魔憑きと言われて
良くある異世界転生の一定年齢覚醒が実際にあればこんな感じになりそう。という発想から。
魔憑きという言葉が定着している程度には周知された現象になった世界という設定。
気が向いたら定着前の話も考えたいなぁ。
これは、隠さなくてはならない真実だった。
「ちが・・私は、マリアンヌよ!」
「ああ・・・わたくしの可愛いマリアンヌ、どうして・・どうしてこんな事に・・・」
「信じて、お母様!」
「わたくしを母と呼ばないで!この化け物!!」
愛があるからこそ、私は受け入れられなかった。
考えれば、簡単な事だ。ある日突然、自分の愛する子供の意識が変わってしまえば、毎日一緒にいたのだ。それくらいの変化は簡単に見つかる。愛があればなおさら、その変化に敏感であるに決まっているのだ。
◆
あの日、まるでお決まりの物語のごとく、私は熱を出して前世の記憶とやらを取り戻した。
今生の意識はなりを潜め、乗っ取るかの如く前世の意識が体を支配している。そう、本当にのっとっているかのように。本人でさえそう思うのだ。何が起きたのか訳の分からない家族はまさに乗っ取られたと思っても仕方がないだろう。記憶はあるのだ。本来の性格から大幅に外れた行為は、別人になり果てたと判断されるのに十分な理由となる。
当の本人である私でさえ、記憶ごと奪って取り憑いたのか、ただ記憶がよみがえっただけなのか判断するのは難しい。
「でもだからって・・」
体は実の娘のものだ。何も幽閉しなくてもいいではないか。そう思わずにはいられない。
食事の質は覚醒後も前もそう変わらない。娘の体を慮っているのだろう。今からでも今生のマリアンヌのように振舞えばここから出る事が出来るのだろうか。
「食事です」
「・・・」
食事を運んできたのは使用人だ。
おそらく、マリアンヌであれば幽閉されている鬱憤をこの使用人で晴らす。言葉でなじり、その体をいたぶる事を微塵も悪い事だと思ったりはしない。
ほら、食事には丁度良さげな熱々のスープが付いている。このスープを使用人の手にたらし、動く事を禁止し、徐々に顔に近づけていけば、程よい罰になる。マリアンヌはそれくらいの事を簡単にやってのける程度には残虐性を持つ少女だ。
「(出来るわけがない・・)」
それに一度感じた違和感を拭うのはかなり難しい。
「(馬鹿だ私・・どんなに良くなろうと、子供が突然他人になったら恐ろしいに決まってる・・前世でもこの状況に似た病気があるくらいなのに、受け入れられる訳がない・・)」
あれは何のマンガだったか、殆ど行動は同じなのに母親は機敏に違和感を感じ取って恐れていた。父親は気付いていなかったけど。ああ、思い出した。顔を取り替える事が出来る話だった。
そういったマンガはいくつかある。入れ替わりが真実であっても、有り得ない事を信じる者はいない。大抵はそれに気付いた者が精神病扱いされて終わる。何という病名だったか。
「お母様とお話ししたいわ」
「・・・お伝え致します」
母との面会は叶わなかった。
母は徹底的に私を避けた。父は母の戯言だと歯牙にも掛けていない。ただ私が少し大人になっただけだと思っている。そんな父に娘が何かに乗っ取られた等と訴えても、ただ母が精神病を疑われるだけだ。それが分かっているから、母の母は私を避けるのだ。
私をただの政略結婚の為の子と思っているだけの父に、結果的に助けられたのだ。父にとっては、中身が違っていようが今の方が都合が良い。
「最近、よく励んでいるそうだな」
「はい、洗礼式も終わりましたから」
前の私は両親の前でだけ良い子であった。
けれどそれ以外では残忍で狡猾な、まるで悪魔のような子供だった。多分父は、そんな本来の姿に気付いていた。母は知らないはずだ。
「期待している」
「ありがとうございます」
「必要なものはあるか?」
「ございません」
「そうか」
満足気な父の表情に、回答が間違っていないのだと安堵する。
父に有益である限り、私はこの家に存在することを許されるだろう。




