宇宙大戦の人間兵器
◆
「別に、誰かがそれをしなくちゃいけないなら、別に私がしてもいいかなって」
只毎日いつ死んでも後悔が少ないように生きてきた。
特別な経験をしたわけじゃない。ただ毎日を楽しく生きていたかった。その為にはそう生きるのが一番楽だといつからか思うようになっていたのだ。
「死にたかったの?」
「・・そういう訳じゃない。死んでもいいけど、やりたい事全部したわけでもないから、生き残るつもりではあるよ」
生きる事が嫌な訳じゃない。只、他の人よりも死ぬときの未練が少ない気がしたのだ。
「戦争って、なくならないのね」
人の本質は争いの中にこそ、あるのかもしれない。
◆
「まさか生体兵器の適合者がほぼ女性ばかりだとはねぇ・・・」
「女性の体の方が柔軟性があるのよ」
◆
「私、人が命を掛けて何かを守り戦う姿が好きなの。でもね、お互い別の何かを守りたくて戦っているのは、とても悲しい事だと思うわ」
「だから、自らを共通の敵となるように仕向けたのか?」
「どうだと思う?」
分からなくていい。分かる必要なんてないのだ。
多分、誰かしら親族が存命していればこの選択はしなかった。私は親族と関わらない選択をする事はあれども、邪険にするという選択は出来ない。しないのではなく出来ないのだ。
私は個々に対する情が薄い分、親族という血の繋がりのある存在というものを無碍に出来ない。だからこそ、誰か一人でも親族と呼べる者がいれば今の私は存在し得なかった。
戦争で全て亡くしたからこそ、今の私がここにある。世界の敵という存在を選んだ自分が。
◆
「生きていても、死んでいても、どっちでも良い。ただ、私は自分が生きる為に頑張れない分、誰かが生きる為に足掻いている姿が好きなんだよね」
◆
最初は、力がないから逃げられなかった。
今は、貴方に力があることを知られたくないから逃げられない。
「いつか、この罪の報いを受けるのだと思っているわ」
巡り巡って、その行いは何かしらに作用する。
周囲から見れば、それは報いだと感じない事かもしれない。もしかすると、本人でさえ報いであるのだと感じないかもしれない。それでもその報いは、正常であれば報いに足るもので、それに気づくことができなくなっている時点で、本人は人間としての何かを失っているという事だろう。
◆
私はたぶん、とても情に疎いのだと思う。
多分、この人は私の為を思って言っているのだ。このままでは私の将来はないと思って、こうしてわざわざしなくてもいい忠告を、この人は反感を買うと思っていてもしているのだろう。
そこまで予測している、わかっているのに、私は何も感じない。
するすると肌を滑るように言葉が流れていく。言葉が心に届かない。それはもう私自身どうしようもない事だった。ただ私の為を思っての忠告なのだから、一応はこの人が傷付かないように配慮する心掛け程度なら私にも備わっている。
「・・・ありがとうございます」
一通り言い分を聞いて、まずはお礼を述べる。
だからと言って、言葉が続くわけではない。この人が言っているのは夢のまた夢のような話で、一切の現実を直視していない現実逃避と言える。
すでにことは起きてしまって、そして私はそれに深く関わっている。それは今更なかった事には出来ないし、誰かに許してもらおうなんて都合の良い事も考えていない。
つまり口から滑り落ちそうになっている言葉は「余計なお世話」以外の何物でもないのだ。
「・・いただいたお言葉は持ち帰って検討します」
人当たりの良い笑みを浮かべて言葉を述べると同時に、一礼をしてその場を立ち去る。
「え、ちょ、待ちなさい!」
「ここですぐにご返答を望まれるのですか?残念ながらすぐに答えを出せる簡単な問いではありませんし、もしそのご忠告を受け入れるのであれば解決しなければならない問題がいくつもあります。答えを出すには幾何かの時間がかかるでしょう」
忠告を受け入れる可能性は限りなく低いが、受け入れない場合にこの人が納得できるだけの答えを用意しなくては同様の忠告をしつこくされる事が懸念される。ならばこの人が納得せざる得ない理由を幾つも提示してやればいいだけだ。
私は忠告を受け入れようとこれだけの事を考えたのですが、これだけの問題が出てきてこれはこういう理由で解決できず、忠告を受け入れる事が出来ません。と言ってしまえばこの人を軽んじた事にもならないはずだ。




