込む。バックの中で暴れているが、ちょっと頑丈な素材だからか、バックが破れる気配はない。
5匹目をバックに放り込んだところで、ボス以外のモルモットが逃げた。ボスが残っている所を見ると、しんがりのつもりなのかもしれない。
「かなり警戒されてますね、ペットは無理かなぁ・・」
「ペットとしてはちょっと・・」
ボスはちょっと手こずりはしたけど、結果捕まえる事が出来た。他のモルモットよりも大きく触り心地も良かったのだが、嚙みつかれてしまったし、逃げようともがくので他のモルモットと一緒にエコバックに入れて地面に叩きつける事でトドメをさした。
素手で首を折るのも嫌だったからゆえの選択だったのだが、同行者らに引かれてしまった。とどめを刺せるように私用のナイフでも作って貰いたいけど、私サイズって作れんのかな。
「次はお野菜ですね」
「さらに進むと巨木の森があります。そこに巨大な豆の木がありますから」
「それは有り難いですね」
少し進むとモルモットの巣を見つけた。どうやら巣に近かったために捨て身の攻撃に出たらしい。ボスがその身を犠牲にした甲斐もあり、避難は済んでいるようで急いで逃げたような形跡があった。
「こんな場所に巣があったとは・・」
「戻ってくるようなら、食料が無くなった時にまた取りに来たいですね」
一応何か残っていないかと探索をすれば、まだ生まれたばかりらしいモルモットを数匹見つけた。全てを連れて行く事は出来なかったのだろう。
「持って帰って、繁殖させちゃいませんか?」
その意見は採用され、モルモットの赤ちゃんは連れて帰る事になった。赤ちゃんなだけあって、とても小さい。それでも小人たちから見れば豚位の大きさがあるので、彼らに運んで貰うのは難しい。潰されないように、そして冷やし過ぎないように優しく包み、カバンのポケットに入れる。革製の鞄なのでそう簡単につぶれる事もない。私が転ばない限り大丈夫だろう。
巨木の森は私にとっても森と認識出来そうなものだった。今までがひざ下程度しかない木が殆どだった中、そこの森を構成している樹々は私の身長よりも少し高いくらいで、太さも私の足程度はありそうだ。広さも申し分なさそうである。城の直ぐ近くに建設されている私の家の木材は、恐らくここで伐採されたものなのではなかろうか。それを示すかのように、暫く森沿いに進むと幾つか切り株となっている巨木が見えた。
「ここから運ぶのは大変そうですね」
「国内の浮遊魔法の使い手を総動員しておりますから、全てを人力で行うよりは容易ですよ。十分な報酬も与えておりますから、魔法士も全力を尽くしてくれています」
「ちょっと持ってみても良いでしょうか?」
「構いませんよ」
持てる様なら何本か持って帰ろう。
思っていたよりも随分と軽い。この大きさでこの軽さだと密度、というか頑丈さが心配になる。折角建てて貰った家を早々壊さないかが心配になる。
「あ、重さは大丈夫」
「流石ですね、このような巨木も軽く持ってしまうとは」
「帰りに持てるだけ持って帰りますね」
「そんな事をさせる訳には・・」
「私も手伝った方が早いと思いますから」
取りあえず、用事が終わって最後に持ち帰る事にした。
肉の次は野菜を確保しなくてはならないのだ。
「取り敢えず、先に食料の確保に向かいましょう」
「はい、それはどんな食べ物なんですか?」
「大きな豆です。大きすぎて我々では簡単に運べません」
実際に見ると空豆より少し大きい程度のものだった。確かに彼らにすれば大きいだろうが、もっと大きい豆を想像していただけに拍子抜けだ。実は重くズッシリしている。体積を同じにすれば先程の木よりも重いかもしれない。
「確かに運ぶのは大変そうですね」
「場所も場所ですし、小粒の調理しやすい似た味の豆も栽培されていますから、労力と対価が釣り合わないのです」
「そうなんですね」
豆を入れる袋がなかったので、細目の蔦で簡単にカゴを編んでその中に入れる。
「意外と近いですし、通えそうですね」
「・・そうですね、本来であれば往復で一月はかかるのですが・・」
どんなにゆっくり歩いても往復で1時間も掛からないのに、体が小さいだけで一月もかかるのか。不思議だ。
「・・この蔦結構頑丈ですね」
「この蔦の繊維は乾燥させて編めば頑丈なロープになります」
「蔦そのものを乾燥させて編めば私用のロープになりますかね?」
「恐らくなるのではないでしょうか。何に使われるのですか?」
「ハンモックかなぁ」
今更だが、私サイズの布団なんて準備できる訳がない。しかし寝るとすれば木の固いベッドになるだろう。そんな場所に寝続けるのはキツい。ならばハンモックが良いのではないかと思ったのだ。多分固い木のベッドよりもはマシなはずだ。
「(本当はスプリングのマットレスが欲しいけど、絶対私サイズとか無理だよねぇ)」
確かにチートではあるが、これではチートよりも困難の方が多い気がする。サイズが違いすぎて全くもって恋愛対象にならない生命体ばっかりだし。つまんないな。
目的の食料以外にも使えそうな物を収集しつつ帰路についた。うん。やっぱり私サイズだと片道1時間。
「まさか本当に1日で往復してしまうなんて・・」
「蔦とか足りないと思うので、もう一往復したいんですけど大丈夫そうですか?」
「ええと、まずは持ち帰った物を整理しましょう」
「ああ、それもそうですね」
モルモットの死骸の解体は、やっぱり存在するらしい冒険者ギルドに任せ、木材の加工は元々それを請け負っていた建築ギルドへ、食料はお城の料理人に任せる。蔦の加工は自分でする予定だが支えの部分以外は細かい網目にした方が寝心地が良いそうなので服飾ギルドに大半を任せる事になった。モルモットの子供は王城のテイマー達の管理下に置かれるそうだ。
「これだけ振り分ければあとは大丈夫でしょう」
「それじゃ、出発します?」
「はい、付き添いの人数を最小限に絞ります」
元々少なかったメンバーが更に減った。王子が留守番になったからだ。付き添いは二人。元々のメンバーで森に一番詳しい男性騎士と、同性という事で選ばれた女性騎士だ。
「よろしくお願いします」
「「こちらこそ、宜しくお願い致します」」
大まかな方向は分かっているつもりだったが、やっぱり私はとんだ方向音痴らしい。時々方向を訂正されながらも、1時間も掛からないうちに目的地に着いた。
「じゃあ目的の蔦と、木材も幾つか持ち帰りますか」