乙女ゲームじゃなくて、イケメン収集型のスマホゲームに転移しました。
2018.08.08
乙女ゲームはしないけど、イケメンな絵が好きなので。
まるで地の底に引きずり込まれるように日本を、地球を去って、異世界に転移した。
「は?」
目の前には褐色の肌に赤い髪、そして紫の瞳を持ち民族衣装を少し豪奢にしたような特徴的な服を着ている美青年が立っていた。
「(紫って、現実にはない目の色だっけ?)」
「お前、まさか・・・浄化の姫、なのか?」
はて、浄化の姫。どっかの乙女ゲームに出てきそうな名称だ。
そう考えると、目の前の美青年は乙女ゲームの攻略対象としてありそうな風貌だ。
「もし、もしそうなら・・お願いだ!助けてくれ!!」
話が全く見えてこないので返事をしていないのだが、美青年はそんなことにも気付いていないのか、お構いなしに身の上を話し始めた。
「俺は、エジプタ王国の王子、ラムセスだ」
「(なんか、こう、乙女ゲームみたいな展開だなぁ)」
どうやら今は世界の危機らしい。この世の不浄が実体化し、人を襲っているそうだ。その規模は時が経つ程に大きくなり、各国の王族に連なる者がその対処に追われているらしい。
「王族自ら問題に取り組む姿勢は素晴らしいかと思うのですが、国軍やその他の貴族は如何したのでしょう?ラムセス王子はもしかして一人で行動為されているのでしょうか?」
「国軍は自国の都市防衛で手一杯なんだ」
「護衛もいらっしゃらないので?」
「私の継承権は低い。単独行動は昔からしているから慣れているんだ」
それでも普通はお付きの者が1人くらいはいた方か良いのではないだろうか。確かに身形は綺麗だしどことなく教養があるとは思うが、王族なのかと問われて間違いなくと言えるような服装ではない。単独行動と言っているし、一応変装しているという事だろうか。
「そもそも、なぜ私がその浄化の姫だと?」
「ここは浄化の姫を司る神殿だ。姫は異界の者だと言われている。君は見たところこの辺りの者ではないだろう?」
「さあ、どうなんでしょうか。気が付いたらここにいたので・・まだ現状を理解できていないんです」
にっこりと微笑み先を促す。
「この神殿にはなぜ訪れたのでしょうか?」
「元々、各神殿を調査して回っていたのだ」
「ここは貴方の国の神殿なのですか?」
「・・違う」
ばつが悪そうに言い淀む。
「ここはアネモネ王国の放棄された神殿だ。今はここに訪れる者はいないと聞く」
「どうしてそんな場所に?」
「今はまだ各国によって被害の差が大きい。アネモネ王国は精霊の加護もあって被害が少ない地域なんだ」
「だからあまり真剣に取り組んで下さらないという事でしょうか?」
「有り体に言えばな」
つまり中々調査を進めないアネモネ王国に痺れをきらせて乗り込んだという事だ。これバレたら外交問題じゃないのか。
「その、密入国ですか?」
「まさか!ちゃんと許可は取っている」
許可を与えたにしても、普通は監視の1人くらいは付けるんじゃないか。国家の対応としてどうなんだろう、それ。平和ボケというレベルではないのでは?
「そうなんですね。でも私、その浄化の姫とかいうやつじゃないと思いますよ」
「自覚がないだけじゃないのか?」
「そうなんですか?」
「・・神獣はいないのか?」
「神獣?」
「ああ、そうだ」
神獣とはどうやら浄化の姫を導く存在らしい。犬くらいの大きさで人語を理解するという伝説が残っているそうだ。
「見ての通り、いませんね」
「・・神殿が朽ちたことによる影響かもしれないな」
「関係あるんですか?」
「分からない。だが浄化の姫でないからと君をお前置いて行く事もできないからな。ここで一晩過ごそう」
「王子が1人で野営なんて出来るんですか?」
「俺は1人で動く事の方が多いからな。それに王子と言っても継承権なんて無いに等しいからな。野営は慣れてるんだ」
その言葉に嘘はないようで、ラムセス王子は手慣れた様子で野営の準備を整えていく。手伝うと申し出れば、枯れ木や枯れ葉を集めるように頼まれた。
(なんか現実感ないなぁ)
燃やせる枯れ木を見つけるのは案外難しい。ちゃんと乾燥しているものでないと燃えにくい割に、地面が湿っているからだ。使えない訳じゃないけど、ある程度確保しておかないと後々困るのは自分だ。
(本当に転移なら、ゲームとかアニメかな?それとも何にも関係ない異世界とか?)
乙女ゲームのキャラのようなイケメンのラムセスが相手なので精神的にも落ち着いている。何か間違いがあってもイケメンなのでまあ諦めもつく。何もなければ何もないで良いしね。
(慣れてるって言ってたし、取り敢えずこの森で野垂れ死にはなくなった訳だし、出だしは順調かな)
ラムセスが悪人ではないとあう確証はないが、どの道今は頼るしかない。ここがどんな世界なのかはよく分からないし、人里までは大人しくしておくのが得策だろう。
そんな心配を余所に町には2日で辿り着いた。
ラムセスは身分を隠しているらしく、旅人として町の宿に泊まる。




